2. 望遠鏡の聖域――触れる指先と、レンズ越しの不穏な静寂

「……埃、立てないで」


 望遠鏡を庇うように、先輩の指が筒を押さえる。

 その動きが胸の奥をざらつかせる。


 ──中学の頃、先輩がレンズに触れようとしたとき、

 私が手を伸ばして止めたことを思い出す。

 望遠鏡の扱いだけは、あの頃の私の“誇り”だった。


 今は違う。

 先輩の手が、私たちを遮っている。


 イサムが苦笑いを浮かべる。

「え、そんなに気にします? ちょっとくらい──」


「ちょっとで曇る」

 先輩の声が鋭く落ちた。

「レンズに入ったら、終わり」


 イサムが言葉を失う。

 先輩は一瞥すらしない。

 レンズの縁をなぞる指先が、異様にゆっくりだった。

 埃を払うような、慎重すぎる動き。


 胸の奥がじわりと熱を帯びる。

 イサムに向ける声より、望遠鏡に触れる指先のほうがずっと柔らかい。

 その落差が喉の奥をひりつかせる。


 声を出そうとしたが、舌が張りついた。

 先輩がレンズを覗き込む。

 睫毛が光を拾い、揺れる。

 視界がわずかに滲む。


 先輩の指がようやく望遠鏡から離れる。

 空中で震えが残る。

 その名残の動きに、胸が焼けるように熱くなる。


「「入部させてください!!」」


 声が重なった瞬間、

 先輩の視線は──私たちではなく、レンズの奥へ吸い寄せられていた。


 胸の奥が、きゅっと痛んだ。

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