憧れの勇者になりたくて~最強魔王、人間に転生する~
@smallwolf
プロローグ
「クソッ……ここまでやっても傷一つつけられねえのかよ……」
「絶望的……ですね」
「あきらめるんじゃないわよ! ここまで来たんだから……私たちは絶対に勝たなきゃいけないのよ!」
「はいっ! 絶対諦めません!!!」
誰もが傷つき、今にも倒れそうなくらい疲労している。
そんな彼ら四人は、人々から勇者パーティーと呼ばれる存在だった。
この世界の人々の期待をその背中に背負っている勇者パーティー。
彼らはこの場に居ない人たちの力も借りて、そうして数多の奇跡を起こし、今は魔王との直接対決まで漕ぎつけていた。
そうして積み上げてきた物があるからこそ、こんな絶望的状況だろうと、勝ち目がなかろうと、最後まで絶対にあきらめない。
その姿がこの僕、魔王ダリウス=ノクトの目にはとても眩しく見えて仕方がなかった。
「くくくく。いいねぇ。その気概、本当に君たち人間は面白い。こんな絶望的状況でも諦めない君たちがまぶしくて仕方ないよ」
戦いの最中だというのに、自然と笑みがこぼれる。
「ハッ。馬鹿にしてくれるじゃねえかっ!! 俺たちなんか相手にもならねえってかぁ?」
勇者パーティーの中の唯一の男性、勇者が苦し気な笑みを浮かべ、叫ぶ。
ふむ。どうやら誤解させてしまったらしい。
僕は諭すように間違いを指摘する。
「馬鹿になんかしていないさ。僕は君たちのその光をこよなく愛しているんだ。
仲間と協力してなにかを成す。誰かを信じて、後を託す。託された想いだからこそ、それに報いるために実力以上のものを引き出す。自分より強力な敵に、それでも立ち向かう」
そういった、いわゆる人間らしい光の数々。
数えきれないくらいの光。それらを僕はこう評する。
「とても素敵なことじゃあないか。僕たち、魔族にはないものだ。
だからこそ、僕にはその光がとても愛おしく感じられるんだよ!!」
なにせ僕たち魔族の多くはそんな生き方、できやしないからね。
誰かと協力することなんかできっこないし、誰かを信じるなんてもってのほか。
実力以上の力なんて、どうやっても出せない。
自分より強大な敵が現れたら、迷わず死か服従か、あるいは逃走を選ぶ。
当然だ。
だって、自分より強い相手にはどうやっても勝てないんだから。
より強い力には、ただ従うだけ。
強者はそれだけで何をやっても許される。それが魔族の世界だ。
そんな世界で、僕は魔王と呼ばれている。
別に魔王になりたいから血の滲むような努力したとか、そういうドラマはない。
単純に、僕が魔族の中で一番強かった。
それだけだ。
先代魔王の子として生まれた僕はなんの努力もしないままでも、魔族の中で一番強かったというだけの事。
僕の人生にドラマなんてない。
誰も僕に逆らわず、媚びへつらうばかり。
反抗的な目を向けてくる同族は居ても、少し睨み返したら腰を抜かしてそそくさとその場を去るやつらばかり。
心底、つまらないと思う。
それに対して、人間達のなんと素晴らしいことか。
特に勇者と呼ばれる者達。
彼らは決して、あきらめないんだ。
あきらめずに向かってきて、倒されても倒されても立ち上がって、しかもそのたびにどんどん強くなる。
仲間のために。みんなのために。
実力以上のものをぶつけてきてくれるのだ。
そんな彼らの姿を見ていると、どうしようもなく胸が熱くなってくる。
渇いた人生を送ってきた僕だからこそ、そんな彼らを見ているとどうしようもなく心が震えてしまうのだ。
だから──
「さあ。君たちの光をもっと僕に見せてくれ!! まだまだこんなモノじゃないんだろう? 勇者というのはこの程度であきらめたりしないんだろう?
これまで僕が倒してきた勇者みたいに、戦いの中で強くなってごらんよ。
明日のために、平和のために、邪悪な魔王である僕を討ち果たそうと努力してみなよ。
さもないと、僕ら魔族はこれからも人間を殺し続けるよ? 僕らにとって人間はおいしい食料であり、長く楽しめるオモチャでもあるからねぇ」
「やろぉ……」
「なんて邪悪な……」
「最っ低」
「っ……」
勇者パーティーの面々が僕を憎々しげに睨みつけてくる。
そうして足を震わせながら、ゆっくりと立ち上がろうとする。
けれど、まだだ。
彼らを奮起させるために、僕は今思いついたかのようにお決まりのセリフを告げる。
「ああ、そうだ。君らがもし僕を倒せなかったら、君らの家族とかそういうのを同族たちに殺させようかなぁ」
「な……んだとぉ!?」
これまでとは一変。より激しい怒りをその瞳に浮かべる勇者。
思った通りだ。
僕ら魔族にとって家族なんて特に大事な存在じゃない。
けど。
「こう言えば君ら人間、特に勇者の君はやる気を出すんだろう?
大切な人を守るため。そのためならなんだってできるんだろう?
だからほら。なんだってしてごらんよ。遠慮せずに、この場で奇跡を起こして見せるといいさ。僕も楽しみにしてるから。
くふふふふふふふふふふ。アハハハハハハハハハハッ!!」
「……上等だぁっ!! てめぇみてぇなクズ、生かしちゃおけねえ!
この場で俺がぶっ飛ばしてやる!! その為なら奇跡の一つや二つ、この場で起こしてやるぁ!!」
「奇跡……ですか。ええ、ええ。わかりましたよ。そんなに奇跡を起こしてほしいなら、起こしてやりますよっ!!」
「負けられない……私たちは負けられないのよ。だから……行くわよ、みんなっ!!」
「絶対に……負けませんっ! みなさんの事は、私が守りきってみせます。だから……思いっきりやってください!!」
瀕死の状態だった勇者パーティー。
そのはずなのに、全員が立ち上がってこの僕に立ち向かってくる。
これまでの戦いで、もう勝ち目などないと普通は分かるはずなのに。
もう倒れても不思議じゃないくらいの傷を全員が負っているはずなのに。
それなのに、全員がこの僕を倒そうと吠えている。
ああ、なんて。なんて。
なんて眩しいんだ!!!
「あははははははっ!! そうだ、そうだよ! それでこそ人間。それでこそ勇者様だ!! ああ、眩しいなぁ。妬ましいなぁ。はは、アハハハハハハハッ!!!」
そうして、僕は勇者パーティーとの戦闘を継続した。
もちろん、手は抜かなかった。
彼らの光を目の当たりにして、そんなことできるわけがなかった。
普通なら数秒、長くても数分で決着がつく戦い。
なのに、数時間が経過しても勇者パーティーは誰も脱落しなかった。
勇者と呼ばれた男は通じないとわかっているはずなのに、何度も何度もその拳を振るい。
魔術を扱う少女はすでに魔力も尽きかけているだろうに、その詠唱を止めない。
剣を振るう少女は満身創痍だというのに、勇者と連携して果敢に僕に斬りかかり。
盾を構えた少女は僕の攻撃を受けて何度も倒れるが、何度でも何度でも立ち上がってきた。
もうとっくに勇者パーティーの誰もが限界の状態だった。
いつ倒れても、気を失ってもおかしくない状態。
それなのに。
ああ、それなのにっ!!
「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」
「「やああああああああああああああああああああっ!!」」
どうして、誰もあきらめないのか。
それに、それにだ。
どうして、その威力を徐々に増しているのか。
「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
勇者がその拳を振るう。
そのたびに、その拳に宿る輝きが増していく。
そうして。
バキッ──
「………………おや?」
鈍い感触。
懐かしい、とても懐かしい感触。
これは……痛み?
見れば、僕の外殻がひび割れている。
今までは僕の固い外殻に覆われた肉体に弾かれてばかりだったはずの勇者の拳が、ついに僕の肉体にダメージを入れたのだ。
当然、この程度じゃ僕は倒せない。
この程度の傷は数秒あれば自然に治癒される。
痛みに関しても、僕ら魔族は痛みに強い耐性を持っているから特に気にならない。
けれど。
「………………はっ!」
顔が歪む。
ああ、本当に。これだから人間は面白い。
君らは今、満身創痍の状態のはずだろう?
本気の僕の攻撃を必死に避けて、受けてさ。
もう立っているのもやっとの状態のはずだろう?
それなのに、どうしてまだ倒れない?
いや、倒れないのは百歩譲ってまだいいとしよう。
それよりも不可思議なこと。
それは。
(どうして君たちは……戦っている最中に成長するんだい?)
今まで僕が倒してきた勇者たちもそうだった。
家族のために、愛する人のために。
そう彼らが吠えると、どうしてか彼らはそれまでよりも明確に分かるくらい手ごわい存在になるのだ。
この勇者たちもそうだ。
さっきまで僕に傷一つ付けられなかった程度の強さだったはずなのに、僕に傷を負わせた。
さっきまで僕の一撃で全滅しかかっていた程度の強さだったはずなのに、僕がどれだけ本気で攻撃してもしぶとく生き残っている。
不思議だ。
理解できない。
ああ、理解できないからこそ。
「く……。はは……。ハハハハハハハハハハッ!! 最っ高だ! 本当に最高だよ君たち人間はぁっ! 想い一つでこうまで変わるなんて。どれだけ君たちは眩しくなるつもりだい? まるで太陽じゃないかっ!! 僕の目を、僕の心を、どれだけその光で焦がせば気が済むのさぁぁっ!」
さっきから僕の眼前で披露される数々の奇跡と呼ばれるような現象。
それを起こすのは、多くの魔族が劣等と嘲る種族──数だけは多いが、脆弱な者たち。
その名は、人間。
僕ら魔族の目には、彼らの多くがただ『吹けば飛ぶような存在』に映る。
けれど。
「おう、そうともぉっ!! 愛する家族の為。愛する誰かの為。その為なら人間はどこまでもどこまでも強く、輝けるんだよぉ!!
だから、どこまでもこの光で焦がしてやるさ。どこまでもどこまでも輝いて、必ずてめぇを倒す!!
人間バカにしてっと痛い目見るぞ。魔王ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
「そうですっ! あまり私たちを……人間を舐めないでくださいっ!!」
「望み通りどこまでも輝いてやるわよっ! だから、とっととくたばりなさいっ!!」
「守る……私がみんなを守るんです。みんななら、きっとやってくれる。信じてるんです。だから……何度倒されたって、私は立ち上がってやるって。そう誓ったんですよっ!!」
全員がそう吠えると、途端に勇者パーティー全員の動きが変わる。
勇者だけでなく魔術師の少女の攻撃や、剣士の少女の攻撃までもが強力なものとなっていき、僕の外殻が徐々に剝がされていく。
逆に、僕の攻撃は盾の少女に完璧に防がれてばかりで、もはやダメージをまともに与えることすらできなくなる。
極め付きに勇者だ。
その拳を覆う光はドンドン光量を増していき、その拳から僕に与えられるダメージは無視できないものとなりつつあって。
「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」
「「やああああああああああああああああああああっ!!」」
気づけば既に勇者パーティーの攻撃の威力も、防御の固さも、動きの速度も、そのどれもが戦闘開始時点とは比べ物にならないほどに向上していた。
しかも、それらは天井知らずに留まることを知らずに向上を止めない。
まさに、想いがあればどこまででも輝ける、強くなれるというやつだ。
彼らは必死に戦いながら叫ぶ。
負けられない。こんなところで負けるわけにはいかない。
あの人が、あの人のために、みんなのために。ここまで俺たち私たちを導いてくれた人の為にも負けるわけにはいかないと。
だからこそ。
「君らこそ……僕を舐めるなぁぁぁぁぁぁっ!!!」
彼らがそんな眩しい光を放つからこそ、僕もそれに応えたくなったんだ。
「負けられない。こんなところで負けるわけにはいかないんだよっ!」
彼らのように僕も吠える。
負けるわけにはいかないと吠える。
彼らのような輝きを放ちたくて、そうして光をぶつけ合わせたくて、吠える。
「僕だってなにかの為に……僕は……………………………………………………あ?」
そこでようやく……気づいた。
──────無い。
誰かの為だとか。僕を導いてくれた誰かの為だとか。ましてや愛する人の為だとか。
そんなもの、ただ魔王の息子として生まれたから魔王をやっているだけの僕には無縁のものだった。
これまでの僕の道のりに障害と呼ぶべきものは何もなかった。
愛する人も、世話になったと感謝する人もいない。
誰かの為にと奮起する心どころか、あっさり手に入ったこの地位を守るために奮起する心すらなかった。
だからこそ、僕は彼らのように輝けない。
形だけ吠えてみても、すでに本気を出している僕の強さは何も変わらないまま。
結果。
「これで終わりだ、魔王ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
目もくらむほどの光をその拳から放つ勇者。
その拳をまっすぐにこちらに向けてくる。
ああ、彼らの光のなんて眩しいことか。
それに比べて、僕ときたらなんとつまらない存在なのか。
ああ、もう、本当に。
その光があまりにも綺麗で、美しくて。
僕にない光を持つ君たちがまぶしくて、美しくて。
だからこそ……妬ましくてしょうがない。
「く…………はは…………ああ、初めて誰かを憎いと思ったよ。ふ、ふふ。アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」
僕が望んでやまないものを持ってる勇者が羨ましすぎて、恨めしい。
そんな勇者の光に恋焦がれ、焦がされて、最後の最後まで心を焦がされて。
そうして。
その日、僕、魔王ダリウス=ノクトは滅んだ。
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