第3話 スキル、強化!

 まだ、スライムを一匹斃しただけで、他の魔物を見つけられていない。鳴き声や、音のする方向へ向かっているのに、私が着く頃には逃げているのか、出くわすことができなかった。


「少しお腹が空いてきたなあ。食べられる魔物が出てきてくれないだろうか?」


 ボソッと呟く私に子猫が頷くと、私から離れて木の上に登った。なぜ? と思った瞬間、白い魔物が私の前を横切った。その瞬間に【図鑑】が現れ、画面を見ると、『一角うさぎ』と表記されていた。


『毒:なし。ただし、角で突かれると痺れることがある。素材:角、毛皮。急所:心臓。斃すと、自然回復魔法(自動スキル)が使えるようになり、自然回復力が1上がる。食用だが、もも肉以外は美味しくない【詳しくはこちら】』


 私はためらわずに【詳しくはこちら】をタップした。


『自然回復魔法:数値は、現在の体力を千として、1上がるとは、体力全体の千分の一が一時間に1回復することをいう。捌き方:角を抑え――。調理方法:内臓を取り出し、綺麗な水で洗い流してから――』


「おお、回復力が向上するのは便利そうだ。次のスキルはやはりモザイクか。さっき斃した、スライムの【図鑑】を見てみるか」


『跳ねて攻撃してきます。核を壊してください。食べられません。残り百匹斃すと、綺麗な水を出せます(飲料水)。現在のスキル:水魔法が使えます。【詳しくはこちら】』


 お、変化があったな。次は百匹斃すとスキルが上がるのか。【詳しくはこちら】も変わったのだろうか?


『毒:なし。素材になる部位:なし。食用ではない。次のスキル:水魔法で綺麗な水を出せる(百匹斃してください)』


「なるほど、スライムでは水魔法のレベルが上がるみたいだな。この上が気になるが……。攻撃魔法はまだ当分先になりそうだ」


「ふぅ」と小さく息を吐いて、少し離れた場所にいる一角うさぎに視線を向けた。さっきと一緒では、逃げられてしまうだろう。どうやら私の反射神経は、この小さな魔物たちにも及ばないらしい。仕方ない、私も木の上に登ろうか。飛び降りるスピードのほうが、飛びかかるスピードよりは速いだろうと踏んだ私は、近くにある大きな木に登り始めた。


 この大木は、思ったほど高さを感じなかった。小さい頃は、どこにでも登ったからなあ。もしかすると、心が幼少期の自分に戻ろうとしているのかもしれない。


「まあ、それでも困らないさ。私は今、おそらく七歳か、それくらいの年齢だろうからね。もう少し、子どもらしくしていないと、不自然かもしれないね」


 私は大木の上で、一角うさぎが真下を通るまで、じっと待ち構えるのであった。


 ★★★


「今だ!」


 私は一角うさぎの真上から飛び降りた。少し遅かったが、短剣は一角うさぎの背中から、お腹を突き抜けた。二時間待って、やっと斃したのだが、これからこれを捌いて、さらには調理しなければならないのだ。さっきの説明では、綺麗な水で洗い流すとか書いてあったが、近くに川でも流れていなければ、食事にありつけないのでは? 絶望したいところだが、魔物は放置すると、他の魔物が寄って来るらしく、素早く処理するようにと書いてあった。


「仕方ないなあ……。とりあえず、角と――毛皮は難しそうだね。さて、どうしようか……」


 立ち止まるわけにもいかず、角だけは説明通りに取り出すことができた。さて、どちらにしろ、皮は剝がなければ。決死の覚悟で皮を剥ごうと短剣を一角うさぎの胸元に向けた瞬間、誰かに呼び止められた。


「ああっ! ちょ、ちょっと待って、ねえ、君! これから皮を剥ぐのかい? ここでやっちゃ駄目だよ! あれ、君、すごく小さいね。子ども? 今、いくつかな?」


 驚いて顔を上げると、金髪の美丈夫が私を見て慌てていた。

 

「ここで捌いてはいけませんでしたか? 申し訳ありませんが、どこで捌けばいいのか、教えていただけますか?」


 私は社会人として、ちゃんとした言葉遣いを心掛けている。丁寧にお願いしたはずなのだが、金髪の美丈夫は答えてくれない。なぜだろうと、私は彼の顔を覗き込んだ。


「ねえ、君は貴族の子かい? なぜ、こんなところで狩りの真似事なんてしているんだい?」


 私に見つめられて困った顔をした金髪の美丈夫は、私に質問してきた。私が先に質問をしたというのに。まあいいでしょう。中身は五十五歳のオジサマですからね。若い美丈夫が多少失礼でも怒ったりしませんよ。


「私に親はおりません。なぜかこの森の手前で、この格好をして倒れておりました。今は、お腹が空いたので、このうさぎを捌いて食べようと思っているところです」


「そ、そうなんだね。君はとても度胸があるんだね? 普通だったら、言葉も話せるんだし、幼いのだから、大人に保護してもらおうとは思わなかったのかい?」


「――あっ!」


 一拍おいて、言われていることを理解した私は呆れてしまった。短剣すら重いと感じるのだから、私はきっとまだ十歳にも満たない子どもの見た目だろうと、数時間前に考えていたはずなのだ。


「……たしかに、そうですね?」


「ええ……」


 金髪の美丈夫に諭され、私は一旦、近くの街に行ってみることにした。この世界では、子どもがさらわれたりしないのだろうかと、今気にするべきではないことを、なぜか延々と考えながら、彼の後ろをついて歩くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る