第5話 悪食の暴れ鳥の移動ルート
僕はこれまでの“悪食の暴れ鳥”の移動ルートと食してきたものを資料にまとめて考えていた。
ここになにか法則性があれば奴が北ランス自治国に入ってきた時のルートを考えられる。
僕は奴が食べてきたものに注目して、ある仮説を立てた。
そして、その仮説を基に次に奴が通るルートを推測して、その内容をシドに話すことにした。
「丁度1時間か。ジーン。なにか作戦を思いついたのか?」
「ああ。僕は悪食の暴れ鳥はかなりの偏食だがバランスの取れた食事を有すると考えている」
「なんだ? その矛盾しているような言い方は?」
僕もその言葉を聞いた側なら同じようなリアクションをしただろう。でも、そう言うしかないのである。
「例えば人間は1日の食事でバランス良くものを食べるだろ? でも、1回の食事単位で見れば偏食することもある」
「まあな。ジャンクフードで栄養が偏ることもあるか。俺もハンバーガーを3個くらい食ったことあるしな」
「悪食の暴れ鳥は常にその状態なんだ。1日の食事でずっと同じものを食べ続ける。でも、最終的には栄養をどこかで調整する必要がある。人間が数日単位で栄養のバランスを整えるのに対して、悪食の暴れ鳥は数週間単位の食事で総合的にバランスを取るものだと思われる」
「その根拠は?」
僕はこれまでのやつの行動履歴を洗い出した資料をシドに見せた。
だが、これだけではシドも理解できないので、僕は補足説明をする。
「これが悪食の暴れ鳥の進行ルートと確認されている被害だ。まずここ。精肉店にて肉が大量に食われている。その日は奴は憎しか食っていない。続いて畑にて同じ種類の野菜ばかり食べている。これで栄養を調整しているのだろう。ここまでは進行ルート通りだ」
僕は悪食の暴れ鳥が真っすぐ向かわずに寄り道した地点までペンを走らせえる。
その寄り道した先にはナッツ類が自生している地点があった。
「奴はまっすぐ進むと見せかけて、ここで寄り道をしている。ここではナッツ類が食われる被害があった」
「なるほど」
「そして、次。これまた真っすぐ進んだと見せかけて寄り道して墓地に立ち寄りそこで墓を掘り起こして中の遺骨をバリバリ食った」
「ふむふむ。カルシウムを補強したかったということか?」
「恐らくな。そして、奴はこのまま真っすぐ進むと北ランス自治国に入る。だが、僕の予想では奴の栄養は現在偏っている状態だ。まっすぐ進まないだろう」
僕は地図上の奴の進行ルート周辺に大きな丸をつけた。
「恐らくこの範囲。ここで奴は必要な栄養素を偏食するために寄り道をする」
「なるほど。奴が欠乏している栄養素を特定すれば、奴の動きを捉えることは可能……と」
「うん。この周辺の主なスポットは、フォール牧場、サイドの瀧、ノウス鉱山、そしてインパの森の4カ所だ」
「ふむ。奴が食料を狙うとしたら牧場と森が怪しいな。瀧も魚を食べるとしたらありえるか?」
シドが推理を披露している。でも、僕の中では答えは決まっていた。
「シド。僕はここに張ってみようと思う」
「……そこか。お前のことだからなにか考えがあってのことだろう。なら、それに賭けてみるしかないか」
「うん。現状では悪食の暴れ鳥に勝てる人材はシドとアイシャくらいしかいないだろう……だから、張れるとしたら2人が分散して2カ所だ」
もっと冒険者の人数がいれば、主要スポット全部に人員を割けたはずだ。でも、中途半端な戦力はここで配置するわけにはいかない。
なら、アイシャがギリギリ合格ラインと言ったところだ。
「俺はどこに配置されても構わない。なら、アイシャの方に希望を訊いてみた方が良いんじゃないか?」
「ああ。そうする。アイシャに僕の考えを話して彼女に場所を決めてもらおう」
僕はシドと一旦別れて、アイシャを呼び出して事の経緯を説明した。
アイシャは僕の話を頷きながら聞いている。真剣な眼差しだったから僕も説明のしがいがあった。
「なるほど。ギルド長の言うことにも一理あるな。わかった。アタシはギルド長を信じてここで待つことにする」
「……意外だな。僕の推理を信じるんだ」
自分でも正直この説は怪しいところだと思う。
でも、アイシャは濁りがない真っすぐな目で心の底から僕を信じているように思えた。
「アタシはギルド長と違って学歴がないからよくわかんねーんだよ。だから、アタシよりも頭が良いギルド長のことを信じるしかねーだろ」
なんだろう。ここまで素直に信じられるともう少ししっかり考えてから推理を披露した方が良いかと思った。
でも、もう引き返せない。1度吐いた言葉は呑み込めない。こうなってしまっては、僕がしっかりしなくては。
上の人間たるものふらふらとブレているようではダメだ。どっしりと構えて自分の推測が合っていると信じるしかない。
アイシャとシドはそれぞれ自分が悪食の暴れ鳥が来ると思っている場所に待ち構えた。
シドは未知の冒険をするのは精神的にダメになるようで、戦闘をするだけなら大丈夫なようである。
今回のことで無理をさせてしまっているかもしれない。でも、この作戦が上手くいけばギルドの名が上がりシドの負担も減るだろう。
もっと冒険者を育てたり、雇ったりしてギルドの質を上げなければ。
僕はギルドの執務室にて作戦の成功を祈ることしかできなかった。
計算では悪食の暴れ鳥はそろそろ来る頃だ。頼む。アイシャかシド。どっちかに当たってくれ。
◇
ここに本当に悪食の暴れ鳥は来るのか。いや、アタシはギルド長を信じるって決めた。
なんとなくだけどあの人は信じて大丈夫な気がする。アタシの勘がそう告げている。
前職のやる気のないジジイに比べたら、あの人は若くてまだ情熱に溢れているように見える。
アタシの話を聞いてくれて、それでこの大役を任せてくれたんだ。
決してその期待を裏切るわけにはいかねえ。
ギルド長のためにも、そしてなにより弟のために……アタシはここで名を上げてやるしかないんだ。
今日の日暮れまでに悪食の暴れ鳥が現れなければ、作戦は中止だ。
現在は真昼。まだまだ日暮れまでには時間がある。
ただただ待っているだけというのも退屈だが、いつ来るかわからないという緊張感も同時にある。
アタシはこれまで野良犬を捕まえることくらいしかやってこれなかった。
でも、いつモンスターと戦っても大丈夫なように鍛えてきたつもりだ。
シドの野郎がアタシに偉そうに指導をしてきたけれど。
少なくとも言っていることは間違っているように思えなかった。
アタシは強くなっている。それは絶対に間違いないんだ。
だから……この脚の震えは止まってくんねーかな。
やっぱり賞金首となるモンスターはそれなりに強いと聞く。アタシの実力で本当に勝てるんだろうか。
今までギルド長に仕事を回せだなんて偉そうなことを言ってきたけど。
ここで任務を失敗したらアタシは良い笑いものだ。
だから、ここで絶対に負けるわけにはいかない。
悪食の暴れ鳥は絶対にここに来る。ギルド長の推理は間違っているわけがない。
ドドドドと前方から地響きの音が聞こえてくる。
この気配は……奴が来ているのか! 悪食の暴れ鳥!
地響きの音がどんどん大きくなってくる。遠方にいた豆粒のような小さな物体がこちらに近づいてくるにつれて大きくなってくる。
はっきりと肉眼でとらえられる距離にまで来た。物凄い勢いで黒くて翼が退化して脚が発達した巨大な鳥が迫ってくる。
アタシだって背はそれなりに高いけれど、アタシよりもでけえ。それこそ、背中の上に乗れるんじゃないかと思うくらいだ。
ギルド長。あんたの推理は間違っていなかった。
こいつが今まで食ってきたもの。ナッツ類や骨に含まれる成分には鉄分の吸収を阻害するものがある。
あの暴れ鳥は現在鉄分が不足している。だから、鉄の匂いにつられてここにやってくるだろうと。
この鉄鉱石がよく採れるノウス鉱山に――!
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