第4話 賞金首捕獲作戦

「なるほど。ほーん。賞金首モンスターを狙うという発想は悪くないな。管轄とか関係ないし、他のギルドの仕事を奪ったとか問題に発展し辛いし」


 シドが僕に同調してくれている。


 正直に言えば、他のギルドに依頼された仕事を横取りするようなことはできればしたくなかった。


 やはり各ギルドには管轄。つまり縄張りというものがあって、それを侵すとギルド間で問題になりかねない。


 ギルドは横のつながりもそれなりにあるので、1度他ギルドに依頼された仕事を横取りするのはあまり行儀が良いと言えないのである。


 だから、最初から全国のギルドに依頼されているようなものである全国指名手配モンスターを狙う。


 それが最も確実で誰も損しない良い方法なのである。


「だが、俺はこのモンスターを狙うのはオススメしない」


 シドは持っている手配書をひらひらと揺らして僕に見せつけてくる。


 そこに描かれているモンスターは大型の陸上を走る黒い鳥のようなモンスターだった。


 ギルドはこのモンスターを“悪食あくじきの暴れ鳥”と名付けている。


 この悪食の暴れ鳥はとにかく色々なものを食らう。農作物やら木材やら人間の死体すらも食べるモンスターだ。


 農作物の被害はもちろんのこと、このモンスターが通った山は木々が食い尽くされてハゲ山になったという報告もある。


 農家の人や木こりの人にとっては早く退治して欲しいものだろう。


 それにこの鳥は死体も食べる。それこそ、墓を掘り起こして既に骨となった人間もバリバリと食っている姿を目撃されたこともある。


 遺骨を食われた遺族にとってはたまったものではないだろう。


 そんなこんなで獰猛で実害があるモンスターとして指名手配をされていた。


 このモンスターはとにかく移動距離が長く脚も速いので滅多なことではないと捕まらない。


 最初に出没した地域から徐々に北上していっているのが確認されている。


 そして、現在の予測出現地は……まさにここ。北ランス自治国である。


 だから、僕としては迎え撃つ絶好のチャンスだと思っている。でも、シドはオススメしないと言った。


「シド。何故だい? このモンスターを討伐してはいけない理由でもあるのか?」


「いや、討伐できるならそれに越したことはない。だが、現実的ではないという話だ」


「現実的ではない。つまり、アイシャを始めたとした僕たちのギルドでは役者不足だと言いたいのか?」


 アイシャ達の実績と言えばそれこそ野犬の確保くらいだろう。


 しかし、他の4人はともかくアイシャはシドもある程度実力を認めているはずだ。


 それでも悪食の暴れ鳥を倒すには物足りないとでも言うのだろうか。


「こいつが最初に見つかった地域はかなり南にある。そこから北上してここの地域に来た。それは理解しているだろう。では、次になぜ危険なモンスターなのにここまで北上できたのか。なぜ討伐されなかったのか。そこを考えてみようか」


 シドは僕を試すように問うてくる。


 僕は冒険者の経験もないし、知識もない。でも、シドは僕が地頭が良いものだと思っている。


 理由を問われる問題で間違えるわけにはいかない。


 どうして、悪食の暴れ鳥が討伐されなかったのか。その理由を考えてみることにした。


「……最初の出現地はここより南南西にあるリリィウッド領だ。少し東にそれたものの大体北上しているな」


「ああ。そのルートをどうやって通ってきたと思う?」


「悪食の暴れ鳥は羽が退化していて飛べない。なら陸路で通ってきたはずだ……この険しい山を……?」


 リリィウッド領から北ランス自治国にはかなり高い標高の山で隔たれている。


 この山を登るのはかなり骨が折れることで、馬に乗っても1ヶ月ほどはかかるだろう。


 1ヶ月……僕は悪食の暴れ鳥が最初に発見されてから、ここの北ランス自治国に来るまでの時間を確認してみた。


「馬を使っても1ヶ月以上かかる距離をこの鳥は18日で渡り切った?」


「正解。逃げ足が速すぎて誰が追い付けるんだよ。こんなの。進行ルートを予測して包囲網を張れば捕まえることはできるかもしれない。でも、冒険者5人で包囲網作れると思うか? 常識的に考えて」


 圧倒的人材不足。


 そりゃそうだ。簡単に捕まるくらいならもっと早く捕まっているだろう。


 指名手配されるにはそれなりの理由があるってわけか。


 きっとどのギルドも人材が足りてないから、全国のギルドを結束させて倒そうっていうことで指名手配になったと考えるのが自然か。


「アイシャはたしかに実力は申し分ない。今はまだ粗削りだけど、将来的にはもっと伸びるはずだ。でも、アイシャ1人で倒せるようなもんでもないだろう」


「むむむ……たしかに」


「できもしない仕事をアイシャにぶつけて自尊心を潰すのは良くないぞ。あの子はまだ駆け出しだ、もっと楽な仕事で着実に自信をつけさせてだな……」


 シドの言うことも正しい。


 僕はアイシャの事情を知って焦りすぎているのかもしれない。


 でも、アイシャには病弱の弟がいて、その弟はアイシャの冒険話を楽しみにしている。


 アイシャだって弟にもっと逞しい冒険の話をしたいいに決まっている。彼女の顔にはそう書いてあったんだ。


 誰も捕まえられなかった賞金首をアイシャが捕まえた。その話を弟さんに聞かせてやりたい気持ちは僕の中で高まる。


「シド。少しだけ僕に時間をくれ。作戦を考える」


「ジーン。正気か? 冷静なお前らしくないぞ」


「ああ。1時間経って何もアイディアが浮かばなければ素直に諦める」


 正直に言えばできもしない仕事に執着するのは余計なコストがかかりすぎてしまう。


 それだったら別のできそうな仕事に舵取りする方が賢い。


 でも、もし僕の知能1つで不可能を可能にできるかもしれないのなら……僕はそれに賭けたい。


「わかった。せっかくお前が見つけた仕事だ。すぐに諦めるのももったいないよな。ここはお前の意思を尊重するぜ。ギルド長さん」


 シドは爽やかな笑みを浮かべて僕の肩をポンと叩いた。


 僕のことをギルド長として立ててくれてはいるんだ。


 僕の決定には絶対というわけではないけど、理解は示してくれている。


 そのシドの心遣いに感謝して、僕は作戦を考えるために資料を集めた。


 悪食の暴れ鳥の進行ルート。周囲の地形。それらを把握すればなにかが見えてくるはずだ。


 とても脚力が発達していて、逃げ足が速い暴れ鳥。そいつを捕まえさえすれば……アイシャならきっとやってくれるはずだ。


 この賞金首を倒せば、このギルドに凄い冒険者がいるって話題になる。


 そうすればアイシャにだって望む通りの仕事を与えてあげられる。そうすればこのギルドももっと大きくなって……


 だめだ。今は皮算用している暇はない。とにかく作戦を考えないと。


 悪食の暴れ鳥。こいつは南南西に現れてからずっと北上しているけれど、そのルートにはなにか理由があるんだろうか。


 わざわざ高い山を登ってまでここに来た理由がわからない。


 このルートの周辺の状況をもう少し調べてみる必要がありそうだな。周辺の農作物を張ってみるか?


 悪食……その名の通り、こいつは食料を求めていると考えるのが正しそうだけど……


 本当に何でも食うこの鳥が特定の食料を狙うとかあるのだろうか。


 なんでも食うんだったら食にこだわりがない。なら、この険しいルートを進む理由がない。


 偏食だったら食べ物を求めてって理屈もわかるんだけどなあ。


 食べ物説を推すなら周辺の被害状況も頭に入れないと……



 ダメだ。考えがまとまらない。時間だけが過ぎていく。


 このままだとすぐに約束の1時間に到達してしまう。


 うーん。せめて2時間って言うべきだったか。まあ、そんな後悔しても仕方ない。


 僕は僕にできるだけのことをやるまでだ。

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