第6話神の血
「――様、ご報告いたします。
我が弟、破紅(はぐれ)と穿鬼(せんき)。例の者たちに討たれたとのこと」
「……そうか。ようやく、動き始めたか」
低く、愉悦を含んだ声が闇の奥から響く。
「例の“物”は?」
「はい。こちらに」
「ガッ……ガッガッガッ……」
歪んだ笑い声が、広間に満ちた。
「よくやった。これでまた一歩――野望に近づいた。
皆を呼べ。今宵は宴だ」
「はっ!」
(我が弟たちよ……)
黒紅の瞳が、妖しく細められる。
(貴様らの無念、この兄――
黒天鬼(こくてんき) が必ず晴らしてやる)
(人間どもよ……
その命、我が手に渡る日まで、せいぜい大事に抱えておけ)
――この時、まだ彼らは知らなかった。
己の身に迫る“本当の脅威”を。
そして、志煌の運命を決定的に変える出来事が、すでに動き出していることを。
⸻
その頃、カナトたちは南方本部へと到着していた。
「……すごいですね」
志煌の声が、わずかに弾む。
「地下に、こんなに広い場所があるなんて……」
無数の足音、金属音、機械の低い唸り。
今まで聞いたことのない音が折り重なり、志煌の“世界”を塗り替えていく。
まるで――
新しい音の地図を手に入れたようだった。
「しかし未だに信じられないですねぇ。
志煌くんが、地上で暮らしてたなんて。ね!リーダ?」
「……俺と志煌くんは隊長の所へ行く。
お前ら二人は部屋に戻って休め」
「志煌くん、疲れてるところ悪いんだけどさ。
これから、俺たちの隊長に会ってもらえるかな?」
「はい!分かりました!
それにしてもここ、すごい人の声が多いですね。こんな場所、初めてです」
(僕は小さい頃から、真っ黒な世界しか見えなかった。
音で“輪郭が見える”ようになったのも、ほんの最近で……
それまでは、お母さんと神社に行くくらいしか外に出なかった)
(……不思議な感じ)
「着いたよ。ここだ」
エレベーターが最上階に到達し、扉が開く。
「隊長!報告に来ました!」
「……合言葉は?」
「合言葉?」
志煌が、首をかしげる。
「ごめんね。
隊長はね、自分の気分が良くなる言葉じゃないと入れてくれないんだ」
カナトは志煌の耳元で、ひそひそと囁いた。
「……えっと……
隊長は世界一素敵で、組織の中で一番綺麗です」
「……もう一声」
(この人、相変わらずめんどくさい……)
「誰が見ても見惚れる容姿に加えて中身まで完璧で、
今にも告白しそうになります!!」
「…………ほんと?」
扉の奥から、甘く高い声が返ってきた。
「失礼します!」
「よく来たね、カナト。
そして――君が天野志煌くんだね」
柔らかな声と共に現れたのは、一人の女性。
「私は南方祓隊隊長、宮代雫(みやしろ・しずく)。よろしくね」
「報告します」
カナトは、静かに事の顛末を語った。
鬼との遭遇、共食い力の吸収、激闘、そして――
「……俺より強い兄がいる。その上に“主”がいる、と」
「なるほど……」
雫は顎に指を当て、微笑む。
「それにしても、よく少年を守りながら戦ったね。
もしかして……?」
「はい、加護を使いました。」
「そっか」
そして、志煌へと視線を向けた。
「志煌くん。
君が倒れる前、そして君自身に起きたこと――教えてくれる?」
「……はい」
志煌は、ゆっくりと言葉を紡いだ。
母親、神社、声、目覚め、消えた家、そして――
力を与えると告げた“何か”。
雫は静かにカナトと視線を交わす。
「ありがとう。
辛いことを思い出させてごめんね。少し昔話をしようか。」
そう前置きして、雫は語り始めた。
「昔、この国には神がいた。
神は日本の大地を作り、守った」
「だが、その大地を奪おうとする者――妖怪が現れ戦いになった。」
「戦いは神の勝利に終わり、平和が訪れた。
そして、神は子を作りその子供達に日本を託しその血は今も受け継がれている」
「……つまりね」
雫は微笑んだ。
「君は、神の血を引く子孫だ」
「……僕が?」
「ええ。私も、カナトも」
「だからね、志煌くん……この国を取り戻すため――
君の力を貸してほしい」
(僕が……妖怪と戦う……?)
(お母さんの仇を討って……
お父さんを見つけて……そして……)
「はい!
僕の力で良ければ、よろしくお願いします!」
「よく言った!」
雫が立ち上がり、手を差し出す。
志煌は、その手をしっかりと握った。
「それと、カナト」
「はい?」
「あんた二ヶ月、入院。
きっちり治して、もっと働きなさい。私の給料を上げるために」
「俺の給料を上げてください!!」
その声に、部屋は小さく笑いに包まれた。
――だが、運命の歯車は、確かに回り始めていた。
目なき神子は闇を裂く 篠宮すずや @Senomiya_369
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