第4話 激戦いの果て

太陽が傾き始めた頃。

志煌は、ふと目を覚ました。


途端に、肌で“異変”を感じ取る。


(来たときと……空気が違う。

 風の通り方が全然違う――)


耳を澄ませると、風が境内を流れ、その軌跡がまるで映像のように状況を伝えてくる。


「……本殿以外、全部……壊れてる。

僕が気を失ってる間に……こんな戦いが……」


立ち上がろうと足を踏み出した瞬間――

弱い心臓の鼓動と浅い呼吸音が、風に紛れて志煌の耳に届いた。


倒れている男の胸に、そっと手を当てる。


(脈が……弱い。

全身、骨折とヒビ……。

この血の量……死んでてもおかしくない)


あたりを見渡し、境内の中央に転がる巨大な“何か”の死骸に気づいた瞬間、志煌は理解した。


「この人……あれと戦って……勝ったんだ。

そして……限界を超えて倒れたんだ」


(そんなことより……助けないと!)


志煌は震える手で叶人の身体を揺すり、

自分の上着で血を拭い、必死に呼びかけ続けた。


――そのときだった。


「叶人リーダー!!」

「叶人副隊長!!」

「いたぞ!こっちだ!」


鳥居の向こうから数名の人影が駆け込んでくる。


志煌は安堵の息をつき、顔を上げた――が。


「おいテメェ!!これはどういうことだ!!

なんでうちの叶人リーダーが血塗れになっとるんや!!答えろ!!」


荒々しい声と共に、男が志煌の胸ぐらを掴み、本殿の扉に叩きつけた。


「し、知りません!!

僕は……気づいたらここにいて……倒れてる人を助けようとして……!」


「この子どもが、こんなこと出来るわけないでしょ!

落ち着きなさいよ、幹二!!」


「くそっ……!

医療班はまだか!? リーダーが死ぬぞ!!」


「来た!!こっちだ、急げ!!」


慌ただしく医療班が駆け寄る。

志煌はその様子を見て、胸の奥が熱くなるのを感じた。


――この人は、仲間にこれほど慕われている。

――そして、きっと僕も……助けられたんだ。


そう確信した。


さっき胸ぐらをつかんだ男が、バツが悪そうに近づいてくる。


「さっきは……すまんかった。

動揺して、つい……無理やり胸ぐら掴んでもうた。済まん」


「いえ……大丈夫です。それより、あの人は……?」


「あぁ。まだ油断できん状態らしいが――

命に別状はないってよ」


志煌はほっと微笑む。

その瞬間。


「叶人副隊長、目を覚ましました!!」


「ダメです副隊長!今動いたら――!」


「平気だ。それより……少年は?」


低く、温かい声が志煌の鼓膜を震わせた。


「君……怪我はないか?」


「僕は……あなたが助けてくれたおかげで、傷ひとつありません。

助けてくださって……ありがとうございました!」


「あぁ……よかった」


大きな手が志煌の頭に触れた瞬間、

その手は“山”のように安心をくれた。


「それよりリーダー、一体ここで何があったんですか!

ただ事じゃないでしょう!」


叶人は短く息を吐き、ここまでの経緯を語った。

聞き終えた部下たちの顔が、青ざめる。


「よく……生きてましたね、副隊長……」


「ああ。運が良かっただけだ。

状況が違えば……間違いなく俺が殺られてた」


「とにかく本部に報告を!」


「もう済ませてあります!」


「そうか……。

――少年、まだ名前を聞いてなかったね。

俺は蓼原叶人。よろしく」


志煌は、視界がぼやけていても分かった。

この場の“空気”が、叶人の声ひとつで明るくなるのを。


「僕は……天野志煌。十四歳で、母と二人暮らしです」


「ちいせぇのにしっかりしとるなぁ!!

俺は宮下幹二(みやしたかんじ)!さっきは悪かったな!」


「ホントによ!もう、この妖怪面が大声出すからビックリしたわよね?

私は三上栞菜(みかみかんな)、よろしくね志煌くん!」


「おい誰が妖怪面だ!たぬき顔!!」


「はぁ!? たぬき言うな!」


幹二と栞菜は、息の合った漫才のように言い合いを始めた。


(この人たち……本当に家族みたいだ)


どこか羨ましい気持ちが、志煌の胸をかすめた。


「さて……そろそろ帰るか。志煌くん、家まで送るよ」


「リーダーは休んでください!

この子は俺と栞菜が送ります!」


「バカ言え。

“無事に家に送り届ける”までが俺の仕事だ」


「もう……責任感強すぎですって副隊長!!

私達の身にもなってくださいよ!」


(……いいな。

本当の家族みたいで。

僕も、早く――お母さんに。)

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