第3話負けられない理由


(これは……まだ俺には早すぎる力だ。

全身の細胞が軋んでる……気を抜いたら弾け飛びそうだ。

この戦いが終わったあと、俺……本当に生きてるよな?)


《それは分からぬ。

そもそも主の身体は既に限界だ。

第二段階の開放は、わしの力の一部を強制的に身へ顕現させておる。

最低限に抑えてはおるが――使い方次第では“死”もあり得る》


(ちょっと……怖いこと言わないで貰えますか……)


《――構えよ。来るぞ》


「ニンゲン!!!」


大地が横に揺れ、破紅(はぐれ)の気配が爆ぜた。


「最後の闘いを――始めるぞォ!!」


咆哮と同時に破紅の姿が霞む。次の瞬間には叶人の眼前へ迫っていた。


「認めてやるよォ!! 貴様の、その力ァ!!」


鬼王突進きおうとっしん


三本の角が矢のように一直線に迫り、叶人の身体を上空へ吹き飛ばす。


(なんだ、この威力……!

加護が第二段階じゃなかったら、今ので身体に穴が空いてたぞ!)


だが破紅(はぐれ)の猛攻は、ここからが本番だった。


地面を一瞬見た――その刹那。


轟音。

視界に巨大なクレーターが刻まれ、そして――


紅蒼砕拳こうそうさんけん


瞬きすら許されない速度。

破紅(はぐれ)が跳び上がり、真上から振り下ろした拳がカナトを叩き落とす。


地面が炸裂し、叶人の口から血飛沫が舞った。


(……ここ、までとは……)


立ち上る砂煙を裂き、破紅(はぐれ)が金棒を引きずりながら現れる。

その視線の先――叶人は、立っていた。


「貴様……本当に人間か。

今の攻撃をまともに受けて立つとは……信じ難いなァ」


「もう限界だよ……。

けどな、人間ってのは――守るべきものがあると、湧いてくるんだよ。

胸の底から……力がよ。

……ターン交代だ」


「気に入ったぞォ……!

貴様を殺した後、その力ァ貰ってやる!」


(風よ――拳に宿れ。ここから反撃だ)


叶人の拳に風が渦を巻き、破紅(はぐれ)は金棒を構え地面を砕く勢いで踏み込む。


そして、両者の必殺がぶつかり合った。


武神砕ぶしんさい

紅蒼砕こうそうさん


激突は互角。しかし――


(今だ!)


風影歩ふうえいほ


カナトの姿が揺らぎ、一瞬で破紅の懐へ。


風烈疾風乱舞ふうれつしっぷうらんぶ


突き上げる拳が破紅(はぐれ)の腹を捉え、巨体が浮き上がり上空へ吹き飛ぶ。


(まだだ……ここで決める!!)


地面を踏み砕き、叶人は破紅(はぐれ)の真上へ跳ぶ。

腕を掴み――叫んだ。


「さっきのお返しだァ!!」


(建御名方神の得意技――!)


建御神威投たけみ・しんいなげ


大地が悲鳴を上げた。

破紅(はぐれ)は隕石のように叩きつけられ、クレーターはさらに深く、広がった。


「ゴホッ……ウッ……(もう限界だ……指先の感覚すら……ねぇ)」


しかしその時――。


砂煙を割り、ズリ……ズリ……と音が響く。

金棒が地を打つ重い音。


現れた破紅(はぐれ)は、もはや満身創痍だった。

三本あった角は二本へ戻り、身体も一回り小さくなっている。


破紅(はぐれ)は膝をつき、叶人を見る。


「……人間。トドメを……させ」


最初の威容はもうない。

ただ戦士として敗れた“鬼”がそこにいるだけだった。


「ああ……本当は、トドメを刺してやりたい所なんだけどな。

残念ながら……もう俺にはその力、残ってねぇよ。

お前は南方祓隊なんぽうしゅばつたいが拘束する。

仲間が来るまで、ここにいろ」


「甘いな……人間。

最後に、貴様の名を……聞いておく」


「なんで上からなんだよ……。

まぁいいけど。

俺は――南方祓隊、副隊長。蓼原叶人(たてはらかなと)」


「たてはら……かなと……覚えた。

一つ……教えておいてやる。

俺には……兄者がいる。

俺が殺られたと知れば、お前達に……明日はない。

兄者の上にも……我らの“主”がいる……

……せいぜい気をつけることだ」


(この俺が敗れるとは……穿鬼(せんき)、すまねぇ。

お前の力を手に入れても勝てなかった……

不甲斐ねぇ俺を許してくれ……

地獄で待っていろよ……今、そっちへ行く)


「じゃあなァ……蓼原叶人……

兄者に、よろしく伝えといてくれ……

先に行くと……な」


「おい、やめ――!!」


破紅(はぐれ)は自らの拳を胸へ突き立て、息絶えた。


……静寂。


叶人は崩れ落ちそうな身体をなんとか動かし、

倒れている少年の元へ向かう。


「あぁ……良かった。

今回は……ちゃんと守れた……」


(父さん……母さん……雫……。

見ててくれたよな。俺……ちゃんと守った。守れたよ……)


薄れゆく意識の中、家族がほほえむ姿が一瞬だけ見えた。

安心が胸に広がり――叶人はそのまま静かに倒れ込んだ。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る