けつい

 色々だった。

 全てを無視して校舎へ籠り、受験勉強に専念しだした先輩達と先生。

 選抜に漏れ、王国の用意した待機宿舎で終わりを待つ者達。

 好き勝手に、そして自暴自棄に異世界を漫遊しだす奴ら。

 ……まあ一番に大変だったのは、ダンジョンを新兵訓練所ブートキャンプ代わりに短期育成を強いられたエリート選抜組か。


 そんな情勢だったというのに俺達は、ただ空を眺めるだけの日々だった。

 あの大きな鳥?は何だろう? あまりに遠すぎて仔細は分からないけど……この距離でも視認できるのが、かえって危険に思えてならない。

「なあ? 最近、選抜された奴ら、あまり帰って来なくなってねぇ?」

「心配しなくても大丈夫だよ、直人。……いや、いま直人が心配しているようなことは起きてないよ。十分に強くなった人達は、もう最前線へ行ったんだって」

 俺と同じく知らなかったのか、驚き顔で陽平が振り返る。

「……生徒会長とか剣道部主将とかのパーティ?」

「そそ。『勇者』と『剣聖』に……あと『聖女』と『賢者』だったかな」

「俺、あまり生徒会長のこと好きじゃなかったけど、さすがに見直しちゃったぜ。なんというか……偉すぎるよな?」

 それには俺も賛成せざるを得なかった。「僕らが必ず皆を日本へ連れて帰る!」とまで言われては、もう足を向けては寝られないまである。

 ……それがスクールカーストの頂点に君臨する、全女子生徒憧れな王子様の言葉であってもだ。

 黙りこくる俺と翼を気遣ったのか陽平は、自虐めいた慰めを口にした。

「ま、まあ仕方ないよな! 俺みたいな掃いて捨てるほどいる『戦士』に、自然魔法が使えない方の『レンジャー』、レア職でも弱体化デバフメインの『呪い師』だもの! 残念だけど即戦力には……な?」

 弱体化デバフが魔王に効かないと読むのは、かなり現代的価値観に思えるけど……有限なリソースを少数精鋭に集中投資は正しい。王国の方針は間違ってないはずだ。

「でも、直人は不満そうだね」

「そんなことないぞ。俺らは待つのが役目ってだけだ。それに役立たずなのは仕方ないとしても……命張ってくれてる奴らの邪魔だけは、絶対にしたくないぜ」

 やっぱり、あの大きな鳥は飛竜ワイバーンとかだろうか? それとも小型のドラゴン? どちらにせよ、ここが異世界だと問答無用で分からせにくる。


「あのよ? 薦める訳じゃないし、むしろ止めるべきなんだけれど――

 なにもやることがない、って訳じゃあ……無さそうなんだぜ?」

 長くなった沈黙を破ったくせに、なぜか陽平は躊躇っている。

「どうした? 気遣いなんていらんぞ? どのみち俺らは、なにもやることがねぇ暇人だ。特別にオチがなくても勘弁してやる」

「……オチの要求は、関西系の悪しき習慣だと思う」

 あまりにダウナーな俺ら二人の反応で逆に勇気づけられたのか、肩をすくめて陽平は話を再開した。

「選抜で世話になった先生――アッシュさんの弟子にレオンっていただろ?

 俺っちってば、わりとアイツと話すようになったんだけど――」

 ほどよい暑さで溶けそうになりながら、話に耳を傾ける。この地も、もうすぐ夏なのだろうか?

「実のところアッシュさん達は――ダンジョン探索者達は、魔王討伐に協力してんだ! ヒーリングポーション?とか魔力回復ポーション?とか……その手の消耗品を、ダンジョンから掘り出して補給してるんだってさ」

 遥か遠くでは大きな鳥が、なにかを口から吹いていた。あれが火だったら、もうドラゴンで確定か?

 そして野良ドラゴンが徘徊するなんて、やはり、この地は危険な世界だ。

「あー……うん。あの人達も身体張ってんだなぁ」

 俺を無感動と咎める人もいるだろう。でも、これ以外の答えはあるか?

「魔王討伐より、少しだけマシ――あのダンジョンでは『緊急帰還の羽根』?とかいう呪具が使えて、わりと安全ってレオンは言ってたけど……――」

「まあ、おそらく気休め程度だろうな」

 じゃなければ選抜での惨劇は回避できた。

「でも、直人は興味でちゃったでしょ?」

 当たり前のように断定されてしまった。目隠れ美少年の失敗作みたいな癖に、なんというか翼は――

 こういうことを、よく口にする。


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