世界初の配信形式

 その日からバド・バズを見るリスナーは激減していた。

 登録者数も解除祭りが起きている。

 バド・バズは焦って炎上配信で挽回しようとするが、逆に数字は減っていく一方だ。


「きょ、今日はこの可愛いスライムを、強力な攻撃で爆散させていくぜー!」


<きしょ>

<今日も炎上頼りかよ>

<つまんねー>


「うわあああ!! なんで同接が減っていくんだ!! この前は10000あったのに、今は100っぽっちしかねぇぞ!! どうなってんだ、この数字!!」


<俺たちのコメントを見ずに数字だけを見ているからだろ>

<文字だけど向こう側には人間がいるからな>

<数字は大事だけどそれだけを求めるっていうのもダサい>


「同接が同接が同接がァァ……!! チクショウ……それもこれもクズカメラとクロ・クロウリィのせいだ……! アイツらと関わってからケチが付いちまった……!!」


<他責思考ってやつぅ?>

<こういうときって人間性が出るよな>

<自業自得乙>

<面白くないから別の配信行くわ。おすすめある?>

<お、もうすぐクロの配信が始まる>

<今日は新しい形式の配信をやるらしいぜ!>

<ワクワクするな!!>


「100から99に下がっちまったあああ!! うわああああ!! もっと同接が下がっていくううううう!! 80……70……下がるの止まらない、なんで、どうして、ウソだろおおおおおお!? 神様、配神様! 助けてくれえええええ!!」




 ***




「こんくろう~! 今日もあなたと一緒に剣の舞踊る、黒き翼のクロ・クロウリィです!」


 というわけで、クロの配信が始まった。

 何か予想より同接が多いな……誰かが誘導でもしてるのか?

 まぁ、そんなことはどうでもいい。


 俺とクロは今、ダンジョンではない室内から配信をしている。

 この宿屋――といっても、この前の安宿ではなくて、少し高めで鍵もついていて、従業員も口が堅そうなところだ。

 前回の配信でスパチャも稼げたし、支援したいというスポンサーたちが視聴時間によって広告費を払ってくれるようになったからだ。


 金ができたのなら今すぐクロの母親の治療を――と思うだろうが、少し懸念すべき点があって裏でミミルに動いてもらっている。

 なので、今は時間もあるしを試しているのだ。

 さっそく、リスナーたちからコメントが届いている。


<こんくろう~!>

<こんくろう!>

<慣れると結構良いな、この挨拶>

<強くて格好良いクロ様素敵ー!>

<クーちゃん、お姉さんと結婚してー! いくらでもスパチャしちゃうー!>


 ……想像以上に熱狂的なリスナーも生まれているようだ。


<あれ? そこってダンジョンじゃないの?>


 いいところに気が付いたな、リスナーくん。

 今、俺は椅子の上に乗って高さ調節しながらカメラとして映像を映していて、その先にはベッドに腰掛けている部屋着のクロがいた。


「はい、今日は雑談配信というのをするらしいので、お部屋の中から配信をしています」


<部屋って、どこ住み?>


「えーっと、この場所の住所は――」


(クロ、ストーップ!! そういう個人情報は出したらアカーン!!)

(わ、わかりました。ヤマダさん)


「ヒミツです!」


<会いに行こうと思ったのにな~>

<残念、実際に見られると思ったのに>


 たぶん大昔、少年マガ○ンの漫画家さんの住所が公開されていたときは読者もこんな感覚だったのだろうか……?

 恐るべし、ジェネレーションギャップ……いや、異世界ギャップか?


<雑談配信ってなに?>

<ダンジョン配信じゃないって、何をする配信なんだ?>


「えーっと、ヤマダさんいわく、私が自分のことを話したり、コメントとお話をしたりする配信――その名の通り雑談する配信……ということらしいです」


 カンペを読めてえらい!

 視線がすごいカンペの方へ向いてたけど!


<それっておもしろいの?>

<ダンジョン配信じゃないなら別の見ようかな>


 反応は冷たいが、この世界はダンジョン配信のための配信システムという認識をされているので、まぁ仕方がないのかもしれない。

 何事も知らないモノに対しては、人というのはドライだ。

 ――なので、実際に見せるのが手っ取り早い! 百聞は一見にしかずだ!


「まず、皆さんに相談したいことがあります!」


<えっ、オレたちに?>

<クロたんがオレたちに話しかけてきて、しかも頼ってくれたぞ!!>

<やべぇ、他の奴らは一方的な配信ばかりだったから新感覚……>

<ドキドキ……>


 よーしよし、掴みはいいぞ。


「私、皆さんをどう呼んで良いのかわかりません!!」


<え、どういうこと?>

<本名で呼べばいいじゃん>


「えーっと、そういうことではなくて……。船に乗っている方は〝船員〟と呼びますし、騎士団に所属している方は〝団員〟とか呼びますよね?」


<ああ、なるほど>

<オレたちまとめての名称ってこと?>


「まとめての名称……そう、それです! コメント欄にいる皆さんすべてに対しての呼び方です!」


<やべ、コメント読んでもらえちゃった!!>

<羨ましいな!! オレのも読んで!!>

<ワイもワイも!!>


「あはは……。すべてのコメントを口に出して読むことは難しいですが、ちゃんと全部目を通していますよ。素早いモンスターを追えるくらい動体視力はいいので。ええと、それでどう呼んだら良いのか募集したいなーって思いまして……」


<つまりオレたちが、オレたちの呼び方を決めるってことォ!?>

<そんな重要なことを決めさせてくれるのか……>

<今めっちゃ考えてる>


 よし、いいぞ。

 これでただの傍観者から、配信者と一心同体という感覚を持つリスナーになっていく。

 コメントとのやり取りは重要だ。

 実際、Y○utubeで活躍している配信者さんたちも、コメントのあるとなしでは舌の回りが大違いなのだ。

 大人気配信者でも、コメントがシステムトラブルで止まっていると話しにくいという証言もある。

 逆に言えば普段は口下手のクロでも、コメントとやり取りする形ならかなり喋れる。


(クロ、カンペに書いてある一例も教えてやるといいぞ)


「あっ、えーっと、たとえばですが、私――クロの友達だから略してクロ友とか、クロフレとか。カラスっぽいので、カラスの家族とか。何かそんな!」


<そういう方向性か>

<からすめいと>

<カラスの巣>

<くろだち>

<クロ巣ファミリー>


「クロ巣ファミリー、良いですね! クロの巣と、交差するという意味のクロス。そしてファミリーで、クロの巣で交差する家族たちとなりますね!」


<何かしっくり来るかも>

<家族かぁ>

<お前も家族にしてやろうか>


「家族っていいですよね……。私、お父さんがいないんです」


<クロたん……>

<止めろクロ……家族の話はオレに効く……>


「お父さんがいなくて苦労したこともいっぱいありました。でも、お母さんと弟がいたので……へっちゃらでした。えへへ」


<ウォォオオン!>

<泣ける>

<今からオレがお父さんだぞッ!!>

<おい、カメラ。泣くと映像が歪む>


「いつも、いつもお母さんは私と弟のために頑張っていました。だから、こうやって独り立ちしてお金を稼ぐことができて、恩返しがやっとできるんです」


<良い子じゃん>

<うちの子に爪の垢を煎じて飲ませたい>


「でも、それは皆さんが応援してくださったおかげでもあるんです。私を一人前にしてくれて、お母さんに恩返しをさせてくれて、本当にありがとうございます!」


<そんな……オレたちは配信見ていただけだし……>

<なんか心が温かくなってきた>

<今まであった他の奴の配信と違いすぎるな……>

<これがクロ巣ファミリーか……>


「そうですね、クロ巣ファミリーのおかげです! 明日、お母さんのところに会いに行くのですが、そのときにクロ巣ファミリーの皆さんを自慢しちゃいますね! とても良い人たちだって!」


<浄化された>

<天使はここにいた>


 恐ろしいな……あのコミュ障口下手だったクロが、今では天性の人たらしに……。

 スパチャも同接も登録者数もすごいことになっている。

 そして雑談配信という、以前の世界では当たり前のものだったが、こっちでは新しい概念を広めることができた。

 これはクロに感謝しなければならないな。


 ……っと、ミミルから裏で調べてもらっていた報告がきた。

 なになに……クロの母親を治療していたのはヤブ医者……やはりそうだったか。

 これはクロにもう一稼ぎさせてやるとするか。

 ククク……次回も楽しい配信になりそうだ。

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