魔剣二刀流で無双配信
俺はバド・バズの配信を観ていた。
今日の
タイトルは『迷宮でモンスタートレインしてみたw』だ。
モンスタートレインとは、モンスターの気を引いてそのまま逃げ続ける行為だ。
数が増えてくると、まるで繋がった電車のようになっているためにモンスタートレインと言われているが、この異世界の言葉は基本的に翻訳されているので〝電車〟ではなく、〝連なる〟とかそういう言葉に置き換えられていそうだ。
ちなみに、とんでもなく迷惑行為である。
知らない冒険者から見ればいきなりモンスタートレインがやってきて対応が遅れたら轢かれてしまうし、終わってもモンスターたちが元の縄張りに戻るまではまともにダンジョンには潜れないだろう。
こうなったらもう、ザコモンスターたちを一気に相手にしても平気な高ランク冒険者が範囲狩りでもしていくのが現実的だ。
『それじゃあ、迷宮でモンスタートレインしてみたいと思いまーす』
バド・バズはゲラゲラと笑いながら軽口を叩いている。
コメント欄は――。
<さすがにヤバいんじゃね?>
<いいぞ、もっとやれ!>
<他の冒険者逃げて~>
<絶対に止めた方がいい……けど、コメント見る配信者なんていないからなぁ>
こんな感じで荒れていた。
バド・バズたち三人組は手辺り次第にモンスターにちょっかいをかけて、モンスタートレインを発生させていく。
最初は同時接続数が100だったのだが、徐々に増えて1000くらいになっていく。
ちなみに同時接続数とは、どれくらいリアルタイムで視聴者がいるかという数字である。
チャンネル登録者数や再生数と並んで、これも人気の指標となる。
同接と略されることもあるが、普通は本人が配信中に言ったりすることはあまりない。
なぜ同接を言わないのかと言うと、理由は様々だがその一つには〝品がない〟というのもあるかもしれない。
『チッ、同接が思ったより伸びねぇな。炎上させるのがマンネリ化してきたか? もっとつえぇ刺激を見てる奴らに与えた方がいいな……!』
『で、でも……これ以上なんて何があるのよ……?』
『ボス……とか?』
『それだ!! ボスもモンスタートレインしちまおうぜ!!』
ボスというのは当たり前だが、ダンジョンで一番強いモンスターのことだ。
それもモンスタートレインに使おうというのは考え得る最悪の手段。
一気に注目が集まり、同時接続数が跳ね上がる。
『うっひょー!! 同接10000いったあああああ!! 他のザコ配信者たちとは違うぜえぇぇぇぇええ!!』
『で、でもこれどうするのよ!?』
『知るかよ!! 出口まで猛ダッシュで冒険者全員を轢き殺していくしかねぇ!』
最悪な炎上配信だが、俺たちはこれを利用させてもらおう。
『って、あれ? なんか同接が急に下がって……』
<すごい新人が配信を始めたぞ>
<そっちを見に行くか>
***
さて、まずはこの世界の配信の現状についておさらいをしておこう。
前世では俺が〝配神〟として、〝配信〟のシステム自体は作った。
だが、いきなり配信環境が整ったとしても、Y○uTubeのようにはならない。
せいぜい、冒険者が依頼をちゃんと達成したか確認とか、ダンジョン内攻略を他の冒険者が参考にするくらいだ。
いや、バド・バズの過激なことをやって炎上というのは、ある意味リスナーの増加を狙っていたので視点としては良かった。
しかし、炎上工作というのは短期的には伸びても、長期的に考えると割に合わないというY○utubeデータも出ていた。
それに自分を炎上させるだけならともかく、今回のようにモンスタートレインで他者に迷惑をかける炎上はいけないことだろう。
――後処理をする存在が必要となり、それが
「ということで、こっちの世界で初めての〝まともな配信〟をしようじゃないか」
俺はダンジョンの中で、それまで見ていたバド・バズ炎上配信を閉じながら、横にいるクロへと呼びかけた。
クロは元気に返事をしようとするが――。
「は、はひ!」
噛んでいるな。
「緊張しているか?」
「とっても……。上手く喋れるかわかりません……。私は陰キャですし、口数もそんなに……」
「大まかな流れは予想して話してあるが、あとはその場やコメントに任せて自由に本心から話し続けろ。言葉を止めるな。自分が他に何にも考えられなくくらい喋り続けろ」
「わ、私なんかができるでしょうか……?」
「やるしかない状況を作ってやる。あと五秒で配信を始めるぞ」
「うひぃ~っ!?」
「今日のために準備はした。それを考えた〝俺〟と、お前の〝努力〟を信じろ」
「……は、はい!」
配信が開始された。
一気に同接が5000になった。
これは無名の新人では異例のことだろう。
それもそのはず、この世界の配信者がまだ考えていないことをやったのだから。
まずはサムネをきちんと作った。
端的で分かりやすいタイトルに、丁寧な白縁取りと有料級の文字フォント。
しかも、クロの今の顔面は世界上位の美少女レベルと言っても過言ではない。
それをアップにして配置すれば、大勢が見に来るのは当然だ。
そこに新人への期待――通称新人バフも入れば同接5000は予想できる。
ここからさらに同接を伸ばせるかどうかは、クロ自身にかかっている。
さぁ、クロ! 打ち合わせした通りに最初の挨拶からだ!
「こ、こんくろう~! 今日もあなたと一緒に剣の舞踊る、黒き翼のクロ・クロウリィです!」
コメント欄は、普通の冒険者がやらない挨拶に少し困惑していた。
<こんくろう……?>
<なんだそりゃ>
<もしかして、こんにちは+名前の組み合わせ?>
<変なの>
<でも……何か憶えやすくて癖になるな。こんくろう>
その通りだ。
Y○utubeの配信者も挨拶を工夫することによって差別化して、自分を憶えてもらうというのがある。
有名なところだと『ブンブンハローY○uTube!』や『こんぺこ~!』だろう。
人の印象というのは、最初の数秒で決まるというデータもあるくらいだ。
俺は計画通りに顔のアップからカメラを引き、今度はクロの全身を映した。
「ど、どうですかね……。この衣装……」
黒を基調として、カラスの羽をモチーフとした衣装を防具ギルドの国宝級職人に仕立ててもらった。
しかも、この世界ではまだ珍しい方式で、防具職人と三面図を描いたデザイナーは別の合作だ。
デザイナーの方も名のある人で、この世に二つと無い美しさに描いてもらった。
コンセプトは強さと可愛さ。
一見すると胸元や腋、お腹、スカートから太ももなどの素肌が見えているのだが、超高級な〝八咫烏の加護〟を受けた素材を使っているために魔力防御は全身に行き届いていて、普通の防具なんて目ではない。
それでいて動くと二つに分かれているマントが羽のようにバサリとひるがえり、まるで闇夜を舞うカラスのようになるのだ。
本当だったらもっとコンセプトを徹底するために、クロをカラスの獣人に人体改造したかっ……おっと!! 炎上発言になってしまう!!
「なんか急に寒気が……」
いまいち配信に集中できていないクロに、カンペとアイコンタクトで意思を伝えることにした。
(クロ、今はリスナーのコメントを見るんだ。そうすれば流れで何とかなる)
(は、はい)
<すごい衣装かわいい!!>
<これだから今時の若い冒険者は……あんなハレンチな素肌丸出しの防具なんて……>
<老害はだまっとれ。魔力防御があるから高級な防具なら肌はいくらでも出せる>
<もしかして八咫烏の加護を受けた素材か!? 国が管理するレベルだぞ!?>
<何者だよ、謎の新人クロ・クロウリィ……>
(ヤマダさんに言われた通り、コメントとお話しないと……!)
「私はクロ・クロウリィです! クロとか、クーちゃんとか、黒き翼のクロウリィ(カッコイイ)とか、好きに呼んでいただければ!!」
<必死に自己紹介して可愛い>
<この可愛さで黒き翼のクロウリィは無ぇわ>
「わ、私は格好良いですからね! ……たぶん!」
<はいはい、かわいいかわいい>
<チャンネル登録決定でござる、でゅふふ>
「少し前までは田舎でお母さんと妹と暮らしていて、でも……お母さんが病気になったので王都に出てきて冒険者で治療費を稼ごうとしたのですが……」
<母親のために……>
<ワイ、こういうのに弱い>
<もうスパチャするわ>
「とあるところの配信に出て……その……失敗をしてしまって……」
<あれ? かなり見た目が変わってるけどバド・バズのところで声聞いたような>
<餌にされそうになってた娘か>
<バド・バズの奴ひでぇことをするな>
「今度はちゃんと配信をするために、パートナーの〝クズカメラ〟さんにチャンネル作りを協力していただいて、今のこの配信となってます!」
<クズカメラって最弱パートナー種族のクズカメラかよ>
<おいおい、止めておいた方がいいんじゃねーの>
<よりにもよってクズカメラか~>
<こりゃ失敗に終わるな>
「く、クズカメラのヤマダさんは優秀な方です!! 馬鹿にしないでください!!」
<クズカメラに何ができるっていうんだよ>
<何かアングルも低くて迫力がないしなぁ>
よし、それならサービスをしてやろうじゃないか。
それはアングルが低いことを利用して、クロのスカート――絶対領域の太もも辺りを重点的に映した。
うむ、健康的な
しかしギリギリでも安易に下着は見せてやらん、俺が守護る。
<み、見えそうで見えない!!>
<何という絶妙な……>
<おいおい、もしかしてこれは激しい戦闘が起きれば……つまり……>
「皆さん? 何の話ですか?」
<何でもない>
<どうやらクズカメラは優秀なようだ>
<クズ方面に優秀で草>
可愛い女の子を初見で見に来るのは大体が野郎共だろう。
ゆくゆくは他の魅力で女性リスナーもある程度集まってくるだろうが、今は男性向けに使えるものは何でも使った方がいい。
もちろん、いつか逆に男性配信者をサポートする場合は、女性リスナーにサービスする演出もやるだろう。
――さて、この配信を気に入った者が口コミで広げたのか、同接は10000に増えている。
夢の五桁達成だ。
しかし、まだこれから増えるはずだ。
なぜなら配信中のこの場所は――。
<おい、そこのダンジョンは危ないぞ! モンスタートレインがくる!!>
<えっ? こんな初心者向けのダンジョンでそんな迷惑行為をやる奴がいるはず……>
<もしかしてバド・バズの炎上クソ野郎か!!>
ここはバド・バズがモンスタートレインを引き起こしたダンジョンだからだ。
コメントが騒ぐ中、地響きが聞こえてきた。
前前世の表現だったら〝牛追い祭り〟が近いだろうか。
とにかく多数のモンスターが怒り狂って走ってくる。
その先頭にはこちらを見つけてニヤついているバド・バズの三人組だ。
<やべぇ、逃げろ!!>
<クーちゃん早く外へ!!>
<この数相手じゃ騎士団長クラスが必要だろう……>
まぁ、普通だったら逃げ出すよな。
だけど、クロは逃げないでいた。
<コメント見ろって!! やべぇんだ!!>
「見ていますよ。皆さんの心配は伝わってきます。でも――」
クロは二本の剣をスラッと鞘から抜いた。
黒く、濡れたような刀身は普通の武器ではないと察することができる。
<なんだアレは……>
<もしかして魔剣か!?>
<しかも二刀流かよ!!>
魔剣とは、悪い意味で曰く付きの武器に付けられる名称だ。
聖剣なら勇者とかそういう部類だが、魔剣は強力だが魅入られると自我を奪われてしまったりする。
だが、適性がある魔剣なら強力な武器になってくれるのだ。
そこで俺は所在が判明している魔剣を手辺り次第に取り寄せて、クロに試させた。
その数、約百本。
本当だったらもっと試してもよかったのだが、適性がある魔剣が見つかったのだ。
その名も黒き踊り子の魔剣。
元の持ち主は、母親の病気を治すために踊るように戦い続ける女剣士だった。
彼女は母親のためと言われて雇い主の男の言いなりになって、来る日も来る日も無辜の民を踊るように斬り殺し続け、血で真っ赤だった刀身は、いつしか相手からの怨みで黒く染まっていったという。
最後は、実は母親はすでに死んでいて、騙していた領主を恨んで斬り殺そうとしたのだが盛られていた毒で彼女は死亡した。
その似たような境遇から、クロに適性があったのかもしれない。
<でも、ただ魔剣を持っただけじゃ戦えるはずがねぇよ……>
<いくら強い武器があっても、剣術の素人じゃな>
<バド・バズの動画の時は弱くて逃げ回ってたし……>
「そうですね、あのときの私は弱かったです。でも――クズカメラのヤマダさんと出会ってから強くなりました!」
「おっ、そこの冒険者! モンスタートレインだぜ! 運が無かったと思って諦め……って、お前らクロ・クロウリィとクズカメラか!? だったら轢かれて死んじまえー! ギャハハ!!」
バド・バズたち三人は、俺とクロを通り過ぎてダンジョンの外へ逃げていく。
もちろん、バド・バズのカメラである妖精も一緒に外に出て行ってしまったので、続きが気になったリスナーたちはこちらの配信に移動してくる。
同接が倍の20000になった。
クロ、今までの努力を見せてやれ……!
彼女はこちらを見ると、今までにないくらい自信満々の表情で頷いてきた。
「今日もあなたと一緒に剣の舞踊る、黒き翼のクロ・クロウリィです!」
最初と同じ口上をすると、モンスタートレインに向かって走っていく。
<バカ、危ない!!>
<自殺行為だろ!?>
<グロ注意>
「グロくなるのはモンスターの方ですよ!」
クロはステップを踏んで、両腕に持った二本の魔剣を翼のように羽ばたかせた。
一瞬でモンスターたちは臓物を飛び散らせながら、バラバラに崩れていった。
<つ、つえぇ……>
<なんだこの強さ>
<魔剣の切れ味だけじゃない、動きがやべぇよ>
<このステップ、うちの騎士団長が使ってるやつか?>
有識者リスナーがいたようだ。
その通り、これはこの国で最強の騎士と名高い騎士団長が使っている動きだ。
なぜ似ているのかというと、本人から教えてもらったからだ。
実は前世で配信システムを作ったときに、密かに各国で軍事的にも配信技術が使えるように協力しているので、ミミル経由で頼めば各国は何でもしてくれるような状態となっている。
だが、騎士団長に教えてもらって、その動きをモノにするというのは並大抵の努力ではない。
ほぼ睡眠以外は、剣技をマンツーマンで指導してもらった。
身体が動かなくなったら強引に超高級ポーションを飲んで回復させ、指や腕が飛んだり、臓物が出てしまったりするような状態では宮廷魔術師がその場で再生をする。
およそ人間が耐えられる訓練ではないが、クロは自ら進んで成し遂げた。
クロは何の才能も持っていなかったと言っていたが、それは違うと思う。
彼女は〝努力の才能〟だけは最高のモノを持っていた。
母親のためだけにそれをできるのなら、黒き踊り子の魔剣が力を貸してくれるのも当然だ。
<強い……美しい……>
<一つ一つの動きに心を……信念を感じる……神がかった所作……>
<冒険者ってもっと力押しで戦っているイメージだった>
俺が騎士団長に訓練を頼んだのも、それが狙いだ。
今までのダンジョン配信というのは、
あるとすれば泥臭い戦い方の配信が主力。
そこでこの国で一番美しい動きであろう、騎士団長に訓練を頼んだのだ。
踊るように華麗に二刀流を振るい、モンスタートレインのザコモンスターを全て倒し、残るはボスだけとなった。
<うおおおお! いけええええ!!>
<いくらなんでも疲れすぎて無理だろう……>
<息切れして吐息が苦しそう>
<だが、それがいい>
正直、ザコモンスターのトレインくらいは倒せるとは思っていた。
しかし、ボスモンスターまで連れてくるのは想定外だ。
ここからは体力を超えた根性勝負となる。
だが、俺は信じている。
ここまで努力をやりきったクロなら――。
「カツ丼せよー!!」
「クロ、カツ丼じゃなくて
「あ、すみません。ヤマダさんが特訓中に作ってくれた珍しい料理が美味しくて……つい……」
そんなコントのようなやり取りと同時に、ドシン……とボスの巨体が崩れ落ちていた。
<ボスを一瞬で!?>
<速すぎて見えなかった……>
<俺でなきゃ見逃しちゃうね>
<すげえええええええ!!>
<バド・バズの炎上配信なんかより、ずっと面白い!>
<また見たいからチャンネル登録と高評価しておくぞよ>
同接は50000を超え、登録者数もいきなり40000ほどになっていた。
これはこの世界の新人だと記録的な数字だ。
「それでは皆さんおつクロウ~! 次回も心を鷲掴みにしちゃいますよ~!」
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