美少女配信者にしてやる

 俺はパートナー種族の権限を使って、配信運営に連絡をすることにした。

 いくら何もできないクズカメラだからといって、配信機能はあるのだから、配信運営へのアクセス権くらいはあるのだ。

 そこで前世の俺が〝配神〟として運営のトップにいたときのパートナー種族であった〝ミミル〟に話したいことがある。


『こちら、配信運営です。この音声は魔法によって自動的に返信されています。ご用件をどうぞ』


 おっ、どうやら自動返信に繋がったようだ。

 自分がパートナー種族で通信するとこんな感じなのかと、ちょっと新鮮な気持ちだ。


『ヤマダだが、ミミルに繋いでほしい』


 前世で身内に対してはヤマダと名乗っていたが、外部からは配神としか名前を認識されていなかったのでこれで充分だろうか?

 いや、いきなりクズカメラがヤマダを名乗るというのも信じがたい話か……。

 もうちょっとミミル本人が信じてくれるようなことを話さないといけない。

 たとえば――。


『ミミル、俺がクズカメラに転生してしまったなんて信じられないだろう。だが、それでもお前なら信じてくれるはずだ。なぜなら俺しか知らないことがあるからな。たとえば、今ではクール系お姉さんハイエルフのミミルだが、小さい頃にはおしめを替えてやって、おねしょも多かったし、俺と恋人になりたいとか、将来は絶対に結婚するとか言いながら一緒にお風呂に入ってきて困らせ――』

『替わりました、ミミルです。ヤマダ様だと信じるので、その話はそこまでにしてくださいますか?』

『さすがいつもクールなミミルだな!』


 声が少し震えているような……いや、気のせいだろう。

 ミミルはとてもできるパーフェクトな女性なのだ。

 むしろ俺より精神的には大人で、コイツが動揺するところなど大人になってからは見たことがない。

 身体的にも出ているところは出ている大人体型だが、さすがにミミルが小さいときから知っているし、俺の精神年齢も100歳オーバーなので異性としては一切意識したことがない。

 きっと向こうもそんな感じだろう、うん。


『今すぐヤマダ様を回収させに行きます。いえ、私自らが今から超特急で……』


 何かおかしい、クールさが足りないような……?


『いや、いい』

『えっ、ヤマダ様……どうしてそんな死ぬより酷いことを言うのですか……。もしかして、わたくしのことがお嫌いに……!?』


 ……本当にコイツ、ミミルか?


『違う、やりたいことができたんだ。そのためには俺の前世が配神だとバレたら都合が悪い』

『なるほど、承知いたしました。そのようなお考えがあるなら仕方ありません。ヤマダ様の従者であるミミルは、いつでもご命令に従います』


 おっ、いつもの知的クールなミミルに戻った。

 さっきのは気のせいだったのかもしれない。


『やってほしいことは――』


 それから俺の計画を話していった。

 ミミルはいつものように全肯定してくれて、それに相応しいスケジュールなどを組んでくれた。

 しかし、最後に不服そうな声が聞こえてきた。


『ヤマダ様を侮辱したバド・バズという犬の糞にも劣る畜生はどうやって殺しますか?』

『えっ、こわ……急にどうしたんだ……。俺、そこはそんなに気にしてないが……』

『失礼致しました。では、故意に炎上を起こすという迷惑行為をしたバド・バズをどう〝処理〟なさいますか?』

『それでもまだ物騒だろ……。たしかに故意の炎上行為は一発殴りたくなるくらい許せないことだが、それでも配信内の行動として同接を増やそうとやったことだからな。まだこの世界のルールが定まっていないというのもあるから、前前世基準ともちょっと違う』

『確かに』

『それに身分を隠しての配信外の誹謗中傷や、風説の流布ならともかく、顔が出ているバド・バズはあとでそれなりに自業自得・・・・を知ることになるだろう』

『なるほど、我慢いたします』


 何か我慢とか言っているが、ミミルはストレスでも溜まっているのだろうか?

 どうやら配神代理として運営を続けてくれているらしいし、なるべく怒らせないようにしよう……。


『では、手はず通りに頼む。ミミルからのサポートは必要最低限にしてくれ』

『イエスマイマスター!』


 相変わらず、その言葉を言うときだけは元気だな……。




 ***




 というわけでクロが泊まっている安宿へやってきた。

 部屋には質素なベッドとテーブルはあるが、ドアは鍵すらないというお粗末な作りとなっている。

 クロは母親の病気のために金稼ぎをしているので、宿賃を節制をしているのだろう。

 母親思いのええ子や……。


「ところでクロ、なんで部屋の隅に座っているんだ?」

「あっ、落ち着くので……」


 クロと一緒にいてわかった。

 人前でうまく話せなかったり、店に入ってお勧めセールスされるとすぐに押し負けて買いそうになってしまったり、友達0でサボテンと話したりしている。

 間違いなく陰の者だ。

 前前世の地球ではそれなりに陰キャはいたが、このファンタジーな世界だと生きづらそうではある。

 家も裕福ではなく、病気の母親のためにお金が必要らしいというので大変そうだ。


「なぁ、クロ。俺を銀貨一枚で買ってよかったのか? ただでさえ金がないんだろう? しかも俺の言うとおりに独立もしちゃったし」

「だ、大丈夫ですよ! それにあのままだと都会に出てきたばかりのジメジメ陰キャの私は言いなりだっただろうし、あなたもバド・バズさんに買われて酷い目に遭わされていたでしょうから……」

「やっぱりええ子や……」


 泣く機能はないのだが、あったら涙で海ができていたかもしれない。

 こういう良い子だと、こちらもパートナーとしてやり応えがあるというものだ。

 実際、生で配信するというのは素の性格が出るのだ。

 短期間なら猫を被って誤魔化せるのだが、長い間――それこそ年単位リアルタイムでやっていくとリスナーには本当の性格がバレてしまうのだ。

 配信で嘘というのは、短期間では効率が良く、長期間では最も効率が悪い。

 麻薬のような存在と言っても過言ではないだろう。


「その大切な銀貨一枚を投げ打ってくれたことを後悔はさせない」

「あはは……ありがとうございます。でも、私なんかの配信映像を撮ってくれるだけでも嬉し――」

「いや、俺が今できる全力でサポートしてやろう! 来い! 王宮スタイリスト!」

「へっ?」


 俺が合図をすると、鍵のかかってない扉がバシンッと勢いよく開かれて男が入ってきた。

 いや、長身の男に見えるが所作は女性っぽくも見える。

 不思議な雰囲気だ。


「あらぁ、良い素材じゃない。アタイの手で綺麗にしてあげるわよぉ」


 喋り方も女性なので、おねぇ系というやつだろう。


「えっ、あ、あの、あなたはいったい……? どうして部屋に入って……王宮スタイリストってなんですか!?」


 クロは全部にツッコミを入れてくれた。

 配信者の才能があるな……。


「そりゃ、アタイはその名の通り王宮で働いているスタイリストよぉん。なに? 化け物とでも言うのぉ?」

「い、いえ……背が高くて綺麗な人だなと思います。私、田舎の方にいたからそういう素敵な人を見慣れてなくて……」

「あら、嬉しい。サービスしちゃうわ」


 クロのご家族の教育が良かったのか、発言はコンプラ的にも平気そうだ。

 一方、機嫌が良さげな王宮スタイリストは大きな箱をテーブルの上に置いて、ヘアメイク道具を慣れた手つきで広げていく。


「それで、『どうして』アタイがここにやってきたかという質問だけど~……。今回のクライアントについては言えないのよねぇ」

「で、でも、私はそんなお金持ってなくて……」

「あー、大丈夫。相場の四倍くらいのお金を先にもらってるから」

「知らない人にそんな……悪いですよ……。いつかお返しするので、具体的な数字を……」

「んー、これくらい?」


 王宮スタイリストが小切手を見せると、クロは口をあんぐりと開けて固まってしまった。

 たぶんクロが何ヶ月……いや、何年働いても返せるかどうか怪しい金額だろう。


「うーん、素材は良いんだけど、現状はすごく野暮ったいわねぇ。最高級の宝石をぼろ切れで包んで泥まみれにしたような感じぃ」


 言い過ぎ……ではない。

 クロは素材としては美少女だが、野暮ったい髪の毛で顔が隠れてしまっているし、安物の服も全身を覆う布と革素材でオシャレさの欠片も無い。

 姿勢も猫背だし、身体の動かし方の所作も美しくない。


「あの~……配信に見た目って関係あるんですか? 強い姿を見せたり、バド・バズさんみたいにショッキングなシーンをやったりすればいいんじゃ……」


 そこは俺から話しておくか。


「それも一つの手だが、幅が狭すぎる。できることをすべて準備しておく、それが配信者にやってやれることだ。恋も戦争も準備が9割って言うだろ?」

「は、はぁ……そういうものなんですね……」


 それから王宮スタイリストの仕事を見ながら待つことにした。

 事前に指示は与えてあるので安心できる。


 もちろん前前世でありとあらゆる配信者を見てきた俺にとっては、どんな髪型が適しているかというのも理解している。

 強い、格好良いというのが似合う女性配信者もいるのだが、クロに関しては正反対の可愛さ重視がいいだろう。


 大きな眼が見えるように前髪を調節して、それでいて切りすぎない。

 異世界人特有の天然のアホ毛を活かすように、髪のボリュームをナチュラルに整えていく。

 あとは特殊な髪――メッシュやインナーカラーは魔術素材を使用した美容品で可能だ。

 そして、綺麗な長い黒髪を邪魔しない程度に調節してから、素材の良さを活かすナチュラルメイクで済まし、瞳に星の光彩を散りばめる魔術をかけて完成。


「えっ!? これが私なんですか!?」


 クロは手鏡を見て驚いているようだ。


「やっぱり、キレイな瞳が見えると印象が変わるな」


 本人が自分の素材の良さに気が付いていなかったらしい。

 自分がどう他人から思われるか、というのにここまで鈍感な奴は珍しいかもしれない……。

 まぁ、俺は自分の人間関係を的確に把握しているがな。

 恋愛トラブルとかも絶対に起こさない自信がある!

 ん? 何かフラグっぽいか? まぁいい。


「す、すごい! これなら配信だって!!」

「あー、まだ準備することがある」

「え?」

「服を新調してもらえ」

「えぇっ!?」


 クロはとっさに抵抗するが、簡単に服を脱がされて全裸になってしまった。

 ちなみに俺の頭は運営モードに切り替わってしまっているために、一切の煩悩はない。

 前前世の頃ならまだ人間らしい性欲があったのかもしれないが、すでに前世で100歳の壮絶な人生を終えたあとだというのもある。


「それが終わったら騎士団長と戦闘訓練だ」

「えええええぇっ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る