13.1.26 アクアリウム

 黒い魚と白い魚の交錯する水槽に、わたしはただ一人の人間として閉じ込められていた。定位置に座ってガラスの向こうを眺めると、狭い通路を一方向へ歩く人間の群れが見える。人の流れ、人流。魚の流れ、魚流……? 通路の向かい側にもこちらと同じような、外から誘拐された黒魚くろざかな白魚しろざかなの暮らす水槽が設置されており、背景はどこまでも青一色の単調なものだった。

 ここには魚が沢山いるのに、わたしの友達は一匹の黒魚だけだ。彼には背びれがなかったため、他の魚たちから仲間はずれにされていた。


 ある時、いつものように魚流および人流および水流を眺めていると、わたしの近くにゆらゆらと何かが流れ着いてきた。おもむろに立ち上がり、腕を伸ばしてそれを手に取る。やわらかい感触。着物の碧い袖が翻った。

 わたしが掴んだものは、友人の失くしていた背びれであった。指に引っかけて遊んでいると、見慣れた黒ちょぼがやって来て言った。

 「そのひれはぼくのだ。返しておくれ」

 わたしは「いやだ」と言って、黒の筋を弄ぶ。外はおそらく日暮れなのだろう、立ち見の数も減ってきていた。

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レイプ・アクアリウム nvfdisak @nvfdisak

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