5話 街の平和を守るには
両親を追い払った翌日、俺は決意を固めた。
この街を守るためには、正式に辺境伯として認められなければならない。
――国王に報告しなければ。
ソルシダとハーレンに街を任せ、俺はリーリャと共にバイゼン王国へ向かった。
王宮での手続きは、思っていたより簡単だった。
市民選挙の結果と、街の復興計画を説明すると、国王は意外にも快く承認してくれた。
「5歳の領主とは珍しいな。だが、お前の目には覚悟が宿っている。頑張るがいい」
そう言って、国王は正式な辺境伯の証――紋章の入った証書を手渡してくれた。
実は【読心】を使って、話を合わせようとしたのは秘密だ。
これで、俺は法的にも正式な辺境伯となった。
もう両親に何を言われても、この街は俺のものだ。
*
以前置いた目安箱のおかげで、市民の意見を集めて、やるべきことが見えてきた。
1.街の治安を守る
2.街の商売を活発にする
3.他の街との外交を結ぶ
優先順位はざっとこんな感じだ。
上からソルシダ、ハーレンそして外交は、思考を読める俺の役目だ。
ただ、まだ魅力の少ない街と外交を結ぶメリットは少ない。これはもう少し先の話になるだろう。
――この街を復興するのは、俺と同じような境遇の人を二度と生まないためだ。
これだけは、絶対に曲げられない。
やることがなかった俺は街を歩きながら、【読心】を使って市民の声を拾うことにした。
市民と大工のみなさんのおかげで主要な道はおおかたできたが、ところどころ石や砂利がゴロゴロして歩きにくい。
住民の中には、朝早くから水汲みに向かう人もいて、俺に挨拶してくれる人も増えた。
でも、その中には少なからず不満があった。
『もうちょっと市場に品物があればな…』
『ゴミの処理、どうにかしてほしい』
いろいろな声が聞こえてくる中、どこかで慌てている声が頭の中に響いた。
『どこ……どこにいるの……?』
声はだんだん近くなっていく…
角を曲がると、そこには泣いてしゃがんでいる小さな女の子がいた。
「どうしたの?」
俺が声をかけると、女の子は顔を上げた。
そして――さらに泣き出してしまった。
――あ、そうか。俺も子どもだから、頼りにならないと思われたのかもしれない。
だけど俺は領主だ。家族一人を見つけられないで、街の人を見ていられないぞ。
俺は少し離れて、優しく声をかけた。
「大丈夫だよ。僕、この街の領主なんだ。お父さんとお母さんを探してあげる」
女の子は涙を拭いながら、少しずつ落ち着いてきた。
「……パパとママが、いなくなっちゃった」
その言葉を聞いて、俺の胸がチクリと痛んだ。
てっきり、俺と同じように置いていかれたのかと思った。
でも、よく聞いてみると、ただの迷子らしい。
ーーよかった。俺の公約がさっそく捻じ曲げられるところだった…
俺は彼女に色々な質問をした。
「年齢はいくつ?」
「……よんさい」
「家の場所わかる?」
「……わかんない」
「お父さんとお母さんの名前は?」
「……えっと、パ…パパとママ…」
うーん、これは手がかりが少ない。
でも、俺は領主だ。この子を助けなければ。
「じゃあ、一緒に探そう」
俺は小さな手を大きく握りしめて、街のあちこちを歩き回った。
【読心】を使って、近くに親を探している人がいないか探す。
だが、なかなか見つからない。
だんだんと、日が落ちていく。
女の子は疲れて歩けなくなり、また泣き出してしまった。
――こんなはずでは……。
俺だけでは、この子を安心させられない。
「ごめん、今日はもう遅いから、一度家に帰ろう。明日また探そう」
俺は女の子を連れて屋敷に戻り、リーリャに相談することにした。
*
「リーリャ、この子が迷子になっちゃって……」
心配そうに言うと、リーリャは優しく微笑んだ。
「任せて!」
リーリャの声に、俺まで思わず笑ってしまった。
リーリャが優しく話しかけると、女の子は少しずつ心を開いてくれた。
「お名前は?」
「……アリス」
「アリスちゃんね。今日はここで一緒に寝ましょう。明日、お父さんとお母さんを探しましょうね」
リーリャの温かい声に、アリスは小さく頷いた。
*
翌朝、俺とリーリャはアリスの手を引きながら、再び街を歩いた。
今日も【読心】を使いながら、親を探している人の思考を探す。
道の途中で、リーリャがアリスに焼きたてのパンを買ってあげると、少し笑顔が戻った。
「おいしい?」
「……うん」
そのまま街を歩き続けると――
『アリス……アリスちゃん、どこ行っちゃったのかしら……』
そんな声がうっすらと頭の中で響いた。
「リーリャ!この近くに家族がいるよ!」
その言葉を聞いた瞬間、アリスの目が輝いた。
「ママ……?」
アリスは俺たちの手を振りほどき、走り出した。
「待って!」
俺とリーリャは慌てて追いかける。
角を曲がった先で、アリスは立ち止まった。
そして次の瞬間――
「ママ!!」
声を上げて駆け出した。
そこには、泣きながら街を歩いていた女性がいた。
「アリス!!」
母親がアリスを抱きしめる。
二人は泣きながら抱き合っていた。
その光景を見て、俺はスッと息を吐いた。
「……よかったな」
リーリャも、優しく微笑んだ。
「うん、よかった」
*
しばらくして、アリスの両親が俺たちのところに来た。
「本当にありがとうございました!」
何度も何度も頭を下げてくれる。
「いえ、当然のことです。この街の領主ですから」
俺がそう答えると、父親は驚いた顔をした。
「あなたが……新しい領主様なんですか?」
「はい」
「こんなに小さいのに……本当にありがとうございます」
アリスも、俺に駆け寄ってきた。
「ありがとう!」
満面の笑みで言われて、俺は少し照れながらも嬉しそうに笑った。
街の人々も、その様子を見てほっとした表情を浮かべていた。
ある人は「さすが新しい領主様だ」と言い、別の人は「この街は変わってきたな」と微笑んだ。
*
屋敷に戻る道すがら、俺はリーリャと並んで歩いた。
快晴の空が、街全体を明るく照らしている。
「ルカ、今日は良いことしたね」
「うん」
こうして少しずつ、街の信頼は積み重なっていくんだな――そう思った。
両親を失うような悲劇は、誰にも味わわせない。
街の人みんなが幸せになれる場所をつくる。
――そう心に誓った日だった。
*後書き*
今後の方向性について、少しだけご意見を聞かせてください。(かなり悩んでいます…)
・事件などは起こらず、終始ほのぼのした街づくり
・中程度の事件が起こり、内政をしっかり活かしつつ、基本はほのぼのした街づくり
今の作風を変えるつもりはないですが、どちらの展開が好みか、コメントで教えていただけるとありがたいです🙇
また、多くのいいねやブックマークなど、本当にありがとうございます!
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