第13話:絶対王者ルシアとのダブルグラビア。灼熱のコントラスト ―― どちらが「世界」を濡らすか

 撮影当日。プライベートビーチ「エメラルド・ラグーン」は、スタジオ以上の熱気に包まれていた。

 カメラマンの指示は一つ。

“二人が絡み合い、互いの美を食らい尽くせ”


​【バトルの火蓋:静のルシア、動の美優】

​ まずルシアが動いた。

 彼女がそこに“在る”だけで、空間が彼女のものになる。彼女が砂浜に横たわるだけで、周囲の空気が甘く、重く変質していく。完璧なポージング、一切の隙がないB102の曲線美。


 「カメラを通して、視聴者の精気を吸い取る」


――それが彼女の勝ち筋。彼女の瞳に見つめられた者は、モニター越しであっても、ルシア以外の存在を視界から排除されてしまう。

​ 対する美優は、あえて「無防備」で挑んだ。

 灼熱の太陽の下、美優の白い肌はまたたく間に紅潮し、真珠のような汗が首筋から胸元へと流れ落ちる。

 魔族やサキュバスは体温調節が完璧すぎて、こんな「無様な」発汗はしない。だが、その滴る汗と、荒くなる呼吸こそが、見る者に「彼女は今、ここで生きている」という強烈な実感を叩きつける。


​「……ふん、ただ暑苦しいだけじゃない」


 ルシアが美優の腰に手を回し、引き寄せる。撮影はツーショットの「絡み」へ。


​【中盤:肌と肌の「対話」】

​ ルシアのひんやりとした、滑らかな魔性の肌。

 美優の熱を帯びた、吸い付くような人間の肌。

​ 二人の肢体が重なった瞬間、カメラマンは息を呑んだ。

 ルシアが美優を「美の引き立て役」にしようと抱きしめるが、美優はそのルシアの冷徹な美しさを、自分の「熱」で溶かそうとする。


​「ねえ、ルシアさん。あなたの体、綺麗すぎて……まるで死んでるみたい」


 美優はルシアの耳元で囁き、わざと彼女の首筋に熱い吐息を吹きかけた。


​「……っ!?」


 ルシアの完璧な仮面が、一瞬だけ崩れる。

 サキュバスである自分が、ただの人間に「欲情」に近い動揺をさせられた。その「一瞬の動揺」――瞳の揺らぎと、微かな頬の染まりを、カメラマンは見逃さなかった。


​【終盤:読者の心を奪う「毒」】

​ 撮影のクライマックス。二人は波打ち際で、激しく打ち寄せる波に洗われながら絡み合う。

 ルシアは、圧倒的な「格」を見せつけるために、女王の眼差しをレンズに向ける。

 一方の美優は、波に飲まれ、砂にまみれ、腕の切り傷を海水に染みさせながらも、**「生きていて最高に楽しい」**という、無邪気で残酷なまでの笑顔を向けた。


​ 完璧な美の化身(ルシア)か、今この瞬間に燃え尽きようとする命(美優)か。


​ これが、この物語におけるバトルの本質。

 モニターを確認したプロデューサーたちは、震えが止まらなかった。


「……これは、歴史が変わる。ルシアが『負ける』かもしれない……」



​【初日撮影終了後:ルシアの敗北感】

​ スタッフが撤収する中、ルシアはガウンを羽織り、一人で海を見つめていた。

 彼女の指先は、まだ美優の「熱」を覚えていて、微かに震えている。


​ 絶対的な女王に、初めて「敗北の予感」を感じさせた日だった。

​ 一方、美優はゼノに抱えられながら、疲れ果てて眠りについていた。

 その寝顔には、戦いを終えた戦士のような清々しさがあった。





■刹那の静止画(ポエム) ―― 審判は読者へ

​ 撮影2日目

 撮影はいよいよ、本誌の巻頭を飾る「ソロカット対決」へと移った。

 コンセプトは**『沈黙の主張』**。小道具も、過度な演出も、背景の誤魔化しも一切なし。ただ、真っ白なスタジオの壁を背に、己の肉体ひとつで「最高のポーズ」を決め、読者の魂を射抜くという、もっとも地味で、もっとも残酷な勝負だ。

​ Awsome GYARUのプロデューサーたちも、この時ばかりは下品な冗談を飲み込み、モニターを凝視していた。


​【ルシア:完成された「静」】

​ 先陣を切ったのはルシア。

 彼女はゆっくりとカメラの前に立つと、長い指先を髪に絡ませ、僅かに腰を捻った。

 

 「――っ!」


 シャッター音が響くたび、現場の空気が「ルシア」という色に染まっていく。

 B102の重力に逆らう豊かな双丘、芸術品のようなくびれ、そして見る者の深層心理を暴くような艶然(えんぜん)たる微笑。

​ それは、数千年の時をかけて磨き上げられた「正解」のポーズだった。

 どの角度から撮っても、一点の曇りもない完璧な黄金比。彼女のポーズは、この世界(ガイア)における「美の教科書」そのものだった。


​「どう? これが、あなたたちが欲しがっていた『永遠』よ」


​ 彼女の瞳がそう語っている。カメラマンはトランス状態に陥ったようにシャッターを切り続けた。


​【美優:命を削る「動」】

​ 交代して、美優が白壁の前に立つ。

 彼女には、ルシアのような魔力的なオーラはない。B92の身体も、ルシアの隣に並べばどこか「子供っぽく」さえ見える。

​ しかし、美優が取ったポーズは、現場の誰もが予想しないものだった。

​ 彼女は、カメラを真っ直ぐに見据えたまま、膝をわずかに曲げ、自身の胸を両腕で抱きしめるように「凝縮」させた。

 それは、どこか自分を守るようでありながら、同時に大切な何かを読者に差し出すような、あまりに脆く、繊細なポーズ。

​ その時、照明の熱で美優の肌から一筋の汗が滴り、鎖骨のくぼみに溜まった。

 腕に残る「小さな切り傷」が、その動作によって僅かに開き、滲んだ赤が白い肌に一輪の毒花を添える。


​「……私の美しさは、今この瞬間にしか存在しない」


​ 美優は微笑まなかった。ただ、潤んだ瞳でレンズの向こうにいる「名もなき読者」の一人ひとりに、助けを求めるような、あるいは拒絶するような、それとも強い何か複雑な感情をぶつけた。

 

 それは「正解」のないポーズ。

 だが、見る者の胸を締め付け、二度と目を離せなくさせる、暴力的なまでの「生」の主張だった。


​【判定:審判は世界へ】

​「……カット! 撮影終了だ!」


​ カメラマンが崩れ落ちるように叫んだ。


 ルシアがマネージャーに呟いた。

​「……マネージャー。今後の私のスケジュール、全部キャンセルして。……少し、自分を磨き直さなきゃいけないみたい」


 機材のプレビュー画面には、二つの異なる宇宙が映し出されている。


​ルシア: 誰もがひれ伏す、完璧なる『神話』

​美優: 誰もが抱きしめたくなる、儚き『現実』


​ 企画プロデューサーは、冷や汗を拭いながらゼノとルシアのマネージャーに告げた。


​「……これ以上の演出は無意味だ。ここから先は、我々プロの領域じゃない。雑誌を手に取った読者が、どちらを『愛したい』と思ったか。その数だけで、次代の女王を決めさせてもらう」


​ ゼノは美優にガウンを掛けながら、彼女の指先がまだ微かに震えているのを感じた。

 全精力をポーズの一点に注ぎ込み、魂をレンズに叩きつけた代償だ。


​「……やりきったな、美優」

「ええ。あとは……この世界の連中が、どれだけ『本物』に飢えてるか、見ものね」


​【数日後:Awesome GYARU編集部】

​ 雑誌の発売当日。

 編集部の電話は、悲鳴に近い「熱狂」で埋め尽くされていた。


​「おい……読者投票のWEB速報、見ろよ!」

「マジかよ……これ、バグじゃねーのか!?」


​ 速報値のグラフは、数千年の常識を覆す異常な形を描いていた。

 一方、芸能ギルドの女帝イザベラは、届いたばかりの『Awesome GYARU』を手に、無言で美優のページを見つめていた。

 そのページには、美優が撮影中に流した涙の跡が、印刷を超えてなお輝いているように見えた。

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