第8話:密室で神々(プロデューサー)は笑う
異種族総合TVネットワーク本社の最上階。防音結界が完璧に施された第一会議室は、下界の喧騒とは無縁の静寂に包まれていた。
円卓の上には、前回の「おっぱい習字対決」の視聴率速報が誇らしげに掲げられている。
『瞬間最高視聴率:79.2%』
「……笑いが止まらねぇな」
プロデューサーAが、分厚い指でモニターを叩いた。そこにはアクリルボードに胸を押し当て、必死の形相で文字を書く美優とリナの静止画が映っている。
「マジそれっすよ。局が始まって以来の数字だって、会長も鼻高々でしたよ(笑)」
プロデューサーBが、琥珀色の魔導蒸留酒を喉に流し込みながら追従する。彼らにとって、画面の中の美女たちが流した汗も屈辱も、ただの「金の色」にしか見えていなかった。
「なぁ、次はもっと攻めようぜ。視聴者はもう、ただ脱ぐだけじゃ満足しねぇ。希少種である『ニンゲン』が、その脆弱な肉体で追い詰められる姿……これをもっとダイレクトに、かつバカバカしく演出してやるんだ」
プロデューサーAが身を乗り出し、悪魔のような提案を口にした。
「次は三本立てだ。まず一本目。美優とルナ族のミナで『野球拳』をやらせる」
「野球拳……ああ、あのニンゲンの古臭い儀式っすね? 負けたら脱ぐっていう」
「そうだ。だが、ただの野球拳じゃねぇ。ミナはルーン文字の占い師だ。運命を操る種族を相手に、魔法もクソもないニンゲンがどこまで粘れるか。絶望の中で一枚ずつ布が消えていく美優の顔……これだけで20分は持たせられるぜ」
二人の笑い声が、会議室に不快に響く。それまで黙って資料をめくっていたプロデューサーCが、ニヤリと口角を上げた。
「……じゃあ、二本目は俺の案でどうだ? 魔族のリリアとお天気コーナーをやらせるんだよ」
「お天気? 地味じゃねぇか?」
「いや。お天気解説中に、実際にスタジオに魔導災害(ウェザー・ストーム)を降らせるのさ。美優が『午後は雨でしょう』と言った瞬間に、バケツをひっくり返したような豪雨を降らせて、服をスケスケにしてやる。風速40メートルの暴風で衣装を引き裂き、寒さに震えさせて、乳首が浮くのを4Kカメラで抜くんだ。あいつらは遭難者さながらの表情をするだろうが、視聴者はそれを『お天気情報』として楽しむわけだ(笑)」
「最高じゃねぇか! ギャハハハ!」
会議室のボルテージが上がる。彼らにとって、これはクリエイティブな仕事であり、同時に最高に愉悦に満ちた遊びだった。
「で、極めつけの三本目。これが一番の自信作だ……ヴァンパイアのミランダを呼んで、『逆・献血』をやる」
プロデューサーBが身を乗り出す。
「逆献血……? ヴァンパイアが吸われるってことか?」
「その通り。魔界特有の巨大な吸血蚊(モスキート)をカプセルに放ち、ヴァンパイアのミランダを襲わせる。誇り高い吸血鬼が、下等な虫に血を吸われる屈辱的なリアクション……見たくないか? そして、その隣には美優を並べる。ニンゲンが蚊に血を吸われた時の、あの特有の赤らんだ肌と、生理的な拒絶反応……。あれは魔族の好事家にはたまらねぇはずだぜ」
「いいな! ニンゲンの血が、蚊の透明な腹を真っ赤に染めていく画面……想像しただけで、数字が跳ね上がるのが見えるぜ!」
プロデューサーAが立ち上がり、窓の外を見下ろした。眼下には、番組を「不謹慎だ」「低俗だ」と糾弾する倫理委員会のデモ隊が、蟻のように小さく見えている。
「あぁ、そういやクレームの山はどうなってる?」
「ああ、あれっすか(笑)。コールセンターのバイトと派遣に丸投げしてますよ。『ご意見承りました』って定型文を返させて終わりです。どうせ俺たちが対応するわけじゃねーしな。面倒な雑用は、あいつらにサンドバッグになってもらえばいいんですよ」
「だな(笑)。正社員様は、面白い玩具をどうやって壊すかだけ考えてりゃいい。そのために、合コンで『異種族総合ネットワークの社員です』って嘘つく特権を与えてやってんだからな」
三人は杯を掲げ、不吉な乾杯の音を響かせた。
「よし。美優、リリア、ミナ、ミランダ……。こいつらを徹底的に使い潰して、視聴率85%を奪い取るぞ。この世界の欲望を、一滴残らず吸い尽くしてやるんだ」
密室の神々は、自分たちの手で産み出される「地獄の3連企画」が、どれほどの熱狂と混乱を招くのかを夢想し、下品な笑い声を上げ続けた。
この時、彼らはまだ気づいていなかった。その過剰なまでの欲望が、皮肉にも「人間」という種族の誇りを再燃させ、彼女たちの絆を本物に進化させてしまうことに。
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