第7話:透明な境界線(アクリル)を愛で勃起させろ!

プロデューサーA

「この前の尻習字、数字凄かったな!」


プロデューサーB

「ゴールデンタイムとはいえな! ヤバイな!」


プロデューサーA

「今度は胸でアクリルボードに文字書くのやってみないか?」


プロデューサーB

「良いなそれ(笑)」


プロデューサーC

「またクレーム来るぞ(笑)」


プロデューサーA

「まぁ来たら来たでそんときはそんときよ(笑)」


プロデューサーC

「だな(笑)」


プロデューサーB

「俺等が対応するわけじゃねーしな(笑)」


プロデューサーA

「その為に外部に委託してコールセンターのスタッフ雇ってんだし(笑)」


プロデューサーB

「そそ、面倒な雑用はバイトか派遣にでもやらせときゃ良いからな(笑)」


プロデューサーA

「少し時給高めにして、やりがい(笑)でも持たせたきゃ、あいつ等それなりに働くからな。まぁ、そういうことだ。正社員様はラクしてなんぼよ! よし! 次回の企画はグラビアアイドル美優と龍族のリナのおっぱい習字で決定!」


「――つまり、こういうことだ。正社員様ってのは、面白い玩具を見つけて、それを適当に投げ込むのが仕事なんだよ」


​ 異種族総合TVネットワーク(ITN)の第一会議室。高級な葉巻の煙が燻る中、プロデューサーたちはモニターに映る「尻習字」の映像を眺めながら、下卑た笑い声を上げていた。


 「視聴率65%。笑いが止まらん。前回の尻でここまで跳ねたんだ。次はもっと『上』を狙おうじゃないか」


​ 彼らが企画したのは、もはやバラエティの域を超えた暴挙。等身大の透明アクリルボードに、二人の美女が「胸」だけで文字を綴る――


『おっぱい習字・透明ボード決戦』

 

「クレーム? コールセンターのバイトに『貴重なご意見ありがとうございます』って言わせときゃいい。俺たちの給料は、その苦情の数だけ上がるんだからな」


​ 彼らにとって、美優やリナの誇りなど知ったことではない。ただの「数字を稼ぐ肉の塊」に過ぎなかった。

​ 数日後、スタジオのバックステージ。美優は渡されたフリップを見て、一瞬思わず顔が引きつった。


「……『勃』と『起』……?」


 意味を瞬時に理解し、顔がカッと熱くなる。一方で、隣に立つ龍族の少女・リナは、長い赤い髪を指で弄びながら、不思議そうに文字を覗き込んでいた。



​「ミユ、これ何て書いてあるの? 龍言語(ドラグ・ノーツ)とは全然違う形だけど、なんだか強そうな形ね」


​「……ええ、そうね。ある意味、世界で一番強くて、一番正直な力についての文字よ」


​ リナは、日本人と太古の昔にルーツを同じくする種族。言霊(ことだま)を操る彼女にとって、文字を書くことは神聖な儀式に近い。しかし、今夜彼女たちが命じられたのは、その神聖さを「性」という名の暴力で塗り潰す見世物だった。

 お互いルーツのことを知るのはまだ少し先のこととなる。


​「さて! 今夜のITNは眠らせないぜ! 赤コーナー、絶滅危惧種の肉体美・美優! 青コーナー、龍族の至宝・リナ! 両者、アクリルボードの裏へッ!!」


​ MCの煽りと共に、二人はマイクロビキニ姿で、巨大な透明ボードを前にして並んで立った。

 正面から見れば、二人のグラマラスな肉体が、ただ立っているように見える。


​「始めッ!!」


​ 二人は同時に、自らの豊かな胸に、最高級の魔導墨を塗りたくった。


 「……っ!」


 美優はアクリルボードに胸を押し当てた。ひんやりとした硬質な感触が、熱を持った肌を刺激する。彼女は全身を使い、のたうち回るような艶めかしい動きで、ボードに文字を刻んでいく。そして時折出る喘ぎ声のような、艶めかしい声が視聴率を後押ししていた。

 リナも負けてはいない。龍族特有のしなやかな肢体をくねらせ、言霊の力を無意識に込めながら、胸の重みを利用してダイナミックに文字をなぞる。

​ 正面のカメラが、アクリル越しに押し潰され、形を変える二人の「肉」を、至近距離で捉える。

 それはもはや習字ではなかった。

 二人の美女が、透明な境界線の上で、互いの存在を確かめ合うように激しく、狂おしく踊る――。

 

 その瞬間、視聴率は驚異の**79%**を記録した。

 生放送終了後。


​「はい、お電話ありがとうございます……。ええ、ご意見は重々承りました。……はい、上層部には必ず」


​ テレビ局の地下、コールセンター。

 外部委託先のスタッフたちは、耳が腐りそうな罵詈雑言をヘッドセット越しに聞き流しながら、手元の端末でネットニュースをチェックしていた。


​「……言うわけねーじゃん(笑)」


 電話を切ったスタッフAが、隣のBにニヤけながら囁く。


「俺ら、ただのサンドバッグだしな。テレビ局の社員ですらないのに、合コンじゃ『テレビ局勤務です』って言えば、女の子たちがホイホイついてくるんだから、この仕事辞めらんねーわ」

​「マジ? お前、それヤバいだろ(笑)。でもさ……あのおっぱい習字、マジでエロかったよな。俺も家帰って録画見直すわ」


​ 現場の「熱」を、権力者は「金」に変え、末端は「酒の肴」にする。

 それが、この世界の歪なエンターテインメントの正体だった。

​ 一方で、表の社会では嵐が吹き荒れていた。

 『異種族教育倫理守護評議会』と『全種族女性の尊厳を守る円卓会議』による合同記者会見。


​「あんな低俗な、ハレンチを通り越した冒涜を許していいのか!」

「子供たちの未来が、あの『おっぱい』によって汚されているのです!」


​ 激しい糾弾の声。美優とリナの名は、一晩にして「大陸で最も有名な悪女」として刻まれた。

​ スタジオの屋上。撮影を終えた二人は、まだ墨の匂いが残る肌を夜風に晒しながら、並んで座っていた。


​「……リナ。ごめんね、あんなバカなことに付き合わせちゃって」


 美優が俯くと、リナは不思議そうに彼女を見つめた。


​「どうして謝るの? 私、あんなに一生懸命文字を書いたの初めて。ミユの胸がボード越しに伝わってきて……なんだか、すごく熱かった。私、ミユのこと、もっと知りたくなったよ」

​「……リナ」

​「あいつらが何を言おうと、関係ない。あの瞬間、あのボードの上で、私とミユは一つだった。そうでしょ?」


​ リナの無垢な、しかし力強い言葉に、美優の目から涙がこぼれ落ちた。

 大の大人が会議室で笑い、バイトが電話で嘲笑い、評議会が怒鳴り散らす。

 そんな汚泥のような世界の中で、自分たちの「肉体(プライド)」だけが、嘘偽りのない言葉を綴っていた。


​「……ええ。次はもっと、あいつらの理性をぶち壊すくらいの、最高のポエムを書いてやりましょう」


​ 二人は固く、手を握り合った。

 種族も、血筋も、住む世界も違う。

 だが、最強のグラビアアイドルという「戦友」として、彼女たちの逆襲がここから始まる。

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