第3話 勇者パーティが『★1.0(ブラック認定)』された日 ~ところで元同僚のタンクさん、その怪我は「労災」で3億マナ請求できますよ~

 王都、冒険者ギルド本部。

 中央ホールにある巨大な電光掲示板の前で、勇者アルヴィンは叫んでいた。


「募集! Sランク勇者パーティ『ソウル・ブレイブ』の新メンバーだ! 今なら俺のサイン色紙もつけるぞ!」


 普段なら、勇者の募集とあれば黒山の人だかりができるはずだ。

 しかし、今日は違った。

 冒険者たちはアルヴィンを遠巻きに見つめ、ヒソヒソと陰口を叩いている。


「おい見ろよ、あれが例の……」

「給料未払いで会計係を追放したってマジ?」

「関わったら終わりだな」


「あ? なんだお前ら、聞こえてるぞ!」


 アルヴィンが睨みつけると、一人の若手冒険者が、恐る恐る指差した。


「あ、あの……勇者様。これ、見てないんですか?」


 若者が指したのは、ギルドの壁に貼られた『パーティ評価ランキング』の張り紙だ。


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【今週のワーストパーティ(ブラック認定)】

第1位:ソウル・ブレイブ(リーダー:勇者アルヴィン)

総合評価:★☆☆☆☆(1.0)


[最新の口コミ]

• 「給料は『感動』払い。現金支給なし」

• 「装備は自腹。壊れたら自己責任」

• 「パワハラ、モラハラ当たり前。会計係の人が可哀想だった」

• 「絶対に入ってはいけない。人生壊れます」

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「な、なんだこれえええええ!?」


 アルヴィンは絶叫した。

 評価欄には、真っ赤なインクでのスタンプが押されている。


「誰だ! こんなデタラメを書いたのは!」


 ◇


 同時刻。魔王城。


「んふふ、パンケーキおいしー!」


 アリスが山盛りのホイップクリームを頬張りながら、空中に浮かべたモニターを操作していた。

 画面には、例の『評価ランキング』が映し出されている。


「いやー、ネット工作って楽しいね。勇者パーティの悪評、ボットを使って拡散しておいたよ。これで新規採用は不可能だね」


「良い仕事です、CTO(最高技術責任者)」


 私は優雅に紅茶を飲みながら、アリスを褒めたたえた。


「人材の供給を断つ。兵糧攻めの基本ですね。……さて」


 私はモニターの画面を切り替えた。

 映し出されたのは、王都のスラム街。

 路地裏でうずくまる、一人の大男の姿だ。


「そろそろ、次の『資産』を回収しに行きましょうか」


 ◇


 王都、下層区画。

 腐った生ゴミの臭いが漂う路地裏。

 そこに、かつて『鉄壁』と呼ばれた男――重戦士ガントが座り込んでいた。


「……くそっ、足が」


 彼の右足は、どす黒く変色し、異様な方向に曲がっていた。

 先日、勇者の命令でドラゴンの攻撃を無理に受け止めた際に砕かれたのだ。


「治療費も出ねえし、装備も売っちまった……。俺はもう終わりか……」


 ガントは泥にまみれた顔で、空を見上げた。

 アルヴィンからは「怪我人は足手まといだ。ゴミ捨て場がお似合いだな」と捨てゼリフを吐かれ、パーティを追放されたばかりだ。


 その時。

 コツ、コツ、と革靴の音が響いた。


「おや。随分とみすぼらしい姿ですね、ガントさん」


「……クリフ、か?」


 ガントは虚ろな目で私を見た。


「笑いに来たのか? お前の言った通りだ。俺は使い捨ての盾だったよ」


「いいえ。私は『ビジネス』に来たのです」


 私はハンカチで鼻を押さえながら、彼の前にしゃがみ込んだ。

 そして、懐から愛用の魔導計算杖カリキュレーターを取り出し、彼の右足にかざす。


「【労働災害監査(オーディット・労災モード)】」


 ――ビッ!


 ガントの足元に、青白い光の魔法陣が展開される。

 そこには、怪我の状況ではなく『責任の所在』を示すログが浮かび上がった。


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[Audit Log: Injury Analysis]

受傷日時: 聖暦1024/09/10

原因: ドラゴン・テイルによる物理衝撃

回避判定: 可能(成功率98%)

阻害要因: リーダー命令による「回避禁止(Stay)」の強制


判定:

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「……やはり。これは事故じゃない。明確な『指揮ミス』による人災ですね」


「だ、だから何だっていうんだ。アルヴィンは『自己責任』だって……」


「いいえ。ギルド法第108条において、指揮ミスによる負傷は全額リーダーが補償する義務があります。さらに――」


 私はニヤリと笑い、電卓を弾いた。


「後遺障害慰謝料、休業損害、逸失利益……合わせて推定3億マナ。これだけの請求権が、貴方のその『折れた足』には眠っているんですよ」


「さ、3億……!?」


 ガントが目を見開く。


「もちろん、アルヴィン個人に支払い能力はないでしょう。ですが、ギルドには『冒険者・特別労災保険』という積立金があります。私が書類を書けば、明日にはおりますよ」


 私は契約書を差し出した。


「どうしますか? このまま野垂れ死ぬか、私と契約して3億マナを勝ち取るか。……手数料として20%頂きますが」


 ガントは震える手で、契約書を掴んだ。

 その目には、諦めではなく、燃えるような生気が戻っていた。


「……頼む。あいつに、一泡吹かせてやりたい」


契約成立ディールです」


 私は彼の手を強く握り返した。


「さあ、行きましょうか。最高の治療院と、温かい食事が待っていますよ」


 ◇


 翌日。

 ギルド本部の受付カウンターにて。


「だから! そんな申請通らないってば!」


 受付嬢がヒステリックに叫んでいた。

 しかし、私は無言で分厚い書類の束――『被害状況証明書(ログ付き)』を叩きつけた。


「通らない? おかしいですね。ギルド規約によれば『客観的証拠がある場合は即時支給』のはずですが? それとも……」


 私は眼鏡の位置を直し、低い声で囁いた。


「この件を、ゴシップ誌の『週刊暴露ウィークリーク』に持ち込みましょうか? ……なんて記事が出れば、支部長の首が飛びますよ?」


「うっ……」


 受付嬢の顔色が青ざめる。

 奥から、慌てた様子の支部長が飛び出してきた。

 交渉時間は、わずか3分。


 ◇


 その日の午後。

 治療院のベッドで、ガントは自身の石板を見つめていた。


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【入金通知】

振込人: ギルド共済組合(ダンジョン労災口)

金額: 300,000,000 マナ

摘要: 損害賠償金および和解金

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「すげぇ……本当に、振り込まれやがった……」


 ガントの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。


「クリフ、ありがとう……! これでお袋に楽をさせてやれる……!」


「礼には及びません。正当な権利ですから」


 私は報酬の6000万マナ(20%)を自分の口座に移しながら、微笑んだ。


「さて、これで仲間も増えましたね。ガントさん、足が治ったらウチの警備部長(兼・荷物持ち)になってもらいますよ。魔王城の社食は、ミスリルステーキが食べ放題ですから」


「おう! 一生ついていくぜ!」


 こうして私は、最強の盾と、巨額の軍資金を手に入れた。

 一方その頃、勇者アルヴィンの元には、ギルドからが届こうとしていた。


(続く)


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【次話予告】

ギルド「労災の支払いで予算が飛びました。つきましては、勇者パーティの保険料を500%増額します」

勇者「払えるかァァァ!」

次回、借金まみれになった勇者が、禁断の「闇バイト(違法ダンジョン)」に手を染める……?

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2026年1月14日 18:07
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『経費削減がうるさい』と追放されたSランクパーティの会計係、実は世界経済を裏で操る『監査の魔王』だった件 ~勇者様、装備のサブスク料金が未払いなので、その聖剣は今からただの鉄屑です~ あとりえむ @atelierm

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