第2幕

A

 窓の外に田中を見つけて僕は悪いことをしたと思った。玄関に首吊り、びっくりしているだろう。



B

 外はまだ明るいのに浅川の部屋の中は薄暗かった。ドアの向こうにぼんやりしたかたまりの陰が見えて一瞬ドキッとするが、すぐに曇りガラスの向こうにカーテンがかけてあるだけだとわかった。チャイムを鳴らすと意外なほどあっさり浅川が出てきた。


 メールについて聞くと、首吊り死体の幽霊が突然現れた、と浅川は言った。



A

 玄関の首吊り死体を押しのけて田中は平然と部屋に入ってきた。

 ドアを指差して大丈夫? と聞くと田中は

「おれには見えない」

 とメモ帳に書いた。

「ここって事故物件かなにか?」

 とさらに書いた。


B

 浅川は音声認識システムが霊の声を拾いはじめたと言った。ミーの端末を立ち上げて、すぐに実演して見せてくれた。誰も手を触れていないのに画面に文字が流れ込んでくる様子はたしかに学校の怪談でよくある音楽室のひとりでになるピアノのように見えなくもなかった。


どうぞお帰りになってください怖れを知らないあなたは扉を潜りました希望は叶わず悲しみに暮れるだけわたしは天上には参れぬ身ですどうぞお帰りになってください


 あまり歓迎されてない雰囲気だったので、体が固くなるのを感じた。



C

 田中がまるで白馬に乗って私の家に向かって来たのが見たときは笑ってしまいました。しかし、普通の自動車にも大抵コンピューターが入っている時代だから私にとってはその方が都合がよかったです。というのも、私の唯一の通信手段である音声認識端末の電磁波と干渉しないからです。私自身からもなにか電磁波のようなものが出ているようです。それに触れると浅川は鬱々とした気持ちになって、なにをするのもつらくなるようでした。布団すら何日も干していないので床の上に人型のカビが生えていました。

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