TS転生した俺、イケメン天使を天界から拉致する

山田

【短編】TS転生した俺、イケメン天使を天界から誘拐する

吾輩わがはいヒマであります!」


 俺は大声で宣言した。

 ここは大学の食堂のど真ん中。

 周りの人が俺を避けて通る。


「あーヒマだなー。あーあーなんか今超ヒマなんだけど」


 誰も目を合わせてくれない。なんでだろう。

 焼きそばを乗せたプレートを持って1番端っこの席まで歩く。周りには誰も近寄ってこない。

 この席は柱が死角となっていて、ぼっち飯を誰にも見られないように設計されている。

 職人の配慮がこれでもかと行き届いているのを毎日感じる。これが日本の職人魂なのだ。


 頭の中で某ドキュメンタリー番組のテーマソングが流れる。

〈暇人大学生の流儀〜ぼっちのプロフェッショナル〜〉

 俺は焼きそばを食べながらインタビューにキメ顔で答える。


 Q. なぜ1人でお昼ご飯を食べているのか?

 A. ふーむそれは、ぼっちだから。


 Q. なぜ友達や彼女と食べないのか?

 A. うーむそれは、ぼっちだから。


 Q. なぜ

 A. だからさっきからぼっちだからって言ってんじゃろがい!




 大学に入って夢のキャンパスライフを送る予定だった俺。3ヶ月経ったが友達も彼女もできない。

 おかしい。明らかにおかしい。

 大学生だし積極的に声をかけてるのに。顔と名前が分からなくても、あるいは接点すらなくても。

 主体的に友好を育む態度と自主性を重んじ、特に可愛い女子に声をかけまくっている。

 今の所全部失敗だ。


 ゴホゴホ、ゴッホ、ゴッホ。

 考え事をしていたら焼きそばを喉に詰まらせてしまった。急いで水を飲まなければ。そう思う俺だったが手元に水がない。

 あれれ、だんだんと意識が遠くなっていく。

 周りには誰もおらず、目の前の柱が死角になって気づく人がいない。

 職人の配慮が裏目に出てしまった形だ。

 

(あ、焼きそばの紅生姜入れ忘れた)

 意識が途切れる直前そう思った。



◆◇◆◇◆


 気がつくと白い空間に立っていた。

 「立っていた」という表現が正しいかどうかは分からない。

 床はあるのか天井はあるのか。

 アタシは誰なのかここはどこなのか。

 当たり前の感覚が麻痺している。

 とにかく「白い」。そんな感想しか浮かばなかった。

 

 ……。


 …………………。


 ……これはアレか?


 もしかしてアレなのか?

 

 俺がよく読んでるラノベとかアニメであるあるの。

 かの有名な、あの、あの、ほらアレだよ!!! 

 えーと何だっけ。こんなときに限って言葉が思いつかない。

 思い出せ思い出せ思い出せ!

 俺の脳みそが今までにない速度でフル回転する。

 生まれてから死ぬまでの光景が次々と蘇る。

 頬を涙が伝う。

 ああ、これが俺の人生。

 今まで生きてきた証が確かにそこにはあった。

 

 ………………。


 だめだ思い出せない。

 

 とりあえず「アレ」と呼ぶことにしよう。

 神様が出てきてチートもらうアレだ。


「神様はどんなんだ? 美女か? 老人か?」


「残念ながらそのどちらでもありません」

 

 突然後ろから声が聞こえた。

 俺は驚いて振り返る。

 

 何も無いと思っていた空間。

 そこに1つのデスクと1つのオフィスチェアがあった。

 書類の束が積まれた白いプラスチック製のデスク。

 どこにでもありそうな量産品の黒いオフィスチェア。

 

 そこにイケメンが背筋を伸ばして座っている。

 黒いスーツをぴっしり着込んだ30代くらいの日本人だ。

 短く刈り上げた黒髪がよく似合っている。

 黒縁の四角い眼鏡が少しキツイ印象を出していた。

 

 うーん、70点。

 イケメンではあるがちょっと神々しさに欠ける。


「あなたが神様ですか? なんか想像とだいぶ違うっていうか……」


「私は神ではありません。人間でいうところの神の使い、つまり天使です」


「えーと、その設定はちょっと無理なんじゃ。大体、羽も輪っかも見当たりませんけど」


 嘘はダメだぜ兄ちゃん。天使は性別を感じさせない美少年だと古来から決まっている。

 あれ? 天使って色々種類があるんだっけ? 

 中学生の頃天使と悪魔とか黒魔術について詳しく調べた記憶があるような。

 詳しく思い出そうとすると頭痛がしてくる。

 本能がヤメロと叫んでいた。


「私たち下位の天使は人間に親しみを抱かれるような外見をとるように創られています。日本人はこの姿が最も一般的で、警戒心を与えることがありません」


 天使はアナウンサーみたいに落ち着いた口調でそう俺に説明した。

 うーん、親しみかあ。親しみねえ。

 どうやら俺たち日本人は会社勤めのサラリーマンに親しみを抱いているらしい。

 いや確かに毎朝電車でいっぱい見るけど。

 日本人に1番親しまれているのがスーツ姿の社会人というのはどうなんだろう。

 もしかしたら社畜根性が日本民族に深く根付いているのかもしれない。


「どうぞ何なりとご質問ください」 

 

 ジロジロ見ていたら向こうから会話を振ってきた。

 イケメンとあまり会話したことがないので若干焦ってしまう。


「あ、ああ、えーと、あの、じゃあ後から神様くる感じですか?」


「神は多忙です。私が代行者として本案件を担当させていただきます。

 早速ですがあなたは神の不手際で焼きそばをのどに詰まらせて死にました。

 したがって慣例通り異世界に転生してもらいます。

 何かご質問はございますか」


 ありすぎて何から聞けばいいか分からない。

 落ち着け俺。状況を整理するんだ。

 俺は焼きそばの誤嚥ごえんで死んでしまった。

 それが神様のミスだったと。

 それで今から「アレ」、つまり異世界転生するわけだ。

 

 うーむ。なるほどなるほど。

 とりあえず母親と父親には申し訳ないが死んじまったものはしょうがない。

 転生できるだけラッキー、そう思っとこう。

 

「あの、えと転生するのはいいんですけど、チートとかって貰えますよね」


「転生に理解がある方で助かりました。

 転生するにあたり能力の付与が認められています。

 誠に勝手ながら能力の付与はこちら側でランダムに決めております」


 チートは選べない系か。

 まあこういうのは壊れチートがお約束だから多分大丈夫。

 これから俺TUEEEが始まって、美少女でハーレムを築くんだ。

 お父さんお母さんごめんなさい。

 息子は元気に異世界に行ってきます。

 向こうで孫もいっぱい作ります。

 見せられないのが残念です。


「あのー、転生先とかって選べたりしますか? できればイケメンでお願いしたいんですけど」

 

 ハーレムを作るにあたってイケメンはほぼ必須要素。

 王道キラキラ王子イケメン。

 笑顔が似合う爽やかイケメン。

 物憂げな儚い系イケメン

 不意な優しさが女性をキュンとさせるコワモテイケメン。

 

 あげればキリがないが、イケメンチョイスによってその後のハーレム人生が大きく左右される。

 選べるなら俺はミステリアス風イケメンになりたい。


 窓際に立つ俺。

 風が吹いてカーテンがふわりと舞い上がる。

 どこか悲しそうな顔の俺。

 そしてそれを陰から見つめる隣のクラスの美少ーー


「ーーさん。おい、戻ってーー、ース野郎ーーー。

 聞こえてるんですか?」


 ハッ! しまったつい妄想の世界に行ってしまった!


「行くなら異世界にしとっけてね、なんつって」


 ……………………。


 おい、おい、この人なんかキレてない?

 俺が何かしたか? 全く身に覚えがないんだが。


 天使は感情がうかがえない顔で説明を続けた。


「先ほどの説明は聞いておられましたか。

 もう一度言いますが、転生先の世界にはモンスターや魔法が存在しています。

 あなたにはその世界の貴族階級に転生してもらいます。

 あなたの異世界の振る舞いについてこちらから特に要望はありません」


「で、俺はイケメンに転生できるんですよね?」


「知るか。良い加減どつくぞ」

 

 怒られた。これだから余裕のない大人はダメなのだ。

 仕事で忙しいのは分かるが心に余裕がない大人はすぐにキレる。


「他に質問がないようでしたら早速転生に入りますがよろしいですか」


 天使が少しイライラしながら聞いてくる。

 うーん、質問か。


「あ、能力の詳細とかってーー」


「質問が無いようなので転生に入ります。

 それでは快適な異世界ライフをお送りください。 本日は天界をご利用いただきまことにありがとうございました。

 またのお越しをお待ちしております」

 

 そう早口でまくしたてられた。


「えちょ、待って」


 とっさに俺は手を掴む。

 

「おい、この手を離しやがれクソ野ーー」

 

 驚きに目を見開いた天使が何事かを言い切る前に白い光が俺を包んだ。



◆◇◆◇◆



 という夢を見た。

 いやー、随分とリアルな夢ですこと。


「勝手に夢オチにしてんじゃねえ」

 

 おっと私としたことが。天使様からお叱りを受けてしまったわ。


 てへぺろりん。上目使いで天使に謝る。


「全然可愛くねえんだわ」

 

 そっぽをむいて天使様はそう言った。

 やだ、天使様ったら辛辣ぅ! 

 でもそんなところがス・テ・キ!

 私は頬を紅潮させてクネクネ動いた。

 え? 男が何してるのかって? クネクネ動くな気持ち悪い?

 失敬な。私は立派なレディ。正真正銘のお嬢様ですわ。


 え? 冗談は顔だけにしとけって?

 いやいや本当に私はレディにの。

 赤ちゃんに転生した私はすぐに気付いたわ。

 大事なものを忘れてきたことに。

 俗にいうTS転生ってやつね。

 そりゃもう最初はギャン泣きよ。

 夜な夜な息子のことを思っては泣き喚いて家族を叩き起こしたわ。

 その度におしめを取り替えられて大変だったんだから。


 でも1年近く経ってからかしら。

 私だんだんと状況を受け入れてきたの。

 感情のコントロールができるようになって来たのね。


 それにね、天使様がこの世界についてきてくれたの。

 私のチートスキルは「天使召喚ゆうかい」。

 天使を異界から呼び出せるスキルなの。

 私が幸せになれるまで天使が導いてくれるスキルなんだって。


 あ、ちなみに天使様はみんなの前では黒猫の姿になるの。最初に化けたときは驚いたけど、天使様のちょっとムスッとした顔は猫になっても変わらなくてちょっと笑ちゃったわ。

 どういう原理かは私もよくわからないけど、この世界には魔法なんて不思議なものがあるから、あんまり気にしないことにしてるの。

 私の飼い猫として今は一緒に暮らしてるわ。

 私の家族からも友達からも可愛い可愛いって評判なんだから。


「よう、久しぶりだな。クソガキ。

 あのときの天使だ。覚えてるか?

 テメエのスキルのせいで俺までこっちの世界に来ちまった。

 しかもスキルの効果で帰れねえ。

 どう落とし前つけてくれるんだ、おお?」


 最初に黒猫の姿になって私の前に現れたとき彼はそう言ってキレてたわ。

 でもまだその時は私は生まれて間もない頃。

 女に生まれたのが信じられなくて夜通し泣き喚いていたの。

 そんな私を見てられなくなったのね、きっと。


「ま、まあ、落ち着け。イケメンではないが、結構お前可愛いから、大丈夫だって」


 そう言って頭を撫でて慰めてくれたわ。彼、口は悪いけど、実は優しいの。

 

 そこから私は決めたの、男も女も関係ない。

 今世こそ薔薇色の人生を歩むって。

 そこから私は頑張ったわ。

 自分を磨いて、素敵な相手と出会うために。

 幸い裕福な貴族に生まれたおかげでお金で困ることはなかったの。

 私は小さいころから色んなことに挑戦したわ。


 でもどれもダメだった。

 私は生まれ変わっても不器用なままだった。


 それでもめげずに努力を続けたわ。

 男子へのアプローチだって頑張った。

 小学校、中学校、そして高校。

 いつか私の良さを分かってくれる人がいるって。

 私を「可愛い」って言ってくれる人がいると信じて。

 今日も同じクラスの気になってる男子と仲良くしようと頑張ったの。

 結局空回りしちゃったけど。


 そんな日は今日みたいに寝る前に天使様に慰めてもらうの。

 赤子のときみたいに頭を撫でてくれることはもうないけれど。

 でも天使様と話してるだけで明日も頑張ろうと思えるわ。


「お前の良さを分かってくれるやつは案外近くにいると思うが」


 彼はベッドに腰掛けてぶっきらぼうにそんなことを言う。

 今日も天使様は優しい。

 優しすぎるからいつもこんなことを言ってくれる。

 でもいつまでも甘えてちゃだめ。

 ちゃんと自分の力で幸せになって、彼を天界に帰してあげなきゃ。

 私はそう決心する。


「おら、もう落ち着いただろ。明日も学校があんだろうが。とっとと寝ろ」


 天使様が魔法で部屋の明かりを消してくれる。

 私は安心して眠りに落ちた。

 

◆◇◆◇◆


 誰もが寝静まった夜。

 オレは穏やかな寝息を立てる乙女の頭をそっと撫でる。


 最初、異世界に召喚されたときはかなり焦った。

 仲間の噂で天使を異世界に召喚するスキルがあることは知っていた。召喚主の願望を叶えるまで天界には帰れないことも。

 でもまさかオレが当事者になるなんて思ってなかった。とりあえずオレは召喚主のところに行くことにした。召喚主はあの男に違いないと思った。スキルの効果で召喚主の居場所は簡単に分かった。

 見つけ出したときはまだ赤子だったが、オレは構わず怒鳴りつけた。しかし、オレを無視してヤツは泣き続けた。魔法で心を読むと何やら性別が変わったのが大変ショックであったらしい。


 オレはマズイと思った。コイツが幸せになるまで天界に帰ることが出来ないからだ。

 それからというもの、俺はヤツが泣く度に頭を撫でてとりあえず慰めてやった。すると少し経ってからヤツは前を向き始めた。出来ることから挑戦するようになった。

 最初はオレもこれで早く天界に帰れると喜んだ。

 だが結局ぬか喜びに終わった。

 ヤツは不器用だったのだ。

 天使のオレから見ても不器用な人間だった。


 何をやっても上手くいかない。

 何をやらせても人並み以下。

 それなのに一生懸命、ひたむきにヤツは生きた。

 早く天界に帰ることしか考えてなかったオレは、最初こそイラついたものの、いつしかヤツの生き方を近くでもっと見ていたいと思うようになった。


 天界では死んだ人間を書類で見て、ソイツの一生を評価する。そして最終的にAからEの5段階評価がつく。書類で見た前回のヤツの人生はD評価だった。犯罪を犯すとE評価だから、実質ほとんどの人間にとっては最低評価だ。だから大したことない人間のはずだった。


 でもオレの目に映るヤツは違った。

 D評価なのが信じられないくらい、ヤツは必死に生きていた。もしかしたらオレが今まで見てきた書類の評価は全て間違いだったのかもしれない、そう思うくらいに。


 今日も何やら空回って落ち込んでいるらしかったので話を聞いてやった。気になる男と上手くいかなかったらしい。当然だ。あの男はコイツに相応しくなかったのでオレが魔法を使って妨害した。

 これまでいくつかコイツが男と関係を発展させようとしたことがあったが、コイツに相応しい男ではなかったためにオレが妨害工作をしておいた。

 せいぜいB評価程度の男だったので話にならない。

 


「チッ。同僚からの連絡がうるせえな」


 物思いに耽っているとテレパシーが飛んできた。

 何やらうるさいのでテレパシーの回線を遮断する。

 今までに天界から早く帰ってこいと何回も連絡が入っているが全て無視だ。


 まだ。まだだ。今はまだ焦る時期ではない。

 だがもしも、もしもこのままコイツに相応しい男が現れなければ。

 そのときはオレがコイツを……

 

 月の光が乙女の寝顔を照らす。

 異界に堕ちた天使は仄暗い笑みを浮かべて頭を撫で続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

TS転生した俺、イケメン天使を天界から拉致する 山田 @yamada-tarou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画