第5話 麦ちゃんは、もえています。⑤


麦ちゃんの意見を確かめるために俺は手紙を書くことにした。


こうして手紙を書いてみて気づくのは文章を書くのは苦手だということ。考えていることを口にするのは得意だったけど、それを整理して文にするとなると筆が止まる。書いては消して、書いては消しての繰り返し。そうしているうちに紙が汚れて、新しいものを用意するはめになる。


それでもまあなんとか書き終えて、丁寧に包装して麦ちゃんの部屋の前に向かう。廊下にしゃがんでドアの隙間から手紙を入れようとするけど、意外とドアの隙間が狭く、そして手紙の方も分厚くて入らない。何とかして入らないかと試しているうちに来客があった。


「……何やってるんですか?」


声がした方を振り向くとそこにいたのは佐野さんだった。麦ちゃんの部屋のドアの前でしゃがんでいる俺を、見下すようにして立っていた。すごくジト目になっている。今は春休みだからこんな昼間から遊びに来たとしても不思議ではない。ガーリーな私服は中学生らしくて可愛らしいな。


「ヘンタイ」

「いや。待て、違う。この手紙を麦ちゃんに届けてくれないか?」

「ドスケベ恋文ですか?」

「え?」

「……すいません。距離感を間違えました。それを届けたらいいんですね? 大丈夫ですよ分かってます。麦ちゃんからおおよその話は聞いていますから。まあ安心してわたしに任せてくれて構いません。あ、もちろんこうして口数が多くなっているのは先ほどの失態を誤魔化すためでは決してなくですね。ただ大丈夫だというのをこれでもかとアピールしているだけなのですよ」

「た、助かるよ」


俺は佐野さんに手紙を渡して自室に戻る。まさか佐野さんがあんなキャラだとは思わなかったけど、まあ内気な麦ちゃんの友達は、あれくらい口数が多い方が相性が良いのかもしれないな。それにしても佐野さんと麦ちゃんはどうして友達になったのだろうか。





景都には自虐的に何もしていないと言ったけど、麦ちゃんに一緒に漫画を描いてくださいとお願いされてからのこの2週間は、自分の絵を漫画のものに寄せるための訓練を行なっていた。


もちろん有名な漫画家の絵柄をトレスする練習法も考えたけど、それよりは自分の才能を信じて絵に関してはオリジナルで漫画を描こうと考えていた。まだどんな風に麦ちゃんと一緒に漫画を描くのかってのは決まっていないんだけどな。まあ麦ちゃんはきっと俺の絵の才能を欲しがっていると思う。


自室で漫画絵の練習をしているとドアがノックされる。


「佐野です。入っていいですか?」

「あ、どうぞ」


返事をするとドアが開き佐野さんが入室した。佐野さんはキョロキョロと部屋を見渡して、ふふふと不敵な笑みを浮かべる。なんの面白味もない普通の男子高校生の部屋だと思うけどな。それでもまあ中学二年生になろうとする女子が、高校三年生になろうとする男子の部屋に入ったときというのは笑みの一つも零れるものなのだろう。


「麦ちゃんからお手紙を預かっています」

「伝言で良いのにな」

「兄妹揃っておんなじことを言いますね」


俺の場合は仕方がないだろ? そもそも佐野さんが今日家に来るなんて知らされていないんだから。伝言なんて考える暇もなく手紙を書いてしまっていた。それに伝言にするにしては随分と長いこと書いてしまったからな。おかげでドアの隙間を通らないくらいには分厚い手紙になってしまった。そんな言い訳のようなことを考えながら佐野さんから手紙を受け取った俺はさっそく内容に目を通す。




わたしが原作で、お兄ちゃんが作画です




「なあ佐野さん、麦ちゃんは俺のことをお兄ちゃんって呼んでくれるらしい」


目から涙が零れる。零れた涙は頬を伝って口に触れる。ちょっとしょっぱい。俺はどうしようもなくお兄ちゃん失格だと思っていたんだけどな。人生の途中から兄になったっていうこれは兄の視点の話であって、妹からしてみれば兄というのは生まれたそのときから兄なのだ。


「……えぇ」


佐野さんはちょっと引いていた。




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