第2話 雑な救済
<暗黒区域・アムセンス>
夜の広場には松明が立ち、即席の処刑台が組まれていた。
鎖に繋がれた奴隷たちは、声も出せず俯いている。
その前で、盗賊の長ランサが笑っていた。
「見せしめだ。逆らえばこうなる」
恐怖だけで保たれた秩序。
町人たちは目を伏せ、誰も止めない。
――その瞬間。ドゴォン!!
広場脇の建物の屋根が砕け、瓦礫と共に一人の女が降ってきた。 地面が揺れ、悲鳴が上がる。
「うわ、ごめんごめん。着地失敗しちゃった!後、お尻痛いなぁ」
埃の中から現れたのは、旅装の少女――
カエデ=ウェルカラー。
ランサが怒鳴る。
「何だテメェは!!」
カエデは鎖で繋がれた奴隷を一瞥し、首を傾げた。
「まずはそれを今すぐやめよっか。普通に死んじゃうから!」
「は?」
説明はそれだけだった。 盗賊たちが一斉に動く。
だが次の瞬間、広場は戦場になった。
カエデは落ちていた剣を拾う。
斬る――が、刃は決して急所を外さない。
骨を砕き、武器を弾き、身体を吹き飛ばす。
魔術が炸裂し、石畳が割れ、倉庫の壁が崩れる。
盗賊は倒れていくが、死者は出なかった。
その代わり――市場が潰れ、家屋が倒れ、塔が半壊した。 町人の悲鳴は、盗賊への恐怖から、別のものへ変わっていく。
「我が家が!!」 「うちの店が!!」
ランサはすでに腰が引けていた。
「ま、待て!話せば――」
カエデは振り向く。
「ごめん、興味ない」 一撃。
衝撃波でランサは壁に叩きつけられて気絶する。 ――ちゃんと生きている。
盗賊たちは逃げ散った。
静寂。
カエデは剣を捨てては、奴隷たちの鎖を切る。 「はい。これで自由だよ~!」
誰も喜びの声を上げない。
瓦礫の山と、燃える建物が、それを許さなかった。
町人たちの視線が、カエデに集まる。
「……盗賊はいなくなった」
「でも、町が……」
少年が一歩前に出る。
「命は助かった。でも……ここには、もう住めない」
その言葉が、答えだった。 町人の一人が言う。
「出て行ってくれ」
彼女は予想外の言葉に驚いていた。
「えぇ!?アタシ、感謝されてもよくない?」
別の声が聞こえる。
「うるせー!」 「テメェ!よくも町をめちゃくちゃにしてくれたなー!」
感謝はない。英雄扱いもない。
彼女は少しだけ目を瞬かせてから、あっさり笑った。
「もー!なんでいつもこうなるのよー!」
「暗黒区域の人たちって本当に恩知らずなんだからー!」
彼女は急いで荷物を背負っては町を出る。
誰も引き止めない。
町の外れで、彼女は一度だけ振り返る。
瓦礫の中で生きている人々。
それを確認して、満足そうに呟いた。
「それでも皆死ななかったなら、まぁいっか!」
星が近い夜空の下、 カエデ=ウェルカラーは、また一つ町を救い、 そして――嫌われた。
星巫女の旅 ヘカテ @Hekate107
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