星巫女の旅

ヘカテ

第1話 星の未来


<プロローグ>

「ねんねん~ころり~♪母のひざは~♪

夢を誘う~♪ ゆりかごよ~♪」

どこか懐かしく、胸の奥に染み入るような歌声。

一人の美女が赤子を胸に抱き、優しく揺らしながら子守唄を口ずさんでいた。

「ふふっ……寝顔が可愛いなぁ~」

赤子は穏やかな寝息を立てている。


1話 星の未来


カエデ=ウェルカラー。彼女は旅人であり、この物語の主人公である。

彼女が立ち寄った町は数知れず。そして――彼女と関わった者の人生は、決まって大きく歪んだ。

人々は噂する。「カエデと関わった者は、未来と運を吸い尽くされる」

それは呪いのように、真実だった。


<街中>

裕福そうな夫婦が、店先に飾られたウェディングドレスを眺めていた。

「すっごく綺麗ねぇ~!」

「千万円か。安いもんだな」

その背後から、気の抜けた声が割り込む。

「そんな安物、やめておいた方がいいよ。君には似合わない~似合わない~!」

振り返った男は眉をひそめる。

「……は?」

次の瞬間、男は地面に転がっていた。

カエデは軽く足を払っただけだった。

「結婚なんて退屈だよ。若い女神なら旅をして、自分磨きに時間を使わなきゃ」

言葉に心を奪われた女は、男を置き去りにしてカエデへ近づく。

だがカエデは、もう興味を失ったように手を振り、その場を去った。

その後、二人がどうなったのか。彼女が知ることはない。


<とある店>

株で一夜にして成功した男は、カエデの言葉を“星の導き”として信じた。

「クラブを全部買い占めよう!世界中から優秀な人材を集めるの!そして肝心の店名は“カエデ”でいいからさ!アタシを信じて頑張ろう!」

結果、店は崩壊。男は破産し、全てを失った。

カエデは――その町を、すでに去っていた。


<カジノ船>

年齢を偽ってカジノ船に潜り込んだ、十二歳のカエデ。

結果は大敗。借金は二億ゼニー。

「此処は占い払いで!」

正直すぎる占いは怒りを買い、責任はすべて船主に押し付けられた。

彼の人生は、その夜で終わった。


<高級レストラン>

星占いで人の心を掴み、神のように崇められた夜。

とある男性と講演会の約束を交わし、多額の前金を受け取る。

だが――当日、カエデは現れなかった。

信用を失い、金も家族も失った男を、彼女はもう覚えていない。



――暗黒区域

法も秩序も存在しない大陸。

命が軽く、戻れなくなる者も多い地。

暗黒区域に踏み込むためには、世界からの許可、または資格が必要。

だがカエデは許可も資格も持たないまま、暗黒区域に足を踏み入れた。

「世界って思ったよりずっと深いねぇ」

恐怖よりも好奇心。それが彼女を突き動かしていた。


<暗黒区域・アムセンス>

女・子ども・老人が奴隷として扱われる町。

倒れた子どもに鞭を振るう兵を見て、カエデは足を止めた。

「それ以上やると、その子死んじゃうよ?」

警告は、忠告ではなかった。

次の瞬間、兵は軽々と投げ飛ばされ、地面を転がる。

「アタシ、自由を奪われている人にすごく弱いんだよねぇ~!」

兵を遊ぶように叩きのめす。

だが――すぐに兵は集まり始めた。


そしてカエデは庇った子どもを抱えて逃走する。

兵から逃げ切ったカエデたちは瓦礫の陰で息を整える。

「……やっぱり、そうなるよねぇ」

侵入者が出れば、見せしめとして奴隷が殺される。

「アタシのせいで誰かが死ぬのは……マジ嫌だなぁ~」

夜空を見上げる。

「星で見える未来って、人の未来だけなんだよねぇ。町の未来が見えたら、めっちゃ楽なんだけどさぁ」

彼女はまだ、迷っていた。


<アムセンス・アジト>

町は盗賊の長・ランサに支配されていた。

拘束された町長アツトが叫ぶ。

「お前たち!人の命を何だと思っている!」

「ここは暗黒区域。弱い奴は、生き方を選べねぇんだよ!」

そこへ報告が入る。

「侵入者の名は、カエデ=ウェルカラー」

ランサは一瞬だけ顔をしかめ、すぐに笑った。

「……ウェルカラーだと?クロトア帝国か?厄介そうな名だが、所詮は一人」

剣を肩に担ぎ、命じる。

「町を封鎖しろ。侵入者は――見せしめの前に叩き潰す」

星巫女と、1人の盗賊の長。

だがその力の差を、まだ誰も理解していなかった。





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