第5話 統一の光と、鉄の沈黙(1991―1995)

1991年末、東西は再統一され、名実ともにオワリア共和国が成立する。


しかし、長年の分断が生んだ経済格差、価値観の断絶、旧体制勢力同士の対立は、統一国家の政治を深刻に麻痺させた。


汚職と無能が蔓延する中、政治家ワタナベ・テツロウの不正疑惑は体制不信を決定的なものにする。


1995年、混乱に乗じてフリハタ将軍率いる国軍が首都を制圧。


夜明け前、首都は異様に静かだった。  


戦車のエンジン音だけが、低く地面を震わせる。


フリハタ将軍は、無線を握ったまま動かなかった。


この一歩で、歴史は後戻りしない。


「開始せよ。」


短い命令。

放送局が制圧され、議会が包囲される。


ラジオから流れた声は、冷静だった。


「国民諸君。我々は混乱を終わらせる。」


銃声はほとんどなかった。


抵抗する者が、もう残っていなかったからだ。


将軍は思った。


――私は救済者ではない。

――だが、誰かが終わらせねばならなかった。


鉄の門が閉じる音が、夜明けと重なった。


ラジオから流れたのは、仏教の慈悲や和解ではなく、「秩序」「安定」「国家の再建」を掲げる軍事声明であった。


こうして、平和と独立を求め続けた50年の歴史は、軍事独裁政権という冷たい鉄の門によって、ひとつの時代の終焉を迎える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

架空国家オワリア激動の現代史 無邪気な棘 @mujakinatoge

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画