第2話

 改めて見るとメモ書きの雑さが目立つ。

 あの病院かなり大きいからちゃんとしてる所だとは思うが、医者も看護師も適当な人が多いな。

 そもそもこの街の道が分かりづらい、裏路地への通路は至る所にあるし、道は空飛ぶ車用の空中道路もあって、上も下も目まぐるしい。

 この調子だと試験会場着くのに何日かかるんだこれ。

 そんなこんなで迷っていると、一人の少女が棒キャンディを咥えながら近づいてきた。


「お兄さん旅人?」

「んあ? まぁそんな所だけど」


 見た所中高生くらいの女の子、今更だけど宇宙人と言っても見た目は地球人と変わらないな。そこが妙な親近感の原因でもあるかもしれない。


「そのチラシ、お兄さんパイロット目指してるの? 私案内しようか?」

「お嬢ちゃん、人助けしようとするのは感心するけど、あまり知らない人に話しかけないほうがいいよ」

「うーん、お兄さん悪い人じゃなさそうだから大丈夫かなって」

「それはありがたいけどさ」


 この星の住民の特徴なのかな、かなり人情味があって優しい気持ちになれる。

 だが、年下の少女に心配されるほど今の俺は情けなく映っていると思うと、心が沈んでしまう。


「パイロット訓練学校はね次のマーケットがある交差点を左に曲がって真っ直ぐ行くとあるよ、かなりデッカイ建物だから分かりやすいと思う」

「ありがとう、助かったよ」

「うん、頑張ってねお兄さん、またね」


 そう言うと少女は棒キャンディを一本渡してくると、走り去ってしまった。

 なんだったのか、まぁただの親切心だったのだろう。

 少女の言う通りに進み、やっとこさメトイドパイロット訓練学校に辿り着いた。

 わかりやすい見た目とは言っていたが、見た目ははっきり言って豆腐、どこぞのサンドボックスゲームの初心者が作ったかのような巨大な鉄の箱だった。

 その箱を取り囲む鉄柵をぐるりと周り、入り口らしいところを見つける。


「あの〜すみません、このチラシ見てきたんですけど」


 警備員に近づきワドルフ先生からもらったチラシを見せる。


「そのパイロット訓練生の募集はもう締め切ったんだけど」

「……はい?」

「ほらここ、日付が去年だよ」


 そう言われてチラシの隅を見ると3659年11月19日締め切りと書いてあった。

 もちろんこの文字は実際に書いていたわけでなく、この星の文字をわかりやすく翻訳したものである。

 というか去年とか言われても俺この世界の日付とか知らないし。


「まぁでも今年の募集はまだしてるから、この紙に必要事項記入して」

「あ、そうなんですね」


 じゃあ余計な心配させんじゃねーよ、無駄に落ち込んでしまったじゃねーか。


 名前と年齢を記入し、生年月日で手が止まる。

 この星って一年12ヶ月なのか、そもそも一ヶ月何日あるんだ、1日は何時間で1時間は何分だ。

 とりあえず適当に記入するか。今年が3659年だから3636年生まれでいいか。

 ここまでは一旦いいとして、住所が書けない。


「あのー住所って書かないとだめですか?」

「そりゃ身元の証明だから、身分証ないの?」

「いやーその……身分証ですよね……アハハ」

「何君、ちょっと怪しいね、少し奥で話しようか?」


 やばいやばいやばい、完全に疑われてる。

 そりゃそうですよね、1年前のチラシ持った住所不定の怪しい男なんて俺でも取り調べするもん同じ立場だったら。


「ちょっと待って! 帰りますから! 警察だけは勘弁して!」

「はいはい、話は奥でゆっくり聞きますからね」


 腕を引っ張られ警備員の事務所に連れて行かれそうになる。

 あのクソヒゲ博士め、身分証必要なら最初から言いやがれよ、就職の前にまず役所行ったわ。普通に考えたら役所行くよな普通。そりゃ捕まるよ俺。


「いやいやいやそうじゃなくて! あのジジイ適当にあしらいやがって、覚えてろよワドルフこの野郎!!」

「わ、ワドルフ博士!? ちょっと待っててくださいね」

「な、なんだ?」


 あの医者の名前を出した瞬間急にかしこまって通信機を取り出した。

 まさかあの医者かなり顔が広いのか。

 警備員通信を始める。


「あのーメトイド中央病院ですか? ワドルフ博士は今いますか?」


 そこから数分間、警備員は通信越しにペコペコしながら会話をしている。


「ワドルフ先生なんて?」

「いや、そんなガキ知らないって」

「テメークソじじい! さっきまで俺と喋ってただろうが! 変われ! てかスピーカーにしろ!」


 警備員が通信機をスピーカーに切り替えると、ワドルフの声が聞こえてきた。


『あー君か、すまんすまんワシの知り合いを語る奴はかなり多くてね、この手の話はだいたい知らんで通してるんじゃよ』

「危うくお縄につくところだったわ! 二度と適当抜かすなよジジイ!」

『何か当たり強くない? 立場わかってんの?』

「すみません、どうか私の身分を証明してください」


 いけない、自分の現状と未来への不安、ジジイの適当さについ苛立ってしまった。


「つまりこの方の身分はワドルフ博士が保証すると言うことでよろしいですか?」

『あぁ、そうだね』

「わかりました、お手間をおかけしました」

『それじゃあソーマ君、試験頑張りなさい』


 そして通話が切れる。

 警備員と気まずい時間が流れた後、俺は必要事項の記入を免除され、訓練校の建物内部へと案内された。


 細長い通路を進んでいくと、大きな体育館のような広い空間に出る。

 そこには数十人のメトイド人達が立っていたり座っていたりと各々の姿勢で待機していた。


「では、時間が来たら放送が鳴りますので、それまではご自由にお待ち下さい、こちら受験番号札です」

「あ、はい」


 急に丁寧になられると調子が狂うな。73番と書かれた札を胸につけ、警備員が立ち去った後の会場内を見渡す。

 どれも鍛えられたという感じの屈強な少年から青年が揃っている。

 あらためて自分の体を見ると細いな。


「自信なくなるっすよね、わかる! ちょーわかるっすよ!」

「だよなぁ、何かプロチームに放り込まれたアマチュア中学生の気分だよ……ってあんた誰?」

「その例えはよくわからないけど、オイラはリュド! 田舎から出てきたはいいものの、周りがこんな感じじゃ帰りのお駄賃稼いで帰る羽目になりそうっすよ」


 肩を組んできたリュドの手を払いのける。


「傷の舐め合い仲間を探してんならよそいけかっぺ、俺はなんとしてでもパイロットになるんだよ、もう行く先々で身分証求められるのはうんざりなんだよ」

「厳しいね……ところでかっぺって何?」

「イケメンって意味だ」

「それは褒め過ぎだよ」


 くそ、こんな明らかに試験編で主人公の横で解説するだけして退場するようなキャラに同類と思われてしまうとは心外だ。


「かっぺのリュド、かっぺ・ザ・リュド、悩むっすね」


 いつまでクネクネしてんだよ、褒められ慣れてないのこの子。なんだか可哀想に見えてきたよ。

 リュドを横目に放送を待っていると、ようやく天井のスピーカーから大きな音が聞こえてきた。


『えー今期の応募を只今締め切りました、早速ですが一次試験を開始します』


 機械音のような音声で放送が鳴ると周りの受験生たちは一斉に静まり返る。


「やっと始まったっすね」

「あぁそうだな」


『受験生の皆さんは中央へお集まりください』


 スピーカーの指示に従い受験生が中央に集められると、中心を囲むように四方の床が下に沈んだ。

 いや、中央の床だけが上に昇っている。


「すげぇ仕掛けだな、流石は異星の技術」

「あんたも田舎から来たんすか? そう言えば名前は?」

「まぁこの技術力の前じゃ地球も田舎か、俺はソーマだ、お互い受かった時はよろしくな」


 床が上昇し終えると周りには様々な器具と監督官らしき人たちが並んでいた。


『一次試験は身体能力テストです。合格基準は公表しません、全力で挑んでください』


 やっぱりパイロットと言えばあるよな適性検査的なのが、俺は万年帰宅部で運動なんて一駅手前で降りるくらいしかしてないんだぞ。

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