スペース・リターン:宇宙の果てに行ったっきり、は嫌なので時空転移装置を探します

@kinki4594

第1話

 それは真夏にしては珍しく寒さを感じる夏の夜だった。


 タバコを買いに行った帰りに俺は空飛ぶ円盤を見た。

 いや、見ただけなら良かったかもしれない。


「え? 体が浮いてる!?」


 オカルトや都市伝説の類いは信じていない俺だが、こればかりは信じざるを得ない。

 まさかキャトルミューティレーションをされるなんて思いもしなかった。

 そこから先の記憶はぼんやりとしていた。

 まるで手術の時の麻酔が身体に回ったかのような感覚。段々と意識が朦朧とするなかで見えたのは何かドリルのようなものだった。


「ほうほう、それがおぬしが最後に見た記憶か」

「まぁはい」


 目覚めた俺は、見知らぬ天井と対面し、ドクターワ〇リーよろしく、いかにも悪人そうな髭を携えた胡散臭い医者に、舐め回すような視線で見られながら問診させられている。


「自分の事は覚えてるかな?」

「名前は倉田颯真くらたそうま、年齢は23歳で出身は……地球の日本ってところです」

「うんうん、概ね記憶に混濁はないようだね、混濁後はおそらくスリープ状態だったからごっそり抜けているのは仕方ないよ、船はうちの調査船団がアステロイドベルトで見つかったからね、おそらく事故で機能停止してたんだろう」

「じゃあ俺以外の乗船員は」

「君はスリープポッド内で発見されたからね、奇跡的に助かったんだろう」


 つまり俺を誘拐した宇宙人と宇宙船は全滅、実験サンプルとして保管されていた俺だけが奇跡的に助かったのか。


「まぁそのチキュウ?ってのが何処にあるかはわからないが、まぁ遠い宇宙の外からここまで流れ着いたようだね、調査員からの報告だと、船はかなりの損傷で航行記録のデータも破損していたらしくてな」

「え、俺帰れねぇじゃん」

「うん、帰れないね」

「……」

「……」


 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・


 部屋の中を沈黙が支配した。


「じゃねーよ!! どうすんだよ! 世界の果てにどころか宇宙の果てに置いてきたじゃねーんだからさ! ヒ〇ユキでも生きていけねーよこんなハードモード!」

「まぁまぁ落ち着け、そのヒ〇ユキが誰だか知らないが、言語の壁はクリアしてるじゃろ」

「た、確かに!?」


 今まで違和感なく喋れていたから特に気にも留めていなかったが、俺宇宙人と会話できてるんだよな。流石は宇宙を自由に探索できる種族と言うべきか、ハイテクノロジーと言うべきか。


「一年間も睡眠学習してたんじゃ、ここら一帯の惑星の言語もほとんど問題なく話せるじゃろう」

「え、睡眠学習だけ!? 何か超ハイテクな同時通訳機械があるとかそんなんじゃないの?」

「君は言語というものをナメてるのか?」

「あんたらこそ睡眠学習如きで言語マスターできると思うなよ、言語ナメんなよ」


 日本にいた頃は英検3級すら厳しかったのに今では宇宙語マスターかよ。ここにきてハイスペック男子に生まれ変わっちまったよ。


「俺これからどうしたらいいですか?」

「いや……知らんよ」

「……」

「……」


 再び沈黙が部屋の中を支配した。


「じゃねーよ! 見知らぬ土地で放り出される人の気持ちを考えろ! そんなんだったらいっその事蘇生なんかすんじゃねーよ!」

「ならもう一回スリープ状態にして宇宙に行くか?」

「嘘です、助けてくださり大変ありがとうございます」

「まぁ確かにこのままさようならは少し酷じゃの、そうじゃなここに行ってみたらどうじゃ?」


 そう言って一枚のチラシを手渡される。


「次に宇宙を旅するのは君だ、惑星メトイドのパイロット募集中……これって?」

「宇宙船パイロットの訓練生を募集する広告じゃ、適性試験さえクリアすれば候補生として惑星メトイドの訓練学校に所属できるし、寮だから寝床と食事も確保できる」

「おぉ! 何か興奮するな、宇宙船のパイロットかぁエースパイロットになって銀河をひとっ飛びってのも案外悪くないかもね」

「まぁ大体は調査船団か貿易船団に所属して政府の下働きじゃがな」


 このジジイ、人がワクワクしてるのに士気が下がることを言うんじゃないよ、絶対飲み会とかで雰囲気盛り下げるタイプだ、次から呼ばないでおこーぜって思うタイプだよ。


「ま、まぁ心機一転生きていくには働くしかないし職業訓練校に通うつもりで応募してみるよ」

「あぁ、もし採用されなかった場合はここに戻ってきな、仕事見つけるまでは面倒みるよ」

「ありがと……えっとなんて呼べば?」

「あぁそうじゃったな、ワシはワドルフじゃよ」

「じゃあなワドルフ先生」


 看護師に案内されながらワドルフ先生の病院を後にし、メモに書いてもらった道を進む。

 まちの風景は金属とネオンが目立つ、いわゆるサイバーパンク風の景観。

 いよいよ遠い惑星に来たんだという実感が湧いてくる。

 それは未知の世界への期待感と同時にもう元の生活に帰れないという現実を突きつけられる絶望感の二つだった。


「仕方ねぇ、生きるしかねぇか」

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