第六話 激突
「よぉ、坊や」
コウジは、布団で呆気に取られている青年を見下ろし声をかける。
「俺を知ってるかぃ?」
青年は何度も、涙目でうなづき、情けない声を出した。
「コ、コウジだぁあ。
コウジは青年に視線を合わせる。口は笑っているが、目は見開き、捕食者の圧力を放っていた。
「リラックス、リラァックス」
青年の肩に手を置いて、優しく揉み解している。
「坊や、アサンテと仲が良いそうじゃないの。俺も混ぜてよ?」
掠れた声が、青年の歯茎をガタつかせる振動と混ざり、不思議な合唱を奏でる。
「し、知らねぇよ」
「偉いなぁ! トモダチは売らないタイプか?」
コウジの目が鋭く、細くなる。
「俺の
頷く青年。
「見せてやろうか?」
涙を吹き飛ばしながら、青年は首を横に振った。コウジは凄みのある声で青年に圧力をかける。
「アサンテは何処にいんだよ!」
青年は飛ばされた涙を見つめ、コウジを睨みつける。すでに青年の震えは止まっていた。
「お、俺の
空中で涙が浮遊し、分裂、増殖し出した! アスカは室内の湿度が急激に上がり、肺の中を生臭い水気が満たす不快感に襲われる。
正常な呼吸を維持するのが、困難になる。
アスカは口をコ―トの袖口で抑えて、湿気を吸い込まないようにし、叫んだ。
「コウジさん!
焦るアスカに、人差し指を一本立てるコウジ。不快な湿度にコウジは呼吸一つ乱さず、不敵な笑みを崩さない。
「焦んなよ。嬢ちゃん。戦いは焦ったら負けなんだよ」
「でも」
コウジの周りを涙が分裂増殖を繰り返し、取り囲んでいた。
見かねて叫ぶアスカ。
「相性が悪いですよ、コウジさんの天器は火で彼は、水ですよ!」
「なぁ、嬢ちゃん。火と水が戦ったらどっちが勝つと思う?」
「え、水が有利なんじゃないですか? 何こんな時に暢気なことを言ってるんですか?」
アスカの問いにコウジは口を尖らせる。
「ブッブ―。バツマ―クだ。正解は――」
「それが、最後の言葉だ! コウジィイ!」
勝利を確信し、青年は笑う。
涙の粒から、数えきれないほどの敵意を秘めた細い水が、コウジに襲い掛かった。
「――いつも俺は、天器使いとの戦いでは負けねぇんだよ!」
爆炎だ。
青年の細い水は、細かい花火に消し飛ばされた。
周囲の空気は、正常に戻り、湿気による息苦しさが無くなった。
「まぁ、坊や程度には、
「あれが、コウジさんの
アスカは目を見張った。
凄まじい速さで、コウジは自身の
「なぁ、坊や。知らねぇ訳じゃねぇよな。
青年の目から、光が失われる。コウジは人差し指を一本立てる。
「一つ、
泣き叫び、後ずさる青年。
「し、仕方がなかったんだあ」
コウジは人差し指に中指を付けて二本の指を立てる。
「二つ、天上神器を申告もせずに所持するのは重罪」
コウジは逆の手で、青年の握られていた手を開かせる。
手の平から、水色の巻貝が零れ落ちる。青年の未申告の、
コウジはマッチ箱に、立ててた二本の指を置く。
「この二つの禁を破る
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「嬢ちゃん」
不意にコウジに声を掛けられ、戸惑うアスカ。
「え?」
「リラックスは出来たかい?」
「は、はい」
「なら、仕事だ。後ろは任せたぜ」
コウジの言葉と同時に、空気に痺れるような威圧感が満ちる。周囲の雰囲気が変わった。
アスカは、
黄色い閃光が、アスカのいた場所を、弾ける音と共に、駆け抜けた。
「なんだ、新人、やるじゃないか?」
アスカを見下ろす、右手に黒い手袋の男。
そして、アスカたちと一緒の赤いコ―ト。
アスカの顔を一筋の冷たい汗が、滑り落ちる。
アスカは、その男を知っていた。
コウジは、舌打ちをする。
コウジもよく知っていた。
情けない声で青年が、喚く。
「た、助けて下さい! コ―ガさん!」
男の名は、イガ・コ―ガ。
二番目の
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