第四話 手がかり
正式な出所手続きを終えて、アスカは収容所から出た。
アスカが振り返ると、白い収容所の鉄格子の窓から、教室の皆がこちらを静かに見つめていた。
アスカは、前を向く。
もう戻ることはできないのだ。
アスカとコウジが出た扉の前には、自動車が待っていた。
コウジは車両のドアを開け、座席に腰を掛ける。
アスカは反対側の扉を開けて乗り込む。
運転席の黒服の男は、無表情でこちらを見つめ、抑揚のない声で自己紹介を始めた。
「シュドウ・コウジ様、ナナイロ・アスカ様。私、運転手のショウシといいます。目的地はどちらに行かれますか?」
「よろしくお願いします。ショウシさん。コウジさん、手がかりあるんですか?」
アスカの質問に溜め息を吐くコウジ。
「お前、ちゃんと指令書に、目通したのか?」
「あ、す、すいません」
アスカは動揺を隠すように、コ―トから、先程の指令書を取り出し、内容を見る。
さっきは、あの名前にしか意識が向いていなかったのだ。
コウジは喉を掻く。
「一人、アサンテが慕っていた奴がいた」
「それは誰ですか?」
コウジはその質問には答えず、コ―トから、しわくちゃの紙たばこを取り出す。
赤と白のシンプルながら洗練されたパッケ―ジに、黒い文字。マルボロソフトである。
煙草を咥え、ジッポライタ―で火をつける。
車内が副流煙で満ちた。
「私、煙草苦手なんですけど」
窓を開け、アスカは、紙に目を戻す。
「知るか。目的地は、北部七丁目のアパ―トだ」
コウジの行先にショウシは、応える。
「はい、監視カメラと彼の行動記録を照合しても、そこにいる確率が一番高いですね」
運転手のショウシは、車のエンジンキ―を回す。モ―タの回転音に合わせ、車が始動の揺れを三人に伝える。
白塗りの城壁が囲む街道で、移動中の車内ではアスカが、煙を払い、書類に目を通している。
そこに、書かれていた名前には覚えがなかった。
自分が知らない誰かを、アサンテが慕っていた事実に眉をひそめるアスカであった。
その渋い顔を見つめて、コウジは煙をめんどくさそうに吐き出す。
「なんだ、お前、腹減ってんのか」
「え、いや、そういうわけじゃ」
「なんか、コーンブレッドとかあればよかったんだがな。今は、持ち合わせがなくてな、これでも丸めて噛んどけ」
コウジが差し出した、板状のガムを、頭を下げ受け取り、丸めて口に放り込む。
どこか懐かしい、ミントの風味がアスカの口内を満たした。
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