第二話 夢

 個室に帰宅したアスカは、あの箱を開封する。


 中には白い布に厳重に包まれ、グラス部が黒塗りの片眼鏡モノクルが保管されていた。


「これが、神々の遺した天器てんき


 アスカはを、右目に付ける。


 何も変化は起こらない。


 今度は左目だ。


 けれども、変化は起こらない。


 ならばと、眼鏡を重ねがける。


「あ」


 愛用の眼鏡のグラス部に傷がついてしまった。


「説明書くらい付けときなさいよ! バ神様かみさま!」


 アスカは片眼鏡モノクルを箱に戻す。


 白いシ―ツのベッドに身を投げ出す。空と同じ色の、白い天井と電灯が煌めき、いつしかアスカの景色は、黒い瞼が覆いつくした。




『ねえ、アスカちゃん元気ないよ?』


 横に首を振るアスカ。


『どうしたの? おなか痛いの?』


 首を振り続けるアスカ。


『大丈夫だよ! は、きっと帰って来るよ』


 に顔を上げる。


 アスカは視界に広がる娯楽室のテレビジョンを見る。


 そこには赤い小さな楕円が動く壁を背に、遠くから誰かが、こちらに手を振っている姿を映していた。逆光で見えない。


 アスカはテレビジョンに近づく。


 赤い丸が姿を表すと忘れもしないが手を振っている!


 ライオンでもない、牛でもない、鶏でも、熊でも、あれは! は!




「じじい!」


 自分の声で飛び起きるアスカ。どうやら、眠っていたらしい。過去の記憶を夢として見たアスカは最悪な気分であった。

 

 静かに響くノックの音。


「開いてます。どうぞ」


「失礼するぜ」


 掠れた声の後に、鉄製のドアが、音もなく開き、男が顔をのぞかせる。


「うわ、優等生の個室って感じだな」


 赤い服の男はした顔を見せ、中に入ってきた。


「嬢ちゃん、俺の事、知ってるかぃ?」


「ええ、知ってます。有名人ですからね。三番目の天器てんき使い、通称、死火刀しびとうのコウジ。とっても好戦的で、テキストにも載るくらいに」


「うれしいね。有名人とは」


 皮肉のきかないコウジは、掠れた笑い声を喉に籠らせる。


 アスカはコウジの急な登場に、湧き上がる嫌な予感を、払拭せずにはいられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る