トムソンの理論

P字

第一章 証明開始の0歩目 ①

 俺、火野斗亜ひのとあは電車で目的地まで移動している間に読書をしていた。いつもはラノベや漫画といったものを好んで読んでいるのだが、『ラプラスの悪魔』とか『フェルマーの最終定理の証明までの歴史』のような興味深い話なのではないかと勝手に想像して、『トムソンの理論』という本を図書館で借りた。個人番号という身分証を見せれば無料で借りれるものだ。


「はぁ」


 タダより高い物はないという言葉があるが、実際に経験するとは思ってもいなかった。時間の無駄だ。

 まず、理論とか書いてあるが机上の空論だ。

 この理論(笑)は、世界平和という争いのない世界を作るには、人類が今では当たり前に使えるようになった超能力を使えば可能だと、提唱者のは言っている。

 どう使うのかというと、「攻撃的な思考(殺意・害意)の電気信号が発生した瞬間、その電子の動きだけをピンポイントで停止・消去する。これを全人類に精神系能力で設定すれば世界平和が可能である」とのことだ。


 だが、そのようなことを全人類に行うには、能力使用のために脳内で莫大な量の演算が必要になる。そんな化け物みたいなことができるやつなんて存在しない。おまけに軍事産業なんかで儲けている国だっていくつもある。そんな国々を敵に回していたら、能力開発だとかをする前に、計画に携わろうとした瞬間に暗殺されているだろう。



 § § §



 そんな読んだ本の評価をしていると、集合場所の最寄り駅に着いた。すると俺の親友である水谷隼人みずたにはやとから電話が来た。


「なんだよ、隼人。もうそろそろボディーガードのバイトの集合場所に着くから、あんま長く話せねぇぞ」


『一応確認です。今回の単発バイトは命を張る仕事だけあってかなり給料は良く、更に大手企業の会長の護衛が急に全員辞職したことによる募集です。上手くいけばしばらくの間その仕事を任される可能性も、要項には書いてありました。改めて頑張ってくださいね。それと……』


「わかってるよ。待遇とかその辺はしっかりしてるけど、怪しいんだろ? 全員急に辞めたって、護衛するうえでの契約書はどうなってるんだ。大手がそんなのを許すような契約書を作成したり、サインしたとは思えない。護衛が全員死んだから、命を狙われているのを隠したのか……それでももっとましな噓をつくよな……」


 今時、超能力を持っていることで戦車よりも強い人間なんてゴロゴロいる。また、そこまでの力を持っていない人間も一定数いる。強い能力を持っている人間は善行に使う人もいれば悪行に使う人もいる。

 会社への恨み、ただ雇われたからという理由だけで暗殺される人は、この日本だけでも何十人といる。

 そのため、会社の幹部達への護衛費が会社から出され、護衛会社に依頼するのが基本だ。

 今回のような単発での護衛バイトは珍しい。大手企業の重役ともなると、護衛バイトなんて募集自体ありえないのだ。


「とにかく、胡散臭い仕事ですが、成功した時の報酬は僕達のような金欠学生としては大きいです。僕らの夢である『2人で何でも屋を開業、法人化、そして上場』への第一歩です。裏でいろいろサポートしますので、なけなしの金で買った超小型イヤホン装着しておいてください。どうせ充電が勿体無いとか言って、ギリギリで電源を入れるつもりだったんでしょう?」


「ああ。悪かったって。よろしくな相棒」


「こちらこそよろしく。僕の知っている限り



 § § §



 電話を終えてしばらく歩き、集合場所に到着した。


 一緒に仕事をするのは、送られてきた名前と顔写真と照らし合わせると、一人は30代くらいの癖毛の黒髪の男だ。そしてもう1人は長い白髪の女性で、俺と同じくらいの年齢だ。

 改めて見ても、護衛の経験とかの情報があってもいい気がするが……募集期間がわずか1日だった程の急を要したものだったから情報不足か? そもそも護衛の数が3人というのは少ない。いくら俺みたいな強力な能力持ちでも、人を守りながら戦ったりするのには限界がある。護衛失敗で汚名を被って、今後の何でも屋の仕事に支障が出るのだけは防ぎたいものだ。


「あの~。もしかして火野斗亜さんですか?」


「ええ。もしかして沼田しおりさんですか?」


「はい! 私が沼田しおり16歳です。能力は水の分子運動を操作して水を氷、蒸気に変化させ操る、水分限定の分子操作です。能力ランクはBです。今日はよろしくお願いします」


 そう言いながら個人番号カードを見せてきた。生年月日や名前、個々人の能力、そしてそのランクが書いてある。

 能力ランクとは世界全体で統一されている、どの位戦争時に役に立つかのランク分けである。ランクはSS、S、A、B、C、D、E、Fの順になっており、ランクSSが1番強く、ランクFは無能力者だ。

 ランクBの能力者となると、かなりの射程や演算量、演算速度を合わせた演算力を持っているのだろう。


「俺は……いや、私が火野です。15歳です。今は4月1日で既に高校生ですので年齢制限は大丈夫です。能力は物質操作でランクはAです。まぁサイコキネシスってやつです。能力使用の際は水は操作しないようにします。これ私の身分証です」


 能力ランクはあくまで戦力、戦術で如何に使えるかの指標として、勝手に人間が作ったものにすぎない。能力は専門性に特化しているほど、また演算力が高いほど能力使用の優先度が上がる。ランクが2つ程差があれば、専門性で負けていても演算力で上回り優先度で勝る。しかし、それ程の差が無ければ互いに操作の邪魔をしてしまう。この能力使用に関しては決めておかないと仕事に支障が出てしまう。


「身分証提示と能力に関してはありがとうございます。間違った情報は無いようですね。それと年齢も近いですし、タメ口でいいですよ」


「タメ口で良いのはありがたい。仕事での情報共有はそっちの方がしやすいし。それでは残りの温水翔太ぬくみずしょうたさんを待ちますか」


 待ち時間までまだ少しあるが、他に沼田さんと何を話せば良いかわからない。この求人が怪しいこととか話すか? まずい、何故か頭がうまく働かない。そうだ。話さないで隼人とイヤホン通して会話をすればいいじゃないか。これは女性慣れしてないからの逃げじゃない! 俺が本気を出せば異性とだって無理なく話せる! きっと! いや十中八九、やっぱり5割くらい。


「お! もう集まってんのか。遅れてすまない。俺が温水だ。能力名はタンパク質探索。ランクはD。人のタンパク質限定で、自分を中心とした半径1km以内にどこにどんな体つきの人間がいるか探索できる。要はサポート系だ。二人のうちどちらかが防御、攻撃ができるやつだとありがたい。よろしく頼む」


 こうしてボディーガードの仕事を受けた3人が集まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

トムソンの理論 P字 @Pg_reading

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ