喫茶店にて

Zamta_Dall_yegna

喫茶店にて

 灰色のホームが人で埋まる。冷えた空気が温められていく。匂いが混ざり、濁っていく。統一感のない色、バラバラの背丈の中、白く浮いている存在を見つけた。


 彼女は目が合うなりこちらへ来て微笑んだ。

 「あえて良かった。これからどこ行く?」

 僕は、弾む声につられて都会の街へ足を踏み入れた。


 彼女の勧めで綺麗な喫茶店に入った。木でできた仕切りに、少し硬めのソファ、メイド服を着たウェイトレスがレトロな雰囲気を出していた。僕らはテーブルに向かい合わせで席に着いた。行きなれない店なので、彼女と同じものを頼む。カフェラテにケーキと甘ったらしい組み合わせだった。


 店員は料理を運んでくると、カフェラテをその場でついだ。あまりにも仕草が綺麗だったので釘付けになった。一通りの動作が終わると、2人して感嘆の声を上げた。青春を感じた。


 店員が去ってから、彼女の話を聞いた。

 「体調はどうだ?」

 「最近は調子いいよ!ストーカー被害も無くなったし、職場の人はみんな優しいし。心身共に元気かな!!でも、そろそろ転職しようかなーって思ってる。今の仕事つまんないんだよねー」

 「彼氏には言ったのか?」

 「うん。モモの好きにすればって言われた。優しいよね!」

 僕は何も返さなかった。病気のこと、仕事のこと、彼氏とのこと…。流れる話はどこか遠くのことのように思えたからだ。


 彼女は霊感が強い故に、色々な病を受け入れてしまうところがある人だ。僕は、強すぎる被害妄想や不眠により病院に通い詰めていた。自室は薬の山ができており、薬の副作用で感情が乏しくなっている。このことを彼女に知らせれば、何か他に治す方法も分かるだろう。


 「ねぇ、呼吸が苦しくなったらどうしてる?」 

 「目を閉じて、深呼吸するかな?なんかあったの?」

 心配する彼女の瞳に、僕の白い顔が映っている。怯えたような表情。そうか、こうやって僕は人を追い詰めていたのか。

「知り合いにメンタルが弱いやつがいてさ、気になったんだ」


 咄嗟に嘘をついた。苦しい嘘だ。裏切りかも知れない。だが、幸せそうな彼女を壊すようなことが僕には出来なかった。


 「優しいんだね。うーん…私なら相談するな。人に話したら気が楽になるからさ。お前に相談してるなら大丈夫なんじゃない?」

 自分の中でプツリと何かが切れた。体が逆さに落ちていく。何かが叫び続けている。

 ―優しくなんかない!こっちを見るな!!―

 ―僕を見てくれ。手を握ってくれ!―

 相反する言葉が両方から聞こえてくる。ああ、頭痛がする。右ばかりが痛い。


 ひとしきり話し終えて、店を出ると彼女はこちらを振り返ってこう言った。


 「今日は楽しかったね!!今度は、一緒に旅行に行こうね。約束だよ!」

 向けられた笑顔は眩しくて、つい俯いてしまった。

 「ああ。と言っても、金欠だからな。気長に待ってくれ」


 ―君と再会するまで、僕は生きられるだろうか。いつか、この感情を打ち明けられる日が来るんだろうか―

 

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