第1章 第4話 噂のゲーム

昼休みの教室は、いつもと変わらない騒がしさに包まれていた。


「なあ、聞いた?」


爆遊矢が机に肘をつき、少し声を落とす。


「なに?」


紗千がストローを噛みながら答える。


「最近出るって噂のゲーム」


「またゲーム?」


梓は弁当箱を閉じながら、気のない返事をした。


「普通のじゃないんだってさ」


爆遊矢は、ちょっとだけ胸を張る。


「MIYU²Campus(ミュウミュウキャンパス)」


「……名前、可愛い」


「だろ? でも中身は全然かわいくないらしい」



「抽選で、テスト参加できるのが十人だけ」


「十人?」


「少なっ」


紗千が顔を上げる。


「で、その十人、もう決まってるとか?」


「いや、まだ」


爆遊矢は肩をすくめた。


「でも“選ばれた理由がわからない”って言われてる」


「怖くない?」


「ちょっとな」



「へぇ……」


達也は会話に入らず、窓の外を見たまま短く声を出した。


「達也、知ってる?」


梓が聞くと、彼は一瞬だけこちらを見る。


「名前だけ」


「それだけ?」


「それだけ」


いつもの、余計なことを言わない態度。


梓は少しだけ唇を尖らせた。



「映像が、やたらリアルなんだって」


爆遊矢が続ける。


「リアルって、今どき珍しくないでしょ」


「そうなんだけどさ」


言葉を探すように、爆遊矢は首の後ろを掻いた。


「“リアルすぎる”らしい」


「なにそれ」


紗千が眉を寄せる。



「ハラミ」


不意に、むっちゃんが呟いた。


「……え?」


梓がそちらを見る。


むっちゃんは弁当の肉だけをじっと見つめていた。


「ハラミ……」


「それ今の話と関係ある?」


爆遊矢が顔を近づける。


むっちゃんは答えない。


ただ、もぐもぐと口を動かす。


爆遊矢は一瞬きょとんとしたあと、

なぜか小さく笑った。


「……相変わらずだな」


それだけ言って、何も続けなかった。



午後の授業。


ノートを取りながら、梓は昼休みの会話を思い返していた。


(MIYU²Campus、か……)


興味があるわけじゃない。


なのに、頭の片隅に残っている。


(達也の言い方……)


「名前だけ」


あれは、本当にそれだけだったのか。



放課後。


校門を出たところで、達也が後ろから声をかけてきた。


「梅月」


「なに?」


彼は一度、言葉を切る。


「そのゲーム」


「MIYU²Campus?」


「近づかない方がいい」


「……なんで?」


梓が聞くと、達也は視線を逸らした。


「まだ、わからない」


「それ理由になってないけど」


「だから」


少しだけ、声が低くなる。


「わかるまで、触るな」



梓は一瞬、返す言葉を失った。


(なにそれ……)


いつもより強い口調。


でも、怒っているわけでもない。


「……わかった」


そう答えると、達也はそれ以上何も言わず、

踵を返した。



夜。


ベッドに寝転び、天井を見つめる。


「触るな、か……」


理由を言わない忠告ほど、気になるものはない。


(なんで、あんな言い方するんだろ)


そう思った瞬間、

スマホが小さく震えた。


《新着通知:MIYU²Campus テスト参加者募集》


画面に浮かぶロゴは、

やけに整っていて、静かだった。


「……なに、これ」


胸の奥で、

小さく、でも確かな違和感が芽生える。

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NECK ROVER 春酒兎(はるしゅと) @Harushuto0127

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