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こうしてスノアは高級レストラン、ラ・ネージュで働くことになった。厨房は熱気と香草とバターの香りに満ち、スノアは生鮮食品保存用の雪を作り、シャーベットや果物、ワインなどの冷却管理も任された。ここでもスノアの雪はとても重宝される。


そのうち、スノアはふと小さな工夫を思いついた。雪をぎゅっと押し固めて形を整えると、白く冷たい雪の皿ができあがる。普通の雪ならすぐ溶けてしまうはずだが、スノアの雪は形を長く保っていた。


スノアはその雪皿にカルパッチョや冷たいデザートを盛り付けていった。ほかにも、小さなボウル状にしてシャーベットを入れたり、背の高い器に果物を盛り付けたり、雪の食器はみるみる種類を増やしていった。


「……雪食器とは、なんて洒落ているんだ。まさに魔法の器だよ」


オーナーシェフは感心しきった様子で、スノアを見つめていた。


スノアが厨房に立つ日々は、あっという間に過ぎていった。雪食器に盛った料理は評判となり、店は以前より客が増えた。


――そんなある日のこと。


客の中に、ヴァルデン公爵夫人の姿があった。彼女は淡い色のドレスに身を包み、上品なデザインが上質な生地を引き立てていた。姿勢は常に美しく、指先の動き一つまで洗練されている。


オーナーシェフは自信ありげに、雪の食器に盛り付けた料理やデザートをヴァルデン公爵夫人のテーブルへ運んだ。飾り切りされた柑橘と、甘く煮た桃のコンポートが涼やかに並べられ、横にはレモンのシャーベットが添えられている。雪のおかげでシャーベットは溶けず、フルーツはひんやりとしたままだ。


ヴァルデン公爵夫人は思わず息を呑んだ。


「まぁ……雪のお皿? なんて贅沢なの! シャーベットだけでも高級品だというのに、雪を食器にするなんて前代未聞ですわ」


向かい側に座ったヴァルデン公爵が感心したように皿を覗き込む。


「氷や雪は輸入するだけで金貨が飛ぶ。食材でもないものに使うなど、王宮ですらやらんぞ」


「これは一体、どこで手に入れたのかしら?」

ヴァルデン公爵夫人は目を輝かせたまま、オーナーシェフを呼び止めた。


オーナーシェフはもったいぶって、なかなか本当のことを言わない。ますます気になったヴァルデン公爵夫人は、「真実を聞くまでは帰らない」とまで言い出す始末。


「……少し前に雇った子が作りました。異国の出身で、そこでは皆魔法が使えるそうです。彼女は雪を降らせることができるのですよ」


「まあ……雪を? なんて神秘的なのかしら。その子と会わせてくださる?」


ヴァルデン公爵夫人の目がキラリと光った。


スノアはすぐにヴァルデン公爵夫妻のテーブルへ呼ばれ、丁寧に挨拶をした。

その姿を見るなり、ヴァルデン公爵夫人はオーナーシェフへ振り向いた。


「この子を引き取らせてくださらない?」


「スノアは大事な従業員ですから……この子のお陰で売上が驚異的に伸びたんですよ。手放すわけにはいきません」


オーナーシェフは困ったように眉を寄せた。

しかし、ヴァルデン公爵夫人の熱意と、提示された大金を前にすれば――拒めるはずもなかった。


「……わかりました。スノア、元気でな。君は本当によく働いてくれた」


スノアは黙って頷いた。


(私……また売られたんだ)


せっかくラ・ネージュにも馴染んできたのに。

胸の奥がチクリと痛んで、言葉が出なかった。


ヴァルデン公爵夫人は優しげな眼差しでスノアを見つめた。


「とても上品で綺麗な子だわ。さあ、一緒に行きましょうね。怖がらなくてもいいのよ」


スノアは小さく会釈をし、レストランを後にしたのだった。




スノアはヴァルデン公爵家の奥にある客間を与えられ、雪を作りながら厨房で働き、ヴァルデン公爵夫人のお茶のお相手も務めた。


「スノア、ずっとここにいてちょうだいね。ここをあなたの家と思っていいのよ」


スノアはどう返していいか分からず、ただ微笑んだ。


(フィッシャーズでも、ラ・ネージュでも、私は“売られた”。それなら……ここでも、またいつか同じことが起きるのかもしれない)


そんな不安がちらりと胸をかすめ、スノアは小さくため息をつくのだった。

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