『俺達のグレートなキャンプ232 記憶を取り戻すエビチリを作るか』

海山純平

第232話 記憶を取り戻すエビチリを作るか

俺達のグレートなキャンプ232 記憶を取り戻すエビチリを作るか


「よっしゃああああ!!テント設営完了おおおお!!」

石川が最後のペグを打ち込みながら雄叫びを上げた。長野県の山間にある『星降る谷キャンプ場』は初秋の爽やかな風が吹き抜け、周囲の木々が心地よくざわめいている。

「石川、声大きい……」

富山が周囲を気にしながら小声で注意する。隣のサイトのファミリーキャンパーが「元気だねえ」と苦笑いしている。その隣のソロキャンパーは明らかに不機嫌そうな顔でこちらを睨んでいる。

「いやあ、でもテント設営って何回やってもテンション上がるよなあ!」

千葉が満足げにテントを眺めながら、額の汗を拭う。彼の目は期待に満ちていた。今回もきっと、石川が何か面白いことを考えているに違いない。

「さあて!じゃあ次は焚き火の準備して、それから今回のグレートなキャンプ企画の詳細を……」

石川が言いかけたその時、管理棟の方から一人の男性がフラフラとこちらに歩いてきた。50代くらいだろうか。深く日焼けした顔に、がっしりとした体格。キャンプ場の管理人であることを示す緑色のベストを着ている。しかしその様子がどこかおかしい。足取りがおぼつかず、まるで酔っ払いのようにふらついている。

「あ、あれ……?ここは……どこだ……?」

管理人がボソボソと呟きながら、キョロキョロと辺りを見回している。その目は焦点が合っていないようだった。

「お、管理人さん!どうしました?」

千葉が心配そうに駆け寄る。管理人は千葉を見て、さらに混乱したような表情を浮かべた。

「き、君は……誰だ……?いや、それより……私は……私は誰なんだ……?」

「え?」

千葉が固まる。富山も目を丸くした。

「わ、私は……ここで何をしているんだ……?このベストは……緑色のベストは……なぜ私が着ているんだ……?」

管理人が自分の体を見下ろしながら、パニック状態になっている。その様子はどう見ても演技には見えなかった。

「えっと……あの、管理人さん……?」

富山が恐る恐る声をかける。管理人はハッと富山を見た。

「かんりにん……?私が……管理人……?何の管理人だ……?」

「いや、このキャンプ場の……」

「キャンプ場……?ここは……キャンプ場なのか……?」

管理人が周囲を見回す。確かにテントが並び、焚き火台があり、キャンパーたちがいる。紛れもなくキャンプ場だ。しかし管理人の目には、それが初めて見る光景であるかのように映っているようだった。

「これはマジで記憶喪失じゃね?」

石川が小声で呟いた。その目は妙に輝いている。

「いや、でも昨日普通に話したよね?チェックインの時、『ゆっくり楽しんでください』って言ってたじゃん」

千葉が首を傾げる。

「ちょ、ちょっと!これ大変なことだよ!?救急車呼ばなきゃ!!」

富山が慌ててスマートフォンを取り出そうとした、その時。

「待った!!」

石川が富山の手を掴んだ。その顔には、いつもの「やばいアイデア思いついちゃった」顔が浮かんでいる。

「石川……?まさか……」

「これはチャンスだ!!」

「チャンスって何がよ!!」

「だって考えてみろよ!本当に記憶喪失になってる管理人さんがいて、俺たちがその記憶を取り戻せたら……これ以上にグレートなキャンプがあるか!?」

「いやいやいや!!そういう問題じゃないでしょ!!これは医療の問題だから!!」

富山が必死に訴える。しかし石川の目はもう、止まらない目だ。

「いや、でもさ富山。考えてみてよ。救急車呼んで病院連れてって、それで終わりじゃつまんなくない?」

「つまんないとかそういう……」

「俺たちの手で、キャンプの力で管理人さんの記憶を取り戻す!これこそ真のグレートキャンプだろ!?」

「石川の言うこと、ちょっとわかるかも」

千葉がポツリと呟いた。富山が「千葉まで!?」と振り返る。

「いや、だって記憶喪失って、何かのきっかけで思い出すこともあるんでしょ?映画とかでよく見るじゃん。それなら俺たち、そのきっかけを作れるんじゃない?」

「そうそう!!千葉わかってるぅ!!」

石川が千葉の肩を叩く。富山は頭を抱えた。

「で、でも何をするのよ……記憶を取り戻すって……」

「決まってる!エビチリだ!!」

「エビチリ!?」

富山と千葉が同時に叫んだ。周囲のキャンパーたちが再びこちらを見る。

「そう!エビチリを作って食べてもらうんだよ!きっと管理人さんの大好物に違いない!そしてそのエビチリを食べた瞬間、記憶が蘇る!!完璧だろ!?」

「いや、完璧じゃないよ!!なんでエビチリなのよ!!根拠は!?」

「勘!!」

「勘!!?」

富山の声が裏返る。しかし石川はもう止まらない。彼は管理人の前にしゃがみ込んで、優しく声をかけた。

「管理人さん、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫……というか……私は誰なんだ……」

「あなたの記憶、俺たちが取り戻しますよ」

「ほ、本当か……?」

管理人の目に希望の光が宿る。石川はニヤリと笑った。

「ええ。エビチリでね」

「え、エビチリ……?」

「そう、エビチリです。きっとあなたの大好物のはずです」

「そ、そうなのか……?エビチリ……エビチリ……」

管理人が必死に記憶を探るように頭を抱える。しかし何も出てこないようだった。

「よし!じゃあ早速エビチリ作り開始だ!!千葉、富山、行くぞ!!」

「えええええ!?」

富山が叫ぶ中、石川は既にクーラーボックスを開けて食材を漁り始めていた。

「えーっと、エビはあるな。冷凍のむきエビだけど。トマトケチャップもある。豆板醤は……あ、あった!」

「ちょっと待って、本当にやるの!?」

「当たり前だろ!さあ、富山は野菜を切れ!千葉はコンロの火を起こせ!俺は指揮を執る!!」

「指揮だけかよ!」

富山がツッコむが、もう観念したようだった。千葉は既にバーナーに火をつけている。その目は相変わらずワクワクしていた。

「まあいいや……やるしかないか……」

富山がため息をつきながら、まな板を取り出す。石川はクーラーボックスから食材を次々と出していく。

「ネギ、ニンニク、生姜、長ネギ……よし、野菜は揃ってる!調味料は……酒、砂糖、醤油、酢、鶏ガラスープの素……完璧だ!」

「ねえ、エビ解凍しなくていいの?」

千葉が冷凍のむきエビの袋を見ながら尋ねる。

「あ、そうだった!流水解凍だ!」

石川が袋を持って洗い場に走っていく。富山はネギをザクザクと切り始めた。

「はあ……また変なことに巻き込まれた……」

「でも富山、楽しくない?」

千葉がニコニコしながら言う。富山は呆れたように笑った。

「千葉は本当に、石川のペースに乗るの上手いよね」

「だって、どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなるじゃん!」

その時、隣のサイトのソロキャンパーが立ち上がって、こちらに歩いてきた。30代くらいの男性で、黒いアウトドアウェアに身を包んでいる。その顔は明らかに不機嫌だ。

「あのー、ちょっといいですか?」

「あ、はい!」

千葉が振り返る。ソロキャンパーは腕を組んで言った。

「さっきからうるさいんですけど。ここ静かなキャンプ場で選んだんで、もうちょっと静かにしてもらえます?」

「あ、すみません!」

富山が慌てて頭を下げる。その時、石川が戻ってきた。

「おお、解凍開始!あと十分くらいで……ん?どうした?」

「あ、いや、うるさくしてすみませんでした」

千葉が説明すると、石川は「ああ!」と手を叩いた。

「そっか!じゃあ一緒にエビチリ作る?」

「は?」

ソロキャンパーが目を丸くする。

「いや、今から管理人さんの記憶を取り戻すためにエビチリ作るんだけど、一緒にどう?楽しいよ!」

「いや、意味わかんないんですけど……」

「あの管理人さん、記憶喪失になっちゃって!で、エビチリで記憶を取り戻そうとしてるの!」

石川が指差す先には、まだボーッと立っている管理人がいる。ソロキャンパーは管理人を見て、それから石川たちを見て、完全に困惑した表情になった。

「……マジで言ってます?」

「マジだよ!さあ、一緒にやろう!」

「いや、遠慮しときます……」

ソロキャンパーは明らかに引きながら、自分のサイトに戻っていった。富山が「だから言ったのに……」と小声で呟く。

「まあいいや!エビチリ作りに集中だ!」

石川が手を叩いて気合いを入れる。

十分後、エビの解凍が完了した。石川がエビをボウルに移し、片栗粉をまぶし始める。

「エビに片栗粉をまぶすことで、プリプリの食感になるんだよな!これが重要!」

「へえ、石川料理詳しいね」

「まあな!キャンプ料理は得意なんだよ!」

石川が得意げに胸を張る。富山は「どうせネットで調べたんでしょ」と呟いた。

「さあ、フライパンに油を敷いて……熱して……エビ投入!!」

ジュワーッという音とともに、エビがフライパンに投げ込まれる。油が跳ねて、石川が「あちっ」と叫ぶ。

「大丈夫?」

「平気平気!これくらいキャンプ料理の醍醐味だろ!」

エビが徐々にピンク色に変わっていく。石川は菜箸で器用にエビをひっくり返す。

「よし、いい感じ!色が変わったら一旦取り出して……」

エビを別の皿に移し、今度はみじん切りにしたニンニクと生姜をフライパンに投入する。芳ばしい香りが立ち上り、周囲のキャンパーたちが「いい匂い」と顔を向ける。

「おお、いい香り!」

千葉が鼻をヒクヒクさせる。管理人もその香りに引き寄せられるように、少しずつ近づいてきた。

「この香りは……何か……懐かしいような……」

「おお!もしかして記憶が!?」

石川が期待を込めて振り返る。しかし管理人は首を横に振った。

「いや……思い出せない……でも……何か……」

「よし、まだだな。続けるぞ!」

石川がニンニクと生姜を炒めた後、長ネギを投入する。シャキシャキとした音が心地よい。

「ここで調味料だ!ケチャップ、砂糖、酢、醤油、鶏ガラスープの素を混ぜたやつを……」

富山が作っておいた合わせ調味料を石川に渡す。石川はそれをフライパンに投入し、ぐつぐつと煮立たせる。

「よし、いい感じ!ここで豆板醤を……」

石川が豆板醤の瓶を手に取った、その時。クーラーボックスの奥から、見慣れない小瓶が転がり出てきた。

「ん?これ何だ?」

千葉がその小瓶を拾い上げる。ラベルには怪しげな文字で『脳まで痺れる豆板醤』と書かれていた。

「のうまでしびれるとうばんじゃん……?」

「何それ……」

富山が小瓶を覗き込む。中には真っ赤な、いかにも辛そうなペーストが入っている。

「これ、どこで買ったの?」

「いや、知らねえよ。誰かが入れたんじゃね?」

三人が顔を見合わせる。その時、隣のファミリーキャンパーのお父さんが「あ、それ!」と声を上げた。

「さっき管理人さんが持ってきて、『これ、誰かのだと思うんですけど落ちてましたよ』って渡されたやつじゃないですか?」

「えー、じゃあ誰のだろう」

千葉が首を傾げる。石川は小瓶を手に取って、じっくりと観察した。

「脳まで痺れる豆板醤……記憶を取り戻すには、脳に刺激が必要だろ?これ、完璧じゃね?」

「いや、完璧じゃないよ!!怪しすぎるでしょこれ!!」

富山が叫ぶ。しかし石川は既に小瓶の蓋を開けていた。

「うわ、すごい香り……」

鼻をつくような強烈な香りが広がる。辛いというよりも、何か別の、形容しがたい香りだ。ニンニクとも、唐辛子とも違う、不思議な香り。

「石川、これやばいって!絶対やばいって!!」

「大丈夫大丈夫!これこそ記憶復活のスパイスだ!!」

石川がスプーンで『脳まで痺れる豆板醤』をすくい、フライパンに投入した。

瞬間、フライパンから紫色の煙がモクモクと立ち上った。

「うわああああ!!」

三人が後ずさる。紫色の煙は不気味に渦を巻いて、空中に広がっていく。周囲のキャンパーたちが「何あれ!?」とざわつき始める。

「石川、何入れたの!?」

「脳まで痺れる豆板醤!!」

「だから!それがやばいって言ったじゃん!!」

富山が半泣きになりながら叫ぶ。しかし紫色の煙は徐々に収まっていき、フライパンの中では謎の赤いソースがグツグツと煮立っていた。

「お、おお……?何か……いい感じ……?」

石川が恐る恐るフライパンを覗き込む。不思議なことに、今度は先ほどとは違う、食欲をそそる香りが立ち上ってきた。

「あれ……?めっちゃいい匂い……」

千葉が鼻をヒクヒクさせる。確かに、辛そうでありながら、どこか甘く、そして何か不思議な、記憶の奥底を刺激するような香りだ。

「よ、よし……じゃあエビを戻して……」

石川がエビをフライパンに戻し、ソースと絡める。エビが真っ赤な、いや、微妙に紫がかった赤いソースに包まれていく。

「うわあ、すごい色……」

「で、でも美味しそう……かも……」

富山も興味津々でフライパンを覗き込む。石川は水溶き片栗粉を加えて、とろみをつけていく。

「完成!!俺達のグレートなエビチリ、その名も『記憶復活エビチリ スペシャル脳痺れバージョン』だ!!」

「名前長っ!!」

千葉がツッコむ。石川はエビチリを皿に盛り付けて、管理人の前に差し出した。

「さあ、管理人さん!これを食べてください!きっと記憶が戻ります!!」

「こ、これを……?」

管理人が恐る恐る皿を見る。紫がかった赤いソースに包まれたエビは、確かに怪しい見た目だ。しかしその香りは抗いがたいものがあった。

「大丈夫です!絶対美味しいから!!」

石川が満面の笑みで言う。管理人は迷った末、箸を手に取った。

「じ、じゃあ……いただきます……」

管理人がエビを一つ、箸で掴む。そしてゆっくりと口に運ぶ。周囲のキャンパーたちも、いつの間にか注目していた。

カリッ。

エビが管理人の口の中で砕ける。その瞬間。

「!!!!」

管理人の目が見開かれた。そしてその体が、ビクンと痙攣する。

「か、管理人さん!?」

富山が慌てる。しかし管理人の反応はそれだけでは終わらなかった。

「おおおおおおおお!!!!」

突如、管理人が奇声を上げた。その声は山間に響き渡り、鳥たちが一斉に飛び立つ。

「な、何!?どうしたの!?」

「こ、これはああああ!!キマるぜこれええええええ!!!」

管理人が両手を頭に当てて、その場で激しく悶え始める。体をくねらせ、膝をガクガクと震わせ、まるでロックバンドのボーカルのように叫び続ける。

「うわああああ!!脳がああああ!!脳が痺れるううううう!!!」

「だから言ったじゃん!!脳まで痺れる豆板醤だって!!」

富山が絶叫する。周囲のキャンパーたちは完全にドン引きしている。ファミリーキャンパーの子供が泣き出した。ソロキャンパーは既にテントを撤収し始めている。

「お、おい管理人さん!大丈夫か!?」

石川が管理人の肩を掴む。管理人は目を白黒させながら、ブルブルと震えていた。

「これはやばいって!!救急車!!」

富山がスマートフォンを取り出そうとした、その時。

管理人がピタリと動きを止めた。

そして、ゆっくりと顔を上げる。

その目には、確かな光が宿っていた。

「わ……私は……」

三人が固唾を飲んで見守る。

「私は……田中太郎……このキャンプ場の管理人……」

「お、おおお!?」

「妻の名前は花子……息子は一郎と二郎……趣味はバードウォッチングと渓流釣り……好きな食べ物は……エビチリ!!」

「やったああああああ!!!」

石川が跳び上がって叫ぶ。千葉も「すごい!」と拍手する。富山は「マジで……」と呆然としていた。

「思い出した……全部思い出した!!私は、さっき山を歩いていて、足を滑らせて頭を打って……それで……」

管理人、いや田中さんが頭を撫でる。確かに後頭部に小さなコブができている。

「それで記憶が……でも、このエビチリを食べたら……!あの辛さと旨味と、そして不思議な痺れが……脳を刺激して……!」

「脳まで痺れる豆板醤の効果だ!!」

石川が勝ち誇ったように叫ぶ。

「いや、偶然でしょ!!」

富山がツッコむが、誰も聞いていない。

「本当にありがとうございます!あなた方のおかげで記憶が戻りました!」

田中さんが深々と頭を下げる。石川は得意満面だ。

「いやあ、俺達のグレートなキャンプの成果だな!」

「で、でもよかった……本当に……」

千葉がホッとした表情で笑う。

その時、突然キャンプ場の入口から一台の車が猛スピードで入ってきた。車は急ブレーキをかけて止まり、中から一人の女性が飛び出してきた。40代くらいだろうか。

「あなた!!大丈夫!?」

「は、花子!?」

田中さんが驚いて振り返る。花子さんが駆け寄ってきて、田中さんの体を抱きしめた。

「もう!連絡が取れないから心配したのよ!何してたの!?」

「あ、ああ……実は記憶喪失になっちゃって……」

「記憶喪失!?」

花子さんが目を丸くする。田中さんは事情を説明し始めた。頭を打ったこと、記憶がなくなったこと、そして三人がエビチリを作ってくれて記憶が戻ったこと。

花子さんは話を聞き終わると、三人の方を向いて深々と頭を下げた。

「本当にありがとうございました!主人がお世話になって……」

「いえいえ!俺達も楽しかったんで!」

石川がニコニコしながら言う。

「でも、本当に不思議ね……エビチリで記憶が戻るなんて……」

「それが脳まで痺れる豆板醤の力ですよ!」

石川が例の小瓶を見せる。花子さんはそれを見て、「あら」と声を上げた。

「それ、うちの主人が作った特製の豆板醤じゃない?」

「え?」

三人が同時に声を上げる。

「そうなのよ。主人、趣味で調味料作るのが好きで。この『脳まで痺れる豆板醤』も、痺れる辛さが脳まで届くようなインパクトのある豆板醤を作りたいって、試行錯誤して……」

「マジか……」

千葉が呟く。つまり、田中さんが作った豆板醤で、田中さんの記憶が戻ったということか。

「それにしても、主人の大好物がエビチリだって、よくわかりましたね」

「いや、それは勘です」

石川が正直に答える。花子さんは「まあ」と笑った。

「でも、おかげさまで記憶が戻りました。本当にありがとうございました」

花子さんと田中さんが再び頭を下げる。石川たちも頭を下げ返した。

二人が立ち去った後、三人は顔を見合わせた。

「なあ……」

千葉が口を開く。

「今回のキャンプ、グレートだったよな?」

「グレート……だったのかな……?」

富山が首を傾げる。石川は満面の笑みで叫んだ。

「もちろん!!管理人さんの記憶を取り戻すなんて、こんなグレートなキャンプ他にないだろ!!」

「まあ、確かに……記憶には残るキャンプになったね……」

富山が苦笑いする。

その時、隣のサイトのファミリーキャンパーのお父さんが歩いてきた。

「あのー、すみません」

「はい?」

「さっきのエビチリ、すごく美味しそうだったんですけど……よかったらレシピ教えてもらえます?」

「おお!もちろん!」

石川が目を輝かせる。

「ただし、脳まで痺れる豆板醤は手に入らないかもしれませんけど!」

「あ、大丈夫です。普通の豆板醤で!」

お父さんが笑う。石川はレシピを説明し始めた。

その様子を見ながら、千葉がポツリと呟く。

「やっぱり、どんなキャンプも一緒にやれば楽しくなるんだね」

「ほんとそれ……まあ、心臓に悪いけど……」

富山がため息をつきながらも、笑顔だった。

夕暮れ時、キャンプ場は穏やかな空気に包まれていた。石川たちのサイトでは、焚き火が赤々と燃え、その周りで三人が談笑している。

「でもさ、もし本当に記憶が戻らなかったらどうするつもりだったの?」

富山が石川に尋ねる。石川はニヤリと笑った。

「そん時はそん時!きっと何とかなったって!」

「何とかなるわけないでしょ……」

「でも、結果的に記憶戻ったじゃん!」

「それは偶然……」

「偶然も必然!これがグレートなキャンプの力だ!!」

石川が拳を突き上げる。千葉が「そうだそうだ!」と同調する。富山は呆れながらも、「まあ、楽しかったけどね」と認めた。

空には満天の星が瞬いていた。管理人さんが言っていた通り、今夜の星空は格別だった。

「次のキャンプはどうする?」

千葉が尋ねる。石川は星空を見上げながら答えた。

「そうだなあ……次は『星空の下で宇宙人と交信キャンプ』とか……」

「絶対やだ」

富山が即答する。三人の笑い声が、静かなキャンプ場に響いた。

そして翌朝、チェックアウトの時。田中さんが三人に小さな瓶を手渡した。

「これ、『脳まで痺れる豆板醤』の予備です。よかったら持って行ってください」

「いいんですか!?」

石川が目を輝かせる。

「ええ。あなた方のおかげで、この豆板醤の真の力がわかりましたから」

「真の力……?」

「記憶を呼び覚ます力です」

田中さんがウインクする。三人は顔を見合わせて笑った。

「それじゃあ、また来ますね!」

「ええ、お待ちしてます。次は普通にキャンプしてくださいね」

「わかりました!……たぶん!」

石川が曖昧に答える。富山と千葉が「たぶんじゃダメでしょ」とツッコんだ。

こうして、『俺達のグレートなキャンプ232』は幕を閉じた。果たして次のキャンプは何が起こるのか。それは誰にもわからない。ただ一つ確かなのは、それがきっと『グレート』だということだけだった。

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『俺達のグレートなキャンプ232 記憶を取り戻すエビチリを作るか』 海山純平 @umiyama117

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