第3話 ほんとに、好きなのか?

ラブコメ日間 6位!!!!


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 午前の授業が終わり、昼休みのチャイムが鳴った。


 さっきまで静かだった教室は、一気に騒がしくなる。机を寄せてグループを作るやつ、購買に走るやつ、廊下に弁当を持って出ていくやつ。いつもの光景だ。


 俺も弁当を出そうとした、そのときだった。


「失礼します。大和、いる?」


 教室の入り口から、はっきりした声が響く。


 自然と、教室中の視線がそちらに集まった。


 立っていたのは、サッカー部マネージャーの早瀬真帆。長い髪を一つに結び、ジャージではなく今日は制服。部活のときとは違う姿に、周囲が一瞬ざわつく。


 どうやら、用があるのは俺の親友――大和らしい。


「……あ、はい。なんですか?」


 大和が少し気まずそうに立ち上がる。


 早瀬さんは迷いなく大和のもとまで歩いていく。途中、何人かの男子が声をかけようとするが、早瀬さんのきりっとした雰囲気に気圧されて、結局誰も話しかけられない。


「さっき顧問から連絡があったの。放課後の練習、メニュー変更になるから、昼のうちにちょっと話したくて」

「……今、ですか?」

「うん。お弁当持って、外でいい?」


「拒否権は……?」

「ない、かな」


「……ですよね」


 苦笑しながらも、大和は弁当を手に取り、早瀬さんについて教室を出ていった。


 ドアが閉まると、張りつめていた空気が一気に緩み、教室はまた元の騒がしさを取り戻す。


「うわー、いいな大和」

「マネージャーに呼び出しとか、主人公かよ」

「てか早瀬さん、今日制服じゃん」


 あちこちからそんな声が聞こえる。


 確かに、早瀬真帆は目立つ存在だ。部活ではテキパキしていて、面倒見がよくて、しかも綺麗。男子からの人気も高い。


 ……で、そんな人が、よりにもよって大和を呼びに来たわけで。


(まあ、サッカー部のエースだしな、あいつ)


 理由が部活だとしても、周囲が放っておくわけがない。


 とりあえず俺も弁当を広げるか、と思ったところで、じっとした視線を感じた。


 顔を上げると、遠くの席に座る波瑠と目が合う。


 友達に囲まれてはいるが、弁当の蓋はまだ開けられていない。完全に、俺の出方待ちだ。


「……」


「……」


 最近、あまり一緒に昼を食べられていなかったからな。


 俺は軽くため息をついて、波瑠に向かって手招きした。


 すると、波瑠はぱっと表情を明るくして、ほとんど小走りで俺のところに来る。


「なに、悠真?」

「分かってるだろ」

「えー、言ってくれないと分かんない」


 分かってるくせに。


 俺は前の席の机をくっつけて、向かい合う形を作る。そして椅子を引いて、座れと目配せした。


 波瑠は嬉しそうに腰を下ろし、にこにこしながらこちらを見る。


「一緒に食べよう」

「うん!」


 その返事だけで、なんだか昼休みが少し特別な時間になった気がした。


 弁当を食べながら、ふと波瑠の中身を盗み見る。彩りも栄養も考えられた、いかにも“ちゃんとしている”弁当だ。


「……美味しそうだな」

「え、そう?」

「うん。丁寧だなって思って」


 そう言うと、波瑠は一瞬驚いた顔をしてから、少し照れたように笑った。


「……じゃあ、はい」


 そう言って、卵焼きを箸でつまみ、俺の方に差し出してくる。


 いわゆる、“あーん”というやつだ。


「……ここ、教室だけど」

「だめ?」


 美少女の上目遣いでそんなことを言われたら、断れるわけがない。


「……いただきます」


 卵焼きを口に入れると、ほんのり甘くて、出汁の味が広がる。


「美味しい」

「……よかった」


 波瑠はほっとしたように笑った。


 なんてことのない昼休み。

 なのに、こうして向かい合って弁当を食べているだけで、胸の奥が少しだけ温かくなる。


「……ね、悠真」

「ん?」

「最近、こうやって一緒に食べるの、少なかったから。誘ってくれて、嬉しかった」


「……そっか」

「うん」


 波瑠はそう言って、少しだけ視線を落とす。


 俺は、なんとなく気恥ずかしくなって、視線を弁当に戻した。


「……じゃあ、これからも、たまには一緒に食べよう」

「ほんと?」

「ああ」


 波瑠の表情が、またぱっと明るくなる。


 その笑顔を見て、俺はふと、さっき教室で見かけた光景を思い出してしまった。


「……そういえばさ」

「なんですか?」

「大和、今年が高校最後の総体なんだろ。大変だよな」


 何気ない一言だった。

 部活を頑張っている親友を労っただけ――のつもりだった。


 けれど。


 波瑠の表情が、すっと冷える。


 さっきまでの柔らかさが嘘みたいに消え、唇がきゅっと結ばれた。


「……今、私と一緒にいるのに」

「え?」

「他の人の話、しないでください!!」


 ぴしっとした声だった。


「いや、いやいや。そういう意味じゃ――」

「そういう意味じゃなくても、です」


 箸を持ったまま、波瑠はじっと俺を見つめる。


「私とお昼食べてるんですよ? なのに、別の人のこと考えてるなんて……」


「……いや、それって、彼女がいる人が他の女性の話をするな、みたいな話だろ」

「同じです」


 即答だった。


「しかも大和は、波瑠の幼馴染だろ?」

「……関係ありません」


 そう言って、波瑠は頬をぷくっと膨らませる。


 完全に拗ねている顔だ。


「……え、ほんとに?」

「なにがですか」

「いや……波瑠って、本当に大和のこと――」


 好きなのか?


 そう言いかけて、俺は言葉を飲み込んだ。


 代わりに、心の中で呟く。


(……ほんとに、波瑠は大和のこと、好きなんだよな?)


 幼馴染で、ずっと一緒にいて、世間的にも「お似合い」と言われる二人。

 波瑠の気持ちは、当然のように大和に向いている――はずなのに。

 もあるから確かなはずなんだけど。


 今のこの反応は、どう考えても「他の女の子に嫉妬してる」それにしか見えない。


「……悠真」

「ん?」

「私といるときは、私だけ見ててください」


 真っ直ぐな目で、そう言われる。


 冗談っぽく言われたなら、笑って流せたかもしれない。

 でも、波瑠の声はやけに真剣で、逃げ道を塞ぐみたいだった。


「……わかったよ」

「……ほんとですか?」


「ああ。波瑠の前では、他の話はしない」


 そう答えると、波瑠の頬の膨らみが少しずつ戻り、やがて安心したように微笑んだ。


「……約束ですからね」


 その笑顔を見て、胸の奥が、ちくりと痛む。


(……俺、なにしてるんだろうな)


 本来なら、波瑠の想いは大和に向いているはずで。

 俺はただの“友達”で、横で見守る役のはずで。


 なのに――。


 こうして二人で向かい合って、波瑠が俺だけを見て、拗ねて、笑っている。


(……ほんとに、好きなのは、大和なのか?)


 答えの出ない疑問を胸に抱えたまま、俺は黙って、残りの弁当を口に運んだ。







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性格良し、外見良しの幼馴染がいる美少女は、俺しか眼中にないらしい。 ふるーる @fleur27

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