6.狂気

 真夜中。クロードの寝室には現れた。


 どこから侵入してきたのか、冒険者仲間のサムソンが立っている。しかし目に生気がなく、一目で死人しびとと分かった。クロードは疑問に思いながらも──


浄化の炎ホーリィフレイム


 ひとまず危険を排除することを優先する。


 白い炎は瞬く間にサムソンの全身を焼く。しかし一件落着──とはいかない。炎に焼かれた彼の腹部から黒いものが飛び出してきて、それは床に落ちたかと思うと、みるみるうちに人型ひとがたに成長した。


「パメラか」


「久しぶりね、クロード。あなた以外は全員殺してきた……意味は分かるわよね?」


 返事もせず、クロードは右手を突き出す。その手から魔法が放たれるより早く、パメラはまた形を変える。


 それはクロードの娘の姿だった。意図を察して、彼は魔法の詠唱を中断する。


「理解が早くて助かるわ。あたしはあなたの家族まで巻き込むつもりはない。というわけで、ちょっとに付き合ってくれる?」


 クロードは少し迷ったが、そもそも負け筋などないことに気付いて、彼女の言葉に従うことにした。神聖魔術師ディヴァインライトであるクロードは、相手が亡者アンデッドであれば万に一つも負けることはない。





 タルクラルの森の奥地。パメラを追って歩き続けたクロードは、彼自身の作った不可視の領域に辿り着く。


 そこに修道服姿の女がいた。彼女はランタンを持ち、背後に白骨化した──かつてクロードが殺した女たちを従えている。


「パメラ、連れてきてくれてありがとう。あなたはラディのところに行きたいですよね」


 パメラが頷く。今は生前の姿をしている彼女は、振り返ると……クロードには一瞥もくれず、来た道を戻るように走り出した。


「誰かと思えば、外道シスターのマリスか」


「あなたに外道と言われる筋合いはないですよ。これ……全部あなたがやったんですよね?」


 マリスがランタンを揺らす。それによって彼女たちの影が揺れた。


「さあて、何の話だか」


「卑劣ですよね。ダンジョンの中では何もせず、街に帰還する直前……気が緩んでいるところを狙って襲うのですから。何か理由をつけてこの場所に誘い込むのでしょう? まさかこんな散歩道の延長線上で襲われるとは思わないから、女性の側も油断している」


「ははは、だから何の話をしているのか分からないな」


「浄化の結界が張ってあるのも手が込んでいますよね。殺して埋めた彼女たちが亡者アンデッドになるのは不都合ですから……それがきっかけで事件が発覚する可能性もありますし」


「マリス、この会話には何の意味もない。事件を立証できるのは、パメラとそこにいる彼女たちだけだ。そしてその証拠は


 無音で詠唱を終えたクロードは、女どもを一掃する魔法を放った。


 風が起こり──


聖域の風ストームですか。容赦ないですね」


 光の暴風がマリスもろとも死者たちを吹き飛ばしたはずだった。しかしマリスは修道服をはためかせただけで無傷。その背後に立つ白骨死体たちも、少しバランスを崩しただけで無傷。


 


 さすがのクロードも焦る。亡者アンデッドに対して上級の聖属性魔法を直撃させたのである。その結果が無傷ノーダメージなど、とても信じられることではない。


「あなたは勘違いしているみたいですね。ここにるのは死者の魂ではなく、生きた彼女たちの心です。だってそうでしょう? ここには浄化の結界があるのですから、亡者アンデッドが生まれるはずがない」


 は──?


「彼女たちは闇よりも光に近い存在です。だから聖属性魔法は通用しません」


「意味が……分からない」


「分からなくたって良いのですよ。だってあなたはこれから死ぬのですし」


 その言葉を契機に、再びクロードが動く。彼は無音詠唱していた祝福ブレスの魔法で肉体を強化し、指先から聖なる刃ホーリィブレードを伸ばし、凄まじい速度でマリスを強襲する。


 しかしマリスはその刃をあっさりとはたき落とした。それから彼の腕を掴み、彼を投げ飛ばした。


 あまりの出来事に受け身も取れず、クロードは地面に叩きつけられた。それでも彼は即座に体を起こそうとして──


 眼前に頭蓋骨があった。その口がカクカクと動く。


『嬉しいわ。やっとあなたを殺せる!』



 *



 全身の骨を一つずつ丁寧に砕かれ、心臓以外の内臓を穴だらけにされて、あらゆる筋肉をズタズタに斬り裂かれ、それでもクロードは死ねずにいた。


 その彼にマリスは尋ねる。


「答えれば楽にしてあげます。何故、女に不自由していないはずのあなたが、こんな犯罪に手を染めていたのですか?」


 彼は無いはずの肺から息を吐き、出鱈目でたらめに吹いた笛のような声で答えた。


「ひひ、パメラみたいなプライドの高い女がよ、サムソンみたいな小汚い男にけがされるのを見るのが好きなんだ。心をへし折られて、力に屈して、言われるがままにモノを舐めさせられて……そういうのを見ると興奮するんだ。そしてそうやって壊れた女を犯すのが堪らなく好きなんだ」


 答えに満足したマリスは、クロードに治癒の魔法をかけて、彼の体を元通りにしてあげた。


「ああ? 何を──」


「答えてくれてありがとう。お礼にもう一回、また最初から彼女たちに壊させてあげますね」

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