5.後悔
サムソンはベテランの冒険者であった。また酒癖も女癖も悪い、ある意味で典型的な冒険者でもあった。彼は今日も飲み過ぎて歩けなくなり、酒場の二階にある宿部屋を借りて、部屋のベッドに横たわっていた。
彼は良い気分だった。それは酒のせいではなく、二ヶ月前に犯した女のことを思い出しているから──
パメラ。腕は立つが潔癖な上に生意気で、男の口説きにはまったく応じず、そもそもサムソンのような男に対しては軽蔑を隠しもしない──そんな女だった。また男性中心のパーティに女性が混じることの危険性を訴え、女性のみのパーティを組む活動などもしていた。
しかし彼女とてすべての男を毛嫌いしているわけではなかった。たとえば一流の
彼女が珍しく女一人で男性中心のパーティに参加したのも、クロードの勧誘があってこそである。まさかそのクロードが、彼女の最も嫌悪している
「へへっ、たまんなかったなぁ。あんな良い女の一番を貰えるなんて、一生に一度の経験だぜ……」
そう言った彼の体に、ぞっとするほど冷たい空気が触れる。
*
最初、窓が開いているのかと思った。
しかしそれにしてはおかしいと気付く。秋の夜とはいえ、部屋の中がここまで冷えることはない。
体を起こして、冷気の原因を確かめようとする。しかし室内は暗く何も見えない。
いや──
誰かいる?
気配を感じて、彼は目を凝らしてそれを見ようとした。
女の声がしたのはその時。
「サムソン。あたしの処女を奪ったのはあなただったわね。だから最初に来てあげたわ」
「な……!?」
思わず仰け反る。声がしたことに……というより、その声が今の今まで
「パメラか!?」
「ええ、手短に用件を伝えるわね。殺しに来たわ」
酔いが一気に覚める。それと同時に冒険者としての本能が、彼の体を突き動かす。
武器はない。サムソンは魔法を使えないため、戦うのは不利。ドアから逃げるには距離がある。大声を出しても助けが来る前に殺される。
窓だ──庭には池があって、そこに飛び込めば水音で誰かに気付いてもらえる。距離も取れるし、時間を稼ぐこともできる。
サムソンはすぐ近くにある窓枠に手を伸ばした。彼の判断は悪くなかったが……しかし相手が悪すぎた。彼の手が窓に届くより早く、彼の腹部にはパメラの腕が突き刺さっていた。
「犯すってこんな感じ?」
闇の中から伸びる手。それがサムソンの脇腹に突き刺さって──即座に引っこ抜かれて──また突き刺さって。ズブズブと何度もその動きが繰り返された。尋常ではない痛みに、サムソンは抵抗する気力を失う。
「これは何?」
彼女の手が内臓を掴む。何を掴まれているのか、サムソンにも分からない。痛みと恐怖……彼にはもう冷静な思考などできるはずもなかった。
パメラが正体を見せ、彼はそれを見てしまっていた。暗闇の中に
「なあ、あんたは何なんだ……普通じゃねえ。魔物でもねえ……未知の怪物だ」
「怪物なのはあなたたちの方よ」
彼女は言いながら、内臓を一つ潰した。サムソンは死に相当するほどの痛みを感じながら、それでも意識を失えずにいた。
「次はこれ? 心臓だけは本当に死んでしまうから、潰さないように気をつけないと」
「パメラよ、俺が悪かった。反省している。だから頼む……せめてすぐに死なせてくれ」
「嫌よ」
彼女はぐしゃりと二つ目の内臓を潰した。サムソンはそれでも死ぬことができず、ただ苦痛だけを脳に焼き付けられた。
「次はこっちにしましょう。これがあるせいで、あたしたちは苦しめられている」
「…………」
闇の手が睾丸を掴むが、彼には懇願する気力もなかった。ブチブチと……それが
「痛い? 苦しい? 怖い? 悔しい? あたしもそうだったわ。あたしも──」
一つずつ内臓を潰される。あるいは引き
そして唐突に──
「残念、そろそろ時間切れ」
パメラの手がサムソンの心臓を握り潰した。
「あたしはね、いつか自分からプロポーズするつもりだったの……あなたたちが嫌っているラディにね。彼と一緒に幸せになることを夢見て、でもあと一歩が踏み出せなくて。あなたたちはそんな少女みたいな想いを蹂躙したの。ねえ、楽しかった?」
そして赤い目から流れる涙を見て、彼は後悔した。何故、自分は守る側ではなく壊す側に回ってしまったのか──
絶望と後悔に塗り潰された思考の中で、彼はようやく死に絶えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます