4.復讐鬼

 宵闇よいやみの中、修道服姿の黒髪の女性がランタンを片手にタルクラルの森を歩いている。


 彼女はラディから貰った地図を頼りに、パメラが埋まっている場所を目指していた。不可視の領域──そこに空間があると知らなければ立ち入ることができないという仕掛けも、この地図のお陰で突破することができた。


 歩いているうちにすっかり夜になる。やがて彼女は一歩の狂いもなくラディの示した位置に到達し、落ち葉の積もった地面に手を触れる。


「パメラ。起きてください」


 言葉には意味はない。大切なのは泥の中から引き上げるような感覚イメージ


 とんとん……と地面を叩いて、反応を確かめたあと、数歩下がって──しばらく待つ。


 最初はガサガサという落ち葉を揺らす音。やがてゴボッゴボッという音とともに、土を穿うがって何かが這い出してくる。


 それは地中にったせいか、まだ白骨化はしていない。しかしゾンビと呼ぶにはこれ以上なく相応しい状態である。


 見るに耐えない。マリスは魔法を唱えると彼女を生前の姿に戻した。


「臭い……」


 金髪の女性──パメラはマリスの姿を認めると、呟きながらよろよろと彼女に接近する。そして彼女の口に触れそうなところまで鼻を近づけると、そこから首、胸、腹、下腹部と徐々に顔を下ろしていく。


「臭い……臭い臭い臭い臭い……!」


「何がですか?」


「あなたからラディの臭いがする。今回はどんな理由をつけて彼にをさせたのよ!」


「とりあえず離れてください。臭いのはあなたの方」


 マリスに言われて、パメラは二歩ほど後退する。しかしその形相は悪鬼と言われてもおかしくないほど、怒りに歪んでいた。


 余計なこと……と思いながらも、マリスはついつい語ってしまう。


「ラディはですね……可愛いんですよ。私の仕事を手伝っているせいでもありますけど、彼は女性に対して性的な欲求を持つこと自体、忌避しているように思えます。でも性欲がないわけじゃない。だから少し誘導してあげれば、ちゃんと男の子として反応します。その過程がですね、まるでパズルを解くみたいで楽しいんです。彼にセックスに対する正当性を与えるゲームとでも言いましょうか。それでも彼には葛藤があるみたいで、だからずっと切ない顔をしながら、私に抱かれるんです」


 パメラの体がゆらりと揺れる。バランスを崩したわけではない。むしろ体勢を整えるための所作──


「まずはあなたから殺してあげる」


 パメラが踏み込むと同時に腕を突き出してくる。爪先で眼球を狙うような──そのまま脳までえぐろうとするような一撃。


 しかしマリスはあっさりとその腕をはたき落とすと、拳骨げんこつをパメラの頭に落とした。


 ゴンという音。痛覚などないはずなのに、パメラは頭をさすりながら、まるで怯えた子供のように上目遣いでマリスを見た。


「あなたが恨む相手は私ではないでしょう。だいたいあなたがラディに抱いてもらえなかったのは、あなたに誘う勇気がなかっただけですよね。それについてはあなた自身のせい」


「…………」


 パメラは言い返さなかった。彼女は殺されたことよりも、ラディに想いを伝えられなかったことの方が悔しいのかもしれない。


「こんなことをしている時間はありません。私が何のためにあなたを起こしたのか……分かりますよね?」


「ええ」


「だったら急ぎましょう。それでは今から夜明けまでの間、あなたに特別な力を与えます。あなたはその力で──復讐を果たしなさい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る