第5話 伝説を作ろう

「ねぇ」


沈黙を破ったのは、けい子だった。


誰かが言葉を出さなければ、

この空気は、ただ重たいまま終わってしまう。

そんな予感がしていた。


「だったらさ」

一度、息を吸う。

「勝とう」


あまりにも真っ直ぐな言葉だった。


よし子とやす子は、

一瞬、言葉を失った。

冗談でも、勢いでもない。

逃げ道を一切含まない言い方だった。


「優勝したら」

けい子は、ゆっくり続ける。

「何も言えなくなる」


後出しの否定も。

安全圏からの嘲笑も。

「俺は関わらなかった」という逃げも。


全部、封じる。


「この施設に、初優勝を残そう」


その言葉が、部屋の真ん中に落ちた。


よし子は、少しだけ間を置いてから笑った。

その笑顔は、覚悟を決めた人のものだった。


「いいね」

「それ、めちゃくちゃ気持ちいいやつじゃん」


その瞬間、やす子の胸の奥が、きゅっと締まった。

怖さは消えない。

でも、別の感情が、それを上回り始めていた。


その日の帰り道。

よし子は、一人でグッズショップに立ち寄った。


自分用と、けい子用。

生地を触り、色を比べ、

サイズ表を何度も見直す。


——妥協したくなかった。


ウィッグも買った。

イベント用の軽いものじゃない。

本気のやつだ。


レジで金額を見たとき、

一瞬だけ迷いがよぎった。

でも、それを振り払った。


「お金、あとで割ろう」


そう言ったけい子に、

よし子は迷いなく首を振った。


「いらない」

「私のわがままに付き合ってくれてるんだから」


その言葉を聞いた瞬間、

やす子の胸が、じんわりと熱くなった。


——この人達は、本気だ。


中途半端に終わる未来を、最初から想定していない。


「優勝しよう」


誰からともなく、そう口にした。


その言葉は、願いじゃなかった。

目標でもなかった。


「約束」


三人は、自然と拳を合わせた。


手が、少し震えている。

でも、それは逃げる震えじゃない。


前に進むための、震えだった。


この瞬間から、

彼女たちは「挑戦者」じゃなくなった。


——獲りに行く側になったのだ。

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2026年1月18日 00:00

Golden Glory 如月 睦月 @kisaragi0125

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