06

 気持ち新たに赤い扉を開け、次フロアに足を踏み入れた一同。

 そこには、第一フロアと似た光景が広がっていた。


 湾曲した赤茶のレール、枕木に砂利と、まんまコピーしたかのようなトンネル空間。まあ、単純な構造上の問題、第一フロアよりも円が広がったことにより、線路の曲線率は緩くなっているけれど。


 赤扉の上部には『第二フロア』と記された看板があり、その真正面、外周側の壁には、奇抜に目立つ黄色い扉が腰を据えている。色が違うだけで、この辺りの配置も変わっていない。


 ただ、明確に違う部分が一点。

 天井や壁のあらゆる箇所に、手の平ほどの大きさの、四角形の小窓が設けられていたのだ。


 窓の中央には縦一線に入った切れ目。お社の扉のように開閉するのだろうかと注視するも、表面に取っ手のようなものは見えない。内側からしか開かない仕組みなのだろうか?


「おい見ろよ、なんか小せー窓みてーなのが――」


 砂利道を進みながら、幽切が背後にいるメンバーに聞こえるよう、大きな声で呼びかけた。


 その直後だ。

 突如。周辺からガチャガチャ、と騒々しい音が響き、見える範囲内の小窓がすべて開かれたかと思うと、中から何百、何千もの拳銃が姿を現した。

 ひどく機械的なアームに支えられたソレの銃口は、すべて幽切に向けられている。


「は?」


 なんの前置きもなく、発砲開始。

 パンパン、と連続して乾いた音が続き、幽切に大量の鉛玉が降り注いだ。

 突然の事態に、ユウイチたちは言葉を発することも忘れ、ただただ本能的にその場に伏せることしかできない。

 人間を殺す道具なのに、こんなオモチャみたいな音が出るのかと、そう場違いにも感心してしまうほど、それは唐突すぎる展開だった。


 そうして。

 土煙と硝煙の匂いが漂う中。五秒ほど連続で発砲し続けた拳銃は、再度ガチャガチャ、と音をあげ、小窓内にその身を潜めたのだった。

 幽切がどうなったかは、立ち込める土煙で遮られ、確認できない。


「い、いまのなに?」

 

 うつ伏せの状態のまま、今槻が小さな声で訊ねると、


「ニューナンブM60じゃ」

 

 立川が唖然とした顔で答えた。


「にゅー……なに?」

「日本の警察官が多く使用しとる拳銃じゃ。見間違えるはずがない。儂も、殺人犯を追っとるときに携帯しとったみたいじゃの」

「あ、いや、そういう意味じゃなかったんだけど……というか、立川さん。携帯してたみたいって、また記憶が?」

「カッハッハ。ああ。あの拳銃を見て、完全に思い出したわい」


 ひっ、と今槻が顔を引きつらせる。

 見れば、正義感あふれる立川の顔が、禍々しい憤怒のソレに変わっていた。

 立ち上がり、土煙に早足で向かいながら、立川は叫ぶ。


「幽切セイタっ!! お主のことじゃ、どうせ生きとるん――」


 怒号も途中、またも稼動し始める拳銃トラップ。

 幾千の銃口の矛先は、歩み続ける立川の、ほんのすこし後方に向けられている。

 後方?


「伏せろ、爺さん!!」


 と。警告の声をあげつつ、土煙の中から幽切が駆け出してきた。

 どうやら無事だったようだ――が、再会を喜ぶ間もなく、走っている勢いそのままに立川を掴み、真横へ飛ぶ幽切。

 二人して取っ組み合いをするかのように二、三メートル砂利の上を転がった後、見当違いの場所に繰り出される弾丸の雨、雨、雨。


 程なくして、火薬の臭いを残し、小窓に引っ込む拳銃。

 それを見て、幽切は押し倒した立川を眼下に腰を上げ、メンバー向けて小声で話し始める。

 その額からは大量の血液が流れ、痩せこけた顔の左半分を真っ赤に染めていた。


「このトラップは、人間の『声』で起動する」

 

 んぐ、と今槻が慌てて口を塞いだ。幽切は苦笑しつつ。


「大丈夫だよ、今槻の姉さん。普通の話し声なら起動しねー。危ねーのは、大声だ」

「お、大声?」

 

 恐る恐る小声で話す今槻の問いに、幽切は首肯する。


「さっきの爺さんに対する銃撃で確信した。土煙の中からでもよく見えたぜ。あれは、爺さんに対してじゃねー、爺さんが『大声を発した場所』に対して撃ってたんだ」


 だから、歩み続ける立川自身にではなく、銃口はほんのすこし後方に向けられていた。

 そのことを示すかのように、晴れた土煙の先、幽切が銃撃を受けた場所を見てみると、見事に地面の一点だけがえぐり取られていた。

 左目に入った血を乱暴に拭いながら、幽切は続ける。


「とりあえずわかったことは、三点――ひとつ、この施設に元からあるものの音は、自然音として無視される。でなけりゃー、扉を開けたときの音や砂利上を歩く音で、オレらはとっくに死んでるはずだからな――二つ、話し声ほどの音量なら感知されねー。これはおそらく、時々響く空洞音対策の恩恵弊害だ。空洞音が響くたびに発砲してたら、弾丸がいくつあっても足りねーって話だしな――三つ、トラップが起動した直後の数秒間は、大声を出してもOK。これは完全に偶然の産物だ。爺さんを助けようとしなけりゃー、わからなかった。まあ、それでも慎重を期して、大声は極力出さねーほうがいいだろーぜ」

「……なぜじゃ」

 

 唖然とした顔で、立川が幽切に訊ねた。

 が。幽切は無視するかのように言を紡ぐ。


「しかし、不幸中の幸いだったぜ。オレも歩きながら大声を出してなけりゃ、頭皮を削られるだけじゃ済まなかった」

「話を聞かんか――」

「わかってるよ、爺さん」

 

 語気強く言いかけた立川を、どこか晴れ晴れとした顔の幽切が制した。


「あの銃撃を受けて、すべて思い出した。若干混乱してるが、オレとアンタはたしかに会っていた――人里離れた廃屋。ああ、そこだったよな。オレとアンタの、最期の場所は」

「っ……なら、どうして儂を助けた? お主だって儂のことを」

「まあ、そういう込み入った話は、このトラップを解除してからにしよーぜ。爺さんも、小声じゃーオレを責め辛いだろ?」


 いまいち要領を得ない会話をした後、幽切は最初に拳銃トラップが降り注いだ地点に向かうと、えぐり取られた地面の近くで露呈している、見慣れた赤ボタンを押し込んだ。

 第一フロアのソレと同じく、赤から緑へと色が変わる。


「さっき避けたあとに、偶然見つけたものだ。さあ、みんなで『協力』しよーぜ」


 言って、ボタン変更を始めていく幽切。

 言い足りぬとばかりに歯噛みしていた立川も、渋々トラップ解除に専念し始めた。ユウイチたちも、ここでようやく伏せていた姿勢を戻し、ボタン捜索に入る。

 

 まさか、あんな惨状になるとも知らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る