第3話 天気は気まぐれ

「真っ白じゃないか」


 雲に隠れて目的の絶景が見えない。

 自分が見たかった方向だけが雲に覆われているのだ。

 反対側――盆地側は雲ひとつなく晴れ渡り、遠くの山々まで見える。

 だが自分が歩いてきた道はまったく見えない。

 時折雲が流れて岩壁がちらりと見えるだけだった。

 雲は頂上を境に消え、盆地側だけが晴れている。

 目的の景色は真っ白な雲の中だ。


「……全く、なんだよ、これは」


 頂上、稜線を境に目的の景色は隠れ、反対側は快晴というのは腹立たしかった。

 だが、すぐに収まった。


「まあ、これが山だ」


 自然相手に思い通りいくはずもない。

 特に天気など気まぐれな存在だ。


「さて、一休みするか」


 気分を切り替えて山小屋へ向かう。

 ここは絶景が見える場所なので、よく利用している。

 達成感はなく、身も心も凍りついていたので、ほぐすためにも休憩することにした。

 山小屋の中に入り休憩料とカップ麺代を払って靴を脱いで座り込む。

 やがてテーブルに出された麺をかき込む。

 疲労感から何も感じず、時間経過も曖昧で三分を過ぎたことに気がつかず伸びてしまった。

 それでも、まだ暖かい麺を無心に腹の中に入れて冷えた体を温める。

 三十分ほど休み、ようやく心の動揺が収まったところで再び外へ出る。

 その時だった。


「……あ……」


 見えやがった。

 雲をかぶりながら、雲海から突き出た富士山。

 すっかり雪化粧となり、雪代によって白い筋が青い裾野に伸びている綺麗な富士。

 しかも登っている山の稜線に向かって雲海が波のように押し寄せ、引いていく。

 その向こうに悠然とそびえ立つ富士。

 快晴では、絶対に見られない光景だった。


「全く……天気ってやつは、本当に気まぐれだな」


 呆れながらも喜び、その絶景をカメラに収めた。

 流れゆく空の雲、押し寄せる雲海。

 まるで生き物のように変わりゆく様を収める。

 その動きが綺麗で、動画にしておさめたほどだ。

 しかし現れたのは三十分だけ。

 やがて富士は、現れた巨大な雲のカーテンの向こうへ静かに消えていった。


「やれやれ、山も空も気まぐれだな」


 富士など存在しなかったかのように消してしまった雲に悪態を吐きながらも、寒さでこわばった顔が緩み、笑みを浮かべて下山していった。

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天気は気まぐれ、ままならない 葉山 宗次郎 @hayamasoujirou

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