夢は本気かどうかではなく説明可能かどうか

商店街のシャッターが半分ほど閉まり、遠くで電車の通過音が低く響く。

坂口はスマホをいじりながら、急に顔を上げた。


坂口: 「なあ水野。俺、ほんまにラップで食っていきたいと思ってんねん。」


 


水野: 「知ってる。その思ってる話、もう何回目や。」


 


坂口: 「今回はちゃうねん。本気やねん。」


 


水野: 「それも毎回言うてる。」


 


坂口: 「いや、今回は声出てるやろ。テンションちゃうやろ。」


 


水野: 「声量で本気測るシステム、どこで採用されてんねん。」


 


坂口: 「ノリや。ノリがあるかどうかや。」


 


水野: 「それ、ライブ会場限定の指標やろ。」


 


坂口: 「今もステージやと思ったらええねん。」


 


水野: 「観客一人やで。」


 


坂口はスマホを握りしめる。


坂口: 「俺はな、感じてほしいねん。説明とかちゃうねん。」


 


水野: 「でも俺が聞いてるのは説明や。」


 


坂口: 「夢に説明いる?」


 


水野: 「信じてほしいならいる。」


 


坂口: 「信じてほしいっていうか……分かれよ。」


 


水野: 「それが一番難易度高い言い方や。」


 


そのとき、坂口のスマホから軽快な着信音が鳴る。

ビートっぽい電子音。


坂口: 「ほら来た。」


 


水野: 「何が。」


 


坂口: 「フリや。」


 


坂口は立ち上がり、急にリズムを刻み始める。


坂口: 「イエー、俺の夢は止まらねえ

 マイク一本、駅前から上へ

 気持ちは本気、疑い無用

 説明なんて野暮、感じろYO」


 


水野: 「ちょっと待って。」


 


坂口: 「まだ途中や。」


 


水野: 「今の、気持ちの話しかしてへん。」


 


坂口: 「それが夢や。」


 


水野: 「ちゃう。それをどう現実にするかが夢の中身や。」


 


坂口: 「現実とか言い出すなって。」


 


水野: 「じゃあ逆に聞くわ。」


 


坂口: 「何。」


 


水野: 「説明ラップしてみて。」


 


坂口: 「……は?」


 


水野: 「計画・再現性・条件。全部韻踏んでええから。」


 


坂口: 「急にハードル上げんなや。」


 


水野: 「本気なんやろ。」


 


坂口は一瞬黙り、もう一度着信音を鳴らす。


坂口: 「イエー

 まずは有名、気づいたら頂点

 バズって拡散、気分は最前

 チャンスは突然、運も味方で

 気づけば俺が——」


 


水野: 「止まれ。」


 


坂口: 「まだ終わってへん。」


 


水野: 「今の全部、いつか、気づいたら、突然や。」


 


坂口: 「勢いや。」


 


水野: 「再現性ゼロや。」


 


坂口: 「ラップに再現性求めるな。」


 


水野: 「夢に求めてんねん。」


 


坂口: 「……冷めるわ。」


 


水野: 「冷ましてへん。形にしようとしてる。」


 


坂口はベンチに座り直す。


坂口: 「水野はさ、夢ないん?」


 


水野: 「あるで。」


 


坂口: 「語れや。」


 


水野: 「語れる形にしてから語る。」


 


坂口: 「ずるいな。」


 


水野: 「それが本気の定義や。」


 


しばらく沈黙。

風が吹き、駅のアナウンスが途切れ途切れに聞こえる。


坂口: 「……まあええわ。」


 


水野: 「何が。」


 


坂口: 「説明できるようになったら、また言う。」


 


水野: 「その方が話早い。」


 


坂口: 「でも夢は消えてへんで。」


 


水野: 「消せとは言うてへん。」


 


坂口: 「本気も。」


 


水野: 「それも否定してへん。」


 


坂口: 「ただ、今は説明できへんだけやな。」


 


水野: 「そういうことや。」


 


坂口はスマホをポケットにしまう。


坂口: 「ほな帰るか。」


 


水野: 「その本気伝わる。」


 


坂口: 「次は説明ラップ、完成させとくわ。」


 


水野: 「完成してから鳴らせ。」


 


二人は立ち上がり、駅へ向かう。

着信音はもう鳴らない。

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