要するに何やねん。
@onomatopepe
正解は一つじゃない?
冬の夕方、駅前のベンチ。人通りはまばらで、遠くのバス停に人影が揺れる。風が冷たくて、二人の吐く息が白い。
水野: 「これが正解や、って言い切れるもんって、意外と少ないな。」
坂口: 「いや、あるやろ。たとえば、桃太郎のきびだんご。あれは絶対きびだんごやん。他に正解ない。」
水野: 「それ、どういう意味?きびだんご以外に何がある思てんの。」
坂口: 「いや、例えばあんぱんとか。メロンパンとか。鬼退治にパン持ってったら、案外ウケるかもしれんやん。」
水野: 「ウケ狙いで鬼ヶ島行くやつおらんやろ。しかも、パンやったら仲間集まらんやろ。犬、パン食べへんで?」
坂口: 「いや、犬もメロンパン好きやって。俺の知り合いの犬、めっちゃ食うてたし。」
水野: 「それ、要するにきびだんごの正解が揺らいでるってこと?今の話、筋通ってる?」
坂口: 「通ってる通ってる。要は仲間が集まるパンやったら何でもええねん。」
水野: 「じゃあ、カレーパンでもいけるんか?」
坂口: 「いけるいける。カレーパン持って鬼ヶ島行ったら、カレーの匂いで鬼も寄ってくるかもやし。」
水野: 「鬼、カレー好きなんか?そもそも、鬼の食性って何基準やねん。」
坂口: 「いや、そこは勢いやろ。鬼も腹減るやろし、カレーの匂いしたら寄ってくる。絶対。」
水野: 「絶対って言い切る根拠、どこにあんねん。そもそも、正解って絶対で決められるもんやろか。」
坂口: 「決められるって。だって、先生も正解は一つって言うてたやん。」
水野: 「それ、テストの話やろ。現実は条件次第で変わるやん。たとえば、桃太郎が持っていくべきものって、何を基準に正解決めるん?」
坂口: 「鬼が喜ぶもんやろ。鬼がうまって言うやつ。」
水野: 「じゃあ、鬼の好み調べなあかんやん。調査から始める桃太郎て、めっちゃ地味やで。」
坂口: 「一回やってみよ。俺、鬼役やるから、水野が桃太郎で何か持ってきて。」
水野は一瞬黙る。坂口の目は本気だ。
水野: 「ほな、これ。…はい、きびだんご。」
坂口: 「うーん…それ、アレルギーあるかも。」
水野: 「鬼、アレルギー持ちなん?どんな設定やねん。」
坂口: 「いや、最近の鬼はデリケートやから。グルテンフリーとか気にするやん。」
水野: 「じゃあ、グルテンフリーの正解は何やねん。」
坂口: 「米粉パンとか?」
水野: 「それ、パンやん。もうきびだんごの定義どこ行ったん。」
坂口: 「定義は…丸くて、手渡しできるやつやろ。」
水野: 「それやったら、たこ焼きもいけるやん。」
坂口: 「いけるいける。たこ焼き持って鬼ヶ島行こ。」
水野: 「たこ焼き冷めたらどうすんねん。鬼、冷めたたこ焼き嫌いやろ。」
坂口: 「ほな、温め直して持ってく。電子レンジ持参で。」
水野: 「鬼ヶ島にコンセントある前提やん。どんな鬼ヶ島やねん。」
坂口: 「今どきの鬼ヶ島はWi-Fiも飛んでるし、コンセントもあるって。」
水野: 「要するに、正解はきびだんごじゃなくて、その場で温められる丸いもんってこと?」
坂口: 「そうそう。柔軟性が大事やねん。」
水野: 「いや、話ズレてるやろ。最初正解は一つって言うてたのに、今柔軟性とか言い出してるやん。」
坂口: 「いや違うって、正解は一つやけど、場合によって変わる一つやねん。」
水野: 「それ、どういう意味?一つやのに変わるって、もう一つちゃうやん。」
坂口: 「いや、一回やってみたらわかるって。状況ごとに一つずつ正解があるってことや。」
水野: 「それ、正解が無限に増えるパターンやん。結論出す言うて、結論増やしてどうすんねん。」
坂口: 「増やしてもええやん。選択肢多い方が楽しいし。」
水野: 「いや、テストで全部正解とか書いたら怒られるやろ。」
坂口: 「現実はテストちゃうし。鬼ヶ島やし。」
水野: 「鬼ヶ島も現実ちゃうやろ。」
坂口: 「じゃあ、正解って何なん?」
水野: 「…それ、俺が聞きたいわ。」
ふたりの間に風が吹き抜ける。ベンチの下で紙くずが転がる。
坂口: 「ほな、次は犬・猿・雉の正解も決めよか。」
水野: 「また条件増やすんかい。犬の種類とか言い出したら終わらんで。」
坂口: 「柴犬か、ダックスか、トイプーか…」
水野: 「要するに何?桃太郎の仲間、犬でさえ正解決まらんってこと?」
坂口: 「そうそう。だから、正解は一つやけど、みんな違ってみんないい、みたいな。」
水野: 「それ、詩人の領域やん。俺ら、鬼退治の話してたやんな?」
坂口: 「鬼退治も多様性の時代やで。」
水野: 「もうええわ。寒いし、帰ろ。」
坂口: 「ほな、また明日も正解探しやな。」
水野: 「探すだけで一生終わりそうやけどな。」
二人は立ち上がり、駅の方へ歩き出す。夕暮れの空に、電車の音が遠く響いた。
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