第3話『第一ギミック:沈黙は金(ただしHPで払う)』
《第一プログラム:起動》
モニター表示が切り替わる。
私はコンソール前で、必要なキーを必要な順に叩いた。
感情を乗せる工程ではない。
規約と手続きに従って、処理するだけだ。
《CASE-01:査問進行》
対象:パーティ “ピンク・バレット”
現在工程:査問プログラム 第1段階
監査ログ:保全中(改ざん不可)
運営権限:ログ保全/監査開示/アナウンス(制限)
監査の閲覧ログが一件だけ増える。
《監査アクセス:記録》
監査ID:S-RANK(閲覧)
権限:ログ保全のみ
私はそれ以上、画面を見ない。
業務は業務だ。
◇
灰色の空間に、重たい駆動音が響いた。
三人の頭上に、巨大なシステムウィンドウが展開される。
《査問ルール設定》
[1]真実の自白:減刑ポイント付与(出口条件に接近)
[2]黙秘・拒否:HP(生命力)を手数料として徴収
[3]虚偽申告:酸素濃度低下(段階式)
補助表示が追従する。
《進行指標》
減刑ポイント:0 / 100
出口距離:遠
『——これより、事実確認を行います』
機械音声が告げる。
サカキが眼鏡の位置を直し、ウィンドウの隅々まで睨んだ。
「……尋問か。くだらない」
「なんなのよこれ! 酸素濃度って、脅しのつもり!?」
エリカが叫ぶ。
顔を上げ、周囲を見回す。誰かに見られている前提の仕草だ。口角と眉を調整し、涙の溜め方まで“いつも通り”に整える。
「いい加減にしてよ! アタシは何もしてない! あの男にしつこく触られて——」
ブッ。
短く、低いブザー音が鳴った。
《判定:虚偽(False)》
《ペナルティ:酸素濃度低下(Lv.1)》
《備考:発言ログと外部申告の整合性が不一致》
「え……?」
エリカの声が途切れる。
空気が薄くなる、というより——肺が“入ってこない”感覚だ。吸う動作だけが空回りする。
「は、ぁ……? 息、が……っ」
ヒュー、ヒュー。喉の奥が鳴る。
彼女は膝をつき、床に手をついた。指先が小刻みに震える。
「おいエリカ! どうした!」
ケンゴが駆け寄る。
エリカの肩を揺するが、顔色が変わっていくのを見て、表情が一瞬だけ硬直した。
「ふざけんな! テメェら、エリカに何しやがった!」
ケンゴが虚空に向かって吠える。
「俺たちは被害者だぞ! か弱い女をいじめて楽しいかよクソが!」
ブッ。
《判定:虚偽(False)》
《ペナルティ:酸素濃度低下(Lv.1)》
《警告:虚偽判定の累積によりLvが上昇します》
「ぐ、お……!?」
ケンゴが首元を押さえ、膝をつく。
肺活量の大きさは関係ない。ここはダンジョンだ。仕様が先にある。
「……ッ、くそ……!」
ケンゴは呼吸を乱しながらも、無理やり口を開いた。
「じゃ、じゃあ……そうだ。あの男が勝手に誤解しただけだ。俺たちは示談を——」
ブッ。
《判定:虚偽(False)》
《ペナルティ:酸素濃度低下(Lv.2)》
《補足:言い換え・論点ずらしを検出》
「が……っ!」
一段、空気が薄くなる。
ケンゴの声が掠れ、咳き込む音だけが残った。
サカキだけは動かなかった。
二人の様子と、ウィンドウの条件を交互に見る。
(嘘が通じない。言い換えも通じない。……なら、黙ればいい)
彼は“権利”という言葉を口にしかけて飲み込む。
この場で必要なのは主張ではなく、条件を満たすことだと理解したのだろう。
サカキは口を閉ざした。
沈黙を、解答として置く。
ピ、ピ、ピ。
電子音が鳴り、サカキの頭上に緑のバーが表示された。
《HP:2450 / 2500》
数値が、秒刻みで落ちていく。
2440、2430、2420……。
「……ッ!?」
サカキが目を見開く。
痛みはない。だが、確実に“差し引かれている”感覚だけが残る。
息が浅くなる。手足が冷える。思考が鈍る。焦りだけが増える。
『黙秘を確認。査問ルール[2]に基づき、HPを徴収します』
淡々としたアナウンス。
サカキは歯噛みした。
嘘をつけば酸素が減る。
黙ればHPが減る。
出口に近づくのは、真実だけだ。
「……おい、サカキ……!」
ケンゴが声にならない声で縋る。
だがサカキは答えない。答えれば、何かを“確定”させてしまうからだ。
エリカは床に手をついたまま、必死に空気を吸う。
涙は自然に出ていた。演技の必要はない。恐怖が勝手に作る。
「……く、そ……!」
エリカが、途切れ途切れに言葉を絞り出す。
恐怖が打算を上回った。視線が隣のケンゴに向く。
「ち、がう……!」
エリカが、ケンゴを指差した。
「アタシじゃない……! アタシは、やりたくなかったのに……こいつが!」
ピンポン。
軽いチャイム音が鳴る。
《判定:真実(True)》
《内部告発を確認:ペナルティ解除》
《減刑ポイント:+10》
《出口距離:微減》
「は、ぁ……っ! はぁ、はぁ……!」
エリカの周囲に空気が戻る。
彼女は床に突っ伏し、貪るように呼吸する。命が戻る感覚に、声が震えた。
同時に、処理が走った。
三人の端末が強制起動し、通知が空中へ投影される。
《処分実行(仮)》
対象:ケンゴ(Bランク)
根拠:同種苦情の累積/内部告発(一次)/接触履歴の一致
措置:探索者ライセンス一時停止(審査中)
資産:示談金相当額の差押(被害者返還口座へ送金予約)
付記:追加審査対象(恐喝・強要の疑い)
「な、んだこれ……!?」
ケンゴのスマホが通知音を鳴らした。
送金予約——奪った金が、返る手続きだ。
「ふざけんな……! 返せ! 俺の金だ!」
「俺の、じゃないでしょ……」
エリカは呼吸を整えながら、震える声で畳みかける。
いまなら“真実判定”が助ける。彼女は、それを理解した。
「そうよ……こいつが言ったの! 『カモがいそうな顔してる』って! アタシは逆らえなかっただけ! サカキだって、全部——」
サカキが鋭くエリカを睨む。
だが、睨み返す余裕はエリカには戻ってきた。生きたい。
ピ、ピ、ピ。
サカキのHPがさらに落ちる。沈黙の手数料は止まらない。
《HP:2380 / 2500》
《徴収:継続》
サカキが、ついに口を開きかけた。
言葉を選ぶ。どこまでが“真実”で、どこからが“致命傷”か。
その瞬間、頭上のウィンドウに新しい項目が追加された。
《監査ストリーム:WatchNet》
状態:準備
備考:監査項目の選定により、証拠開示が進行します
『次工程を準備します』
機械音声が告げる。
《査問ログ:更新》
《次工程:監査ストリーム(WatchNet)開始》
《監査投票:項目選定(証拠開示)》
そして、最後にタイマーが表示された。
《WatchNet:接続開始まで 10… 9… 8…》
次の更新予定
2026年1月13日 20:13 毎日 20:13
その苦情(ヘイト)、処刑用ダンジョンにしてお返しします 〜窓際係長の裏仕事は、規約違反者を「特別招待」するGMでした〜 他力本願寺 @AI_Stroy_mania
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