第20話 昔の話
魔導王(ソル)が去った後の静寂。
アークは、シオンに導かれるまま旧校舎の地下、分厚い石扉の奥へと足を踏み入れた。
「アーク。お前が見ている今の魔界は、彼らが作り上げた『結果』に過ぎない。……だが、その礎には多くの血と、語られぬ誓いがある」
シオンの手がアークの額に触れた瞬間、視界が弾けた。
色彩が逆流し、意識は数十年先——先代魔導王ダビデが支配していた、暗黒の魔界へと飛び込む。
十数年前以上前
「――おいソル! 足が止まってるぞ! 頂上(てっぺん)まではまだ半分だ!」
先頭を駆けるのは、若き日のカイ・ヴァロー。
その背中には、まだ不完全ながらも魔力を吸い込み循環させる黄金の輝きが宿っていた。
「わかってるって! でもカイ、この階層のトラップ、さっきからエグすぎない!?」
若き日のソルが、ボロボロの外套をなびかせながら叫ぶ。
その後ろを、冷静に魔導銃を構えるセーラ、幼さを残しながらも膨大な魔導書を操るセル、そして五人の影として立ち回るシオンが続く。
当時、魔界は先代魔導王『ダビデ』の圧政下にあった。
ダビデは「魔力は高貴な上流階級の血筋にのみ許された神聖なる雫」と定義し、それ以外の種族が魔力を持つことを禁じた。逆らう者は「塔」の糧として魂を吸い尽くされる、絶望の時代。
五人は、その地獄を終わらせるために立ち上がった「反逆者」だった。塔の第70階層。そこは「処刑場」と呼ばれる、先代魔導王ダビデの狂気が最も色濃く現れた場所だった。
アークの意識の中で、若き日のソルたちが目にしたのは、無惨な光景だった。
巨大な魔導装置に繋がれ、強制的に魔力を吸い上げられている若き魔族たち。その中には、後に七魔神となるルシアン、バルカン、そして幼さを残したアスモの姿もあった。
「……あ、あと少しだ……。あいつに魔力を捧げれば、家族は……」
バルカンが、焦げ付いた腕で装置にしがみついている。
そこへ、天井から不気味な影が降り立った。エルセデスへの絶対的な忠誠を誓う、旧七魔神の一人、『剥奪のゼノス』だ。
「無駄ですよ。貴様たちの命も、家族の命も、すべてはダビデ様の永遠のための礎。誇らしく散りなさい」
ゼノスが冷酷に杖を振るうと、装置の出力が跳ね上がり、バルカンたちの絶叫が轟く。
「――なんて酷いことを。命を、なんだと思っているの……!」
セーラの凛とした怒声が響いた。彼女は魔導銃を構え、ゼノスが放つ魔力の刃を次々と撃ち落とす。
「カイ、ソル! この子たちの魂が装置と直結してるわ。ゼノスを倒しても、装置を止めなきゃこの子たちは助からない!」
「わかってる、セーラ! ……ソル、やるぞ!」
「うん……。誰も、見捨てさせない!」
「友達」への宣誓
装置から漏れ出す「死の魔力」を、ソルが自らの体に吸い込み始める。
「ソル、よせ! お前の体じゃ耐えられない!」
カイが叫ぶが、ソルは止まらない。
「カイ、君の『循環』で、あの子たちの魂と呪印を切り離して! 装置からの逆流は僕が全部引き受ける! 旧七魔神なんて、僕たちの『絆』で蹴散らしてやるんだ!」
「……っ、相変わらずおめでたい奴だ。……セーラ、あの化け物を抑えてくれ!」
「ええ、任せて。……一歩も近づかせないわよ!」
セーラが両手の魔導銃を連射し、ゼノスを牽制する。その隙に、カイがルシアンやバルカンたちの体に触れ、彼らの魂にこびりついたエルセデスの呪印を、己の「循環」で強引に引き剥がしていく。
「ぐ、あああああッ!!」
ソルの銀髪が、一瞬でどす黒く染まるほどの苦痛。
だが、ソルは膝をつきながらも、解放されたルシアンの手を握った。
「……もう、誰かのために死ななくていいんだ。……次は、僕と一緒に、あいつ(ダビデ)を倒しに行こう」
ルシアンは、震える手でソルの手を握り返した。
その横では、セーラがバルカンの傷ついた腕へ駆け寄り、応急処置を施している。
「もう大丈夫。……私はセーラ。あっちの暑苦しいのがカイで、君の手を握ってるのが、ソルよ」
バルカンやルシアンは、自分たちのために血を吐きながら笑う人間(カイ)と、自分たちの呪いを肩代わりした魔族(ソル)、そして眩しいほどの光を背負う女性(セーラ)を見て、生まれて初めて「恐怖」ではなく「情熱」で魔力が昂るのを感じた。
「……ああ。……あんたらに、全部預けてやるよ」
これが、魔界の歴史が変わった瞬間。
旧七魔神という「壁」を乗り越え、今の七魔神がソルの「共犯者」となった始まりだった。
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