第17話 七魔神襲来

一夜明け

アークは全身の痛みに耐えながら、キースとルナと一緒に中庭を通って旧校舎へ向かっていた。

​だが、その時。学園の空が、あり得ない色に変色した。

どす黒い紫の雲が渦を巻き、雷鳴ではない「絶叫」のような音が響き渡る。

​「な、なんだよこれ……。おいアーク、空が落ちてくるぞ!」

キースが震える手で空を指差す。

その瞬間、学園の時計塔の頂上に、一人の女性がふわりと降り立った。

​「あら。ここがあのお方のお気に入りの子がいる学園? 思ったより……退屈そうな場所ね」

​鏡を弄び、桃色の髪をなびかせて艶然と微笑む。彼女の周囲だけ、空気が甘く、そして毒のように重い。

色欲の魔神、アスモだ。

​「アスモ! 一人で行くなとあれほど言っただろう!」

​空間が力ずくで割れ、燃え盛る炎と共に屈強な大男が現れる。一歩踏むごとに石畳が溶けていく。

憤怒の魔神、バルカン。

​「ひっ……バルカンに、アスモ……? 嘘でしょ、伝説の七魔神がなんでこんなところに……」

ルナが顔を青ざめさせ、その場にへたり込む。

だが、異変はそれで終わらなかった。

​「……あーあ、ねむいなぁ。寝かせてよ……」

巨大な枕に寝そべり、空中に浮遊しながら現れた怠惰の魔神、スロウス。

「これ、全部僕の。触ったら、殺すから」

無数の金貨で作られた絨毯に乗り、学園の備品を値踏みするように眺める強欲の魔神、マモン。

「……汚らわしい。人間などと同じ空気を吸わせるとは、王も酷なことを」

一歩歩くごとに周囲を凍りつかせ、不機嫌を絵に描いたような傲慢の魔神、ルシアン。

「ムグ……この学園の食堂、美味しいものある?」

巨大な肉塊を骨ごと咀嚼しながら、無邪気な恐怖を撒き散らす暴食の魔神、ベル。

「……ふふ、あの子ね。あの子が、あの二人の……」

水溜りの中から音もなく現れ、アークを凝視する嫉妬の魔神、レヴィ。

​「…………!!」

アークは息を呑んだ。

七魔神が揃って放つ威圧感は、生物としての生存本能をへし折るのに十分すぎた。全生徒が恐怖でおののき動けなくなっている。

​「……まったく。お前たちはもっとまとまれないものなのか」

​七人の中心に、黒い外套を翻して魔導卿セルが降り立った。

七魔神たちが、一斉に、だが不遜な笑みを浮かべたままセルへ頭を下げる。

​「アーク・ヴァロー。今日からこの学園のカリキュラムは破棄される。お前はこれから、七魔神全員による『選別』を受けてもらう」

​「選別……?」

アークが絞り出すような声で聞き返す。

​「そうだ。お前が塔を登るに値する器か。それとも、ここで壊れるだけのゴミか。……まずはアスモ、お前からだ」

​セルが冷酷に告げると、アスモが妖しく目を輝かせ、アークの目の前に音もなく移動した。

その指先がアークの顎を掬い上げる。

​「ええ、楽しみだわ。貴方の魂が、私の愛(地獄)でどんな色に染まるのか……」

​アークの視界が、ピンク色の霧に包まれていく。

背後でキースとルナが叫ぶ声が、遠くなっていく。

これが、最初の、そして最大の試練の始まりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る