第16話 魔界三傑
森の入口から地鳴りのような響きと共に現れたのは、三つの影。
それは魔界の秩序を支える、三つの頂点――『魔界三傑』だった。
「これはこれは、魔導王様。わざわざ塔を降りられるとは、よほどこの森の害虫がお気に召さなかったと見える」
豪快な笑い声と共に現れたのは、アークたちの通う学園の長、ヴォルガノ。岩山のごとき巨躯を震わせ、杖を鳴らす。
「ヴォルガノ、私語はおやめなさい。王の御前ですよ」
冷徹な声で嗜めたのは、北の『水銃学園』の長、イザベル。その周囲には、触れるものすべてを貫くような鋭利な魔力が渦巻いている。
「……ふむ。我が学園の教員が不祥事を起こしたと聞き、急ぎ参じたが……すでに無に帰したようだな」
最後に、霧の中から静かに現れたのは、西の『精錬学園』の長、バルトロメウスだ。知的な眼鏡の奥で、底の見えない瞳がアークを一瞬だけ捉え、すぐに逸らした。
三人が揃った瞬間、森の重力が増したかのような錯覚に陥る。
「じ、祖父様……!」
ガレスが折れた杖を握り、情けなく声を漏らす。だが、ヴォルガノは孫を一瞥もせず、ただ地面に膝をつき、魔導王(ソル)へ頭を垂れた。
「三傑のみんな、お疲れ様! ちょうどお掃除終わったところだよ」
ソルはちゃけながらも、空中で足を組んだまま、三人を見下ろした。
「ところでバルトロメウス。君のところの教員、ずいぶん『黒いもの』を溜め込んでたみたいだけど。何か知ってる?」
ソルの声から温度が消える。
その瞬間、それまで傲慢に立ち並んでいた三傑の三人が、一斉に、地面にめり込むほどの勢いで跪いた。
「……滅相もございません。すべては私の不徳の致すところ。以後、徹底した粛清を行います」
バルトロメウスが額を地面につける。
「……ならいいんだ。信じてるよ、みんなのこと」
ソルは再び陽気に笑ったが、その黄金の瞳は、三傑の影をじっと見つめていた。
学園に戻ったアークを待っていたのは、キースとルナだった。
「アーク!! 無事かよ! お前、大丈夫だったか?!」
「あんた、またボロボロじゃない! ほら、座りなさいよ!」
二人はいつもの談話室で、アークに駆け寄った。
キースは震える手で『魔界トカゲの燻製パン』をアークに押し付け、ルナは文句を言いながらも手際よく包帯を巻き直していく。
「……なぁアーク。学園じゃ、お前のせいでヴォルガノ様が激怒してるって噂だぞ。お前、消されるんじゃないか?」
「わからない。でも、それでも僕は強くならなきゃけないんだ。
その夜。
中央棟の長い廊下で、アークは一人佇む三傑の一人水銃学園 学園長イザベルと遭遇した。
「アーク・ヴァロー。……怪我の具合はどうですか?」
「……イザベル様。ありがとうございます。なんとか」
「ヴォルガノ殿は、貴方の存在を学園の秩序を乱す毒だと考えています。彼は『力』を信奉する余り、時として過激な手段を選ぶ。……困ったことがあれば、いつでも私に言いなさい。私は、貴方の両親が守ろうとしたこの世界を、貴方にも愛してほしいのです」
彼女の優しく、清らかな微笑み。
アークは、魔界という地獄の中で、初めて「大人」の温もりに触れた気がした。
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