第14話 精霊の森
「ふん、足手まといだけは勘弁してくれよ、人間」
学園北方に広がる『腐りゆく精霊の森』。
ガレスは最高級の魔導杖を振るい、道を塞ぐ汚染された蔦を焼き払いながら、背後のアークを冷たく突き放した。
「……分かってるよ。それより、この森の魔力が『枯れてる』って話、本当みたいだ。さっきから吸い込める魔力がほとんどない」
アークは周囲の空気を探る。いつもなら大気に満ちているはずの魔力が、まるで見えない「何か」に吸い取られているかのように希薄だった。
「当たり前だ。だからこそ、三傑の一人である我が祖父――ヴォルガノ学園長も懸念しておられるのだ」
ガレスが誇らしげに語る。
魔界には三つの巨大な学園があり、その頂点に立つ三人の学園長は『魔界三傑』と呼ばれ、魔導卿セルからも信頼を置かれている。
「我が祖父、そして西の『精錬学園』の長、北の『水銃学園』の長。この三人がいれば魔界の秩序は盤石……。お前のようなイレギュラーが入り込む隙などない」
ガレスの言葉を肯定するように、森の奥から不気味な地鳴りが響いた。
頂上からの視線
その頃、ソルの塔のバルコニー。
魔導王は、遠く精霊の森を眺めながら、手すりに腰掛けて足をぶらつかせていた。
「あーあ、アーク君たち、もう着いたかな? セル、ちょっと厳しすぎじゃない? あの森、今かなり『マズいこと』になってるでしょ」
背後には、魔導卿セル、そして七魔神たちが勢揃いしていた。
「……兄上。彼が『カイとセーラ』の息子であるなら、あの程度の絶望は乗り越えてもらわねば困ります」
セルが冷徹に告げると、傲慢のルシアンが鼻で笑う。
「ふん、三傑の孫(ガレス)も同行させているのでしょう? ヴォルガノの血筋がいれば、あの程度の森、更地にするのも容易い。……もっとも、あの人間が盾にでもなればの話ですがね」
「……ルシアン。あまり三傑を信用しすぎるな」
憤怒のバルカンが重苦しく口を開く。その一言で、その場の空気が一気に張り詰めた。
「……何だと? 貴様、セル様が選んだ三傑を疑うのか」
「……いや。ただ、あまりにも『静かすぎる』のが気になるだけだ」
「あはは、みんな喧嘩しないでよー」
ソルが笑いながら、ふっと瞳の奥を黄金色に輝かせた。
その瞬間、それまで不遜な態度をとっていたルシアンや、不気味に微笑んでいたアスモ、寝ていたスロウスまでもが、本能的な恐怖に体を強張らせ、その場に跪いた。
ソルから漏れ出たのは、魔力という概念を超えた、「存在そのものを消去する」ような絶対的な威圧。
「三傑の中に『嘘つき』がいたら、俺、ちょっと怒っちゃうかも。……ねえセル。その時は、俺が直接掃除してもいいかな?」
「…………。兄上の御心のままに」
セルの返答に、七魔神たちは冷や汗を流しながら頭を垂れた。
普段はちょけている王が見せる、底なしの深淵。彼らは知っている。この王が本気で「力」を振るう時、魔界の法則そのものが書き換えられることを。
一方、森の最深部。
アークとガレスの前に現れたのは、魔力を吸い尽くされ、ミイラのように干からびた巨大な原生生物の山だった。
「……なんだ、これ……」
ガレスの声が震える。
その死山の頂上に座っていたのは、精錬学園の服を着た一人の教官だった。だが、その瞳はどす黒く濁っている。
「――ようこそ、お坊ちゃん方。この魔界も、もうすぐ終わる」
アークは右拳を握り込んだ。
裏切り、陰謀、そして王の視線。
アークの「遊撃騎士」としての初任務は、魔界を揺るがす大事件の幕開けとなった。
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