第12話 ライバル

「……う、ん……」

​アークが次に目を開けたとき、視界に飛び込んできたのは、見慣れた旧校舎の医務室の天井だった。

​「アーク! 起きたか! お前、マジで死ぬかと思ったぞ!」

​真っ先に顔を覗き込んできたのは、親友のキースだった。安堵のあまりか、その顔は少し引きつっている。

​「……キース。僕、帰ってこれたんだな」

​「『カイン・アルヴァ』相手にあんな無茶するなんて、お前くらいだよ」

​隣では、ルナが腕を組んでそっぽを向いていたが、その耳は赤くなっている。

​「……あんた、自分がどれだけ危ない橋を渡ったか分かってるの? あのカインは執行部の筆頭格よ。魔導卿の直属組織で、魔界の秩序を守るために不穏分子を『排除』する、いわば掃除屋よ」

​「掃除屋……」

​アークの問いに、部屋の隅で酒瓶を傾けていたゼファー先生が口を開いた。

​「執行部ってのはな、表向きは魔界警察のようなもんだが、実態は魔導卿セルが手塩にかけて育てた『私兵集団』だ。魔界の規則を乱す奴や、兄である魔導王の不利益になる芽を摘み取る。その筆頭があのカイン・アルヴァだ」

​ゼファーはアークのボロボロの右腕を指差した。

​「あいつは魔族でありながら、生まれつき体内の魔力回路が死んでいる『欠陥品』だった。魔族社会じゃ生きていけねぇはずだが、魔導卿セルがあいつを拾い、魔力を外に出さず細胞の隙間に押し込むことで身体能力を極限まで高める『技術』を叩き込んだのさ。魔力に頼らないあいつは、魔力を喰らうお前にとっちゃ最悪の天敵だったんだよ」

​アークは自分の掌を見つめた。魔力を持たない絶望を知り、それでも技術で頂点へ登り詰めたカイン。魔導卿が彼をぶつけたのは、アークに「奪うだけの力」の限界を教えるためだったのかもしれない。

​「……あいつも、必死に戦ってたんだな」

​「何しんみりしてんのよ。あいつはBランクのエリート、あんたは……まあ、今はAランクだけど。でも、喜んでばかりもいられないわよ」

​ルナが溜息をついたその時、医務室の重い扉が、音を立てて開け放たれた。

​「――お前か。シオン様という後ろ盾を使い、魔導王様の気まぐれを誘った卑怯な人間というのは」

​現れたのは、磨き上げられた純銀の鎧と、豪華な魔導杖を携えた少年。学園長ヴォルガノの孫、ガレスだった。

​「警告だ、アーク・ヴァロー。お前のような寄生虫が、我ら選ばれし魔族と同じ地平に立つなど、吐き気がする。……明日、魔導卿セル様より『特別任務』の招集がある。そこで、お前を元のゴミ溜めへ叩き落としてやる」

​ガレスはキースやルナを一瞥し、「掃き溜めのネズミ共が」と吐き捨てて去っていった。

​「なんだよあいつ……感じ悪ぃな!」

キースが憤慨するが、アークは静かに身を起こした。

「掃除屋」とまで称される執行部、そして魔導卿の思惑。

​「大丈夫だよ、キース、ルナ。……僕は、父さんと母さんが見ていた景色を、もっと知らなきゃいけないんだ」

​魔導王(ソル)、魔導卿(セル)、そして七魔神。

アーク・ヴァローの本当の戦いはここから始まる

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