第10話 王
「……へっ?」
アークが拳を構えたまま固まったのは、カインの攻撃を防いだ達成感からではなかった。
「あー、いたいた。おーいシオン、勝手に先行くなよー。俺、お菓子買いに行ってる間に置いていかれたかと思ったじゃん」
闘技場の最上階、本来なら誰も立ち入れない空中に、一人の男がふわふわと浮いていた。
白銀の髪をラフに崩し、軽い足取りでなにもない空間を歩く男――魔導王(ソル)だ。その手には、どこかの露店で買ったらしき串焼きが握られている。
「魔、魔導王様……!? なぜこちらに!」
審判や観客たちが慌てて平伏する中、ソルの背後から「やれやれ」といった様子で数人の影が降り立った。
「……不愉快だ。魔導王様、このような埃っぽい場所、我(オレ)が重力で更地にして差し上げましょうか?」
美しい顔を不機嫌そうに歪め、周囲を見下すのは傲慢のルシアン。
「……静かにしろルシアン。魔導王様は楽しんでおいでだ。」
一言で空気を凍りつかせる威厳を放ち、腕を組んで佇む憤怒のバルカン。
「もー、二人とも怖いんだから。あ、あの人間がアーク君? 思ったより可愛い顔してるじゃない」
幻惑の霧を纏いながら、性別不詳の美しさを振りまく色欲のアスモ。
[あれが魔導王様、それに塔の番人といわれる七魔神······なのか?] 観客席がざわめく
「あ、いいのいいの。ルシアンもバルカンも座りなよ。ほらアーク、続けて続けて! 今の素手で弾いたやつ、超かっこよかったよ!」
ソルは串焼きを頬張りながら、アークに向かって無邪気に手を振った。その姿に、アークは毒気を抜かれ、呆然と立ち尽くす。
「……あの、魔導王様……?」
「いいって『魔導王』で。様付けとか肩苦しいの無し! それよりさ……」
ソルの目が、ふっと細められた。
その瞬間、闘技場全体の温度が数度下がったような錯覚をアークは覚えた。明るい笑顔のままなのに、その瞳の奥には、すべてを見透かし、支配する王の「深淵」が覗いている。
「君、いい目をするようになったね。カイとセーラの面影がある……。でも、それだけじゃカインには勝てないよ? カイン、手加減いらないから。本気で『殺す』つもりでやってよ。俺、そういうの見たいし」
「……御意」
カインの瞳に、王の直命を受けた者の冷徹な覚悟が宿る。
「え、ええええっ!? 殺すつもりって、あんた王様でしょ! 止めてよ普通!」
アークの叫びに、ソルは「あはは!」と笑いながら椅子に深く腰掛けた。
傍らに立つ魔導卿セルが、冷たく、だが兄の奔放さを許容するように見守っている。
「アーク・ヴァロー。兄上がこれほど楽しんでおられるのだ。お前の価値、その命を賭して証明してみせろ」
「……クソっ、どいつもこいつも!!」
アークは黄金の輝きを宿した拳を握り直した。
魔導王たちが見守る中、アークの「本当の地獄」が幕を開ける。
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